嚢腫の治療が優先か、妊活が優先か

Q 卵巣嚢腫の手術と不妊治療、 40 歳の年齢ならどちらが先?

永井泰 先生 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、 埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供す るために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をは じめ、不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わ る総合的な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。卓球が趣味 という永井先生。取材当日はちょうど練習の日。仕事のあと、本館 1階のスタジオで卓球好きのスタッフと汗を流すそうです。華麗なラ ケットさばきで、速く正確に続くラリーにびっくり! かなりの腕前です。

ドクターアドバイス

●4㎝以上の嚢腫があると妊娠中期に茎捻転を起こしやすく、流産や早産の危険性も
●40歳という年齢なら、体外受精で採卵、胚凍結→卵巣嚢腫の治療→胚移植の流れで
りすさん(40歳)からの相談 Q.海外在住で、妊活を始めて6カ月。数年前から右卵巣に卵巣嚢腫があり、昨年11月に一時帰国して診察したら、約 450㎜でした。別の施設でも診てもらったら「あなたは妊 活できる体ではない。すぐに大学病院で卵巣嚢腫の治療を しなさい」と強くいわれました。悩みましたが、生活がある ため居住国へ戻って、当帰芍薬散などを飲みながら自己流 のタイミングを試しています。現在ビザの関係で保険証が なく、居住国での治療は数カ月は難しい状況。私は日本で 体外受精を受けたいと考えていますが、夫は体外受精の話 になると不機嫌になり、とても同意を得られそうにありませ ん。現状の妊活を続けるか、嚢腫の治療をしてから再開す るか、どのような形がベストなのでしょうか。

卵巣嚢腫の大きさが 4.5 ㎝の場合、そのまま にしておかず、摘出したほうがいいのでしょ うか。

永井先生 かなり大きいと思います。
4㎝以上であれば、不妊であってもなくても、妊娠・出産を考えているなら摘出したほうがいいでしょう。
それは、妊娠すると茎捻転を引き起こす可能性が高いからです。
腫瘍のため卵巣の体積が増え激しい運動や体位変換、腸の動きなどで子宮や骨盤とつな がっている靭帯がねじれてしまうんですね。
嚢腫が3㎝以下の場合だったら、ねじれることはほとんどありません。
茎捻転は妊娠中期に起こり、激痛を引き起 こします。
緊急手術になると流産や早産になることもあるので、安全な形で赤ちゃんを産むために、嚢腫が大きい方は事前に取り除いておくことが必要ですね。

では、りすさんもすぐに手術をしたほう がいいですか?

永井先生 35 歳前の方だったら、不妊治療 より卵巣嚢腫の治療を優先することをおすすめすると思います。
しかし、卵子の老化が進んできている 40 歳以降の方だったら、先に不 妊治療をしたほうがいいでしょう。
りすさんの嚢腫はどのような種類なのでしょうか。
奇形腫だったらそれほど影響はありませんが、子宮内膜症を伴うチョコレート嚢腫だった場合、術後は卵巣機能がさらに低下してしまいます。
そのようなことを考えても、まずは不妊治療を優先したいですね。
それもこれまで半年やって結果が出なかっ たタイミング法ではなく、妊娠率の高い体外受精にステップアップして、早めに受精卵を確保しておいたほうがいいと思います。
今の 状態だと、ちゃんと卵子が採れるのか、受精卵ができるのかどうかもわかりませんから、 一度トライして、確かめてみることも必要だと思いますね。
年齢別の体外受精の妊娠率統計を見ると、40 歳で胚を6個もっていると、生児獲得率が だいたい 63 %、 41 歳だと 54 %程度となってい ます。
そうすると、採卵して、少なくとも5個前後の凍結胚を確保しておけば、妊娠の可 能性が見えて、気持ち的にも安心するのではないでしょうか。

胚を凍結してから、卵巣嚢腫の治療にかか るということですね。

永井先生 卵巣嚢腫は開腹手術ではなく、腹腔鏡を使って処置できるので、患者さんの負担は比較的軽く、 3 〜 7 日で退院できます。
術後3〜6カ月で妊娠可能な状態になり、それから移植ということになります。
40 歳でも 移植はそれほど急がなくていいので、半年近く待っても問題はないでしょう。
このような流れが最適だと思いますが、心 配なのがご主人の同意が得られるかということ。
不妊治療はご夫婦の気持ちを一つにして臨むことが大切です。
診察時にご主人も同席して医師の説明を受ける、もしくはIVF説明会などに参加して、妊娠や体外受精に関してご夫婦で共通の認識をもちましょう。
治療を始める前に、まずはその部分をクリアすることが重要だと思います。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。