不妊治療の内容は、その人それぞ れの状況によって異なります。
現 在の自分の状況を把握し、治療を 検討するうえで役立つ、浅田レ ディースクリニック・浅田先生の 基本的な治療ガイドを前編・後編 に分けてご紹介します。
ドクターアドバイス
● 治療の期間や内容は、年齢、AMH、人生設計の3要素で考えよう。
● 凍結融解胚移植は妊娠率が高い。 2人目を望むなら受精卵の凍結を。
基本はステップアップ 体外受精に至るなら スプリットでより確実に
現在、ほとんどの人は治療に来る前に、タイミングくらいはとっていると思います。
精子は3~5日くらいは卵管内で生きているといわれますから、通常の夫婦生活では、逆にタイミングを外すほうが難しいのです。
「不妊症」と言われたら、つまりほかに原因があるわけです。
ところが、不妊はほかの病気と違って、基本的な原因が特定できないことがほとんどです。
最初の検査では、排卵の有無や卵管の詰まり、精子の状態など、ある程度外からわかる原因を探りますが、そこで根本的な治療ができる人はほんのわずか。
ですから、少しずつ治療のレベルを上げて結果を求めていくステップアップが、不妊治療の基本となるのです。
治療の最初の一歩は、タイミングに付随して排卵誘発剤を服 用するなど、より排卵を確実にして夫婦生活をもつことからです。
次の段階は人工授精ですが、もともと精子の数が少なくて、卵管が通っていれば、最初から人工授精もあり得ます。
その次の体外受精では一気に受精卵の段階まで進めますが、その何個かの受精卵のうち1 個が赤ちゃんまで育つ確率は、カップルによって異なります。
それは二人の遺伝子の組み合わせやそのバランス、組み換えなど、受精卵 1 個ずつで兄弟分の差があるように、すべてで質も違うためです。
欧米の学会の発表では、体外受精で出産に至るまでの平均的な採卵個数は 25 ・ 1 個、 38 歳以下に 限ると6~ 16 個といわれています。
つまり、赤ちゃんになる 卵子というのは続けて何個もあるわけではないのです。
当院で体外受精を行う場合は、スプリットといって顕微授精と媒精を併用する方法を採用しています。
これは、私自身が顕微授精専門でずっとやってきたこともありますが、顕微授精の受精率が 80 %以上に対して、媒精の受精率はやはりど うしてもそれを下回る 70 %程度に留まるためです。
卵子の数 が少ないなど大事な卵子になればなるほど、その卵子を有効に使うための当院の方針です。
治療方針を決めるのは 年齢と卵巣予備能、 そして人生設計の三要素
以上が治療の一般的な流れですが、今注目すべきことのひとつに、卵子は年齢とともに老化するということがあります。
つまり、ステップアップの期間を1~2年間でやるのか、ぐっと縮めて半年くらいで進めるかは、年齢で考えなくてはいけないし、40 歳過ぎであれば、ステップアップの段階 をある程度省略するくらいの考えで進めなくてはいけないということです。
さらに、もうひとつ重要なのは卵巣予備能です。
これは今現在、卵巣にどれくらい原始卵胞が残っているかを知る目安であり、それを示すのがAMH(抗ミュラー管ホルモン)です。
ただ、AMHは個人差があり、必ずしも年齢に比例しないので、 30 代でほとんどゼ ロの人もいます。
さらに卵子の数と老化は必ずしもリンクせず、年齢が若い人で卵子の数が少なくても、高齢で卵子の数が多い人よりは妊娠する率は高くなります。
ですから、ある程度の基本の治療の流れをどう運用していくか、判断していくかは年齢と卵巣予備能の2つを基準に考慮することが大切になります。
最近、卵巣年齢という言葉もよく聞きますが、これは数も古さも一緒だと誤解を受ける言葉で適切ではありません。
「卵巣(予備能)」と「年齢」の二要素で考えるべきです。 さらに、不妊治療だけ語ると忘れがちになるのが出産後の子育ての問題です。
お産や子育ての前に不妊治療があるわけで、 40 代であれば年齢的にも子育てする大 変さを考えるべきです。
同じ年齢でもAMHは非常に不平等ですから、治療の期間も内容も個人によってまったく違ってくるのが当然です。
たとえば、当院では受精卵はすべて凍結保存しますが、 30 代でまだ卵子に余裕があ るとしても、2人目、3人目を望むのであれば、1人目の時の受精卵を凍結しておきます。
そうすれば、その後の計画も立てやすいうえ、凍結卵のほうが常に妊娠率も高めです。
要は、年齢と卵巣予備能の二要素にプラス、ご自分の人生設計という三要素目を加えて考えることで、それに見合った結果の出る治療を選択していくことができます。
次回は、以上のようなスタンスに基づいて、より具体的な治療の目安と内容についてお話ししたいと思います。