「何度移植してもなかなか着床しない」「胚盤胞を移植しても結果が出なかっ た」など、着床しない原因やその治療法などについて、大島クリニックの 大島隆史先生にお話を伺いました。
胚盤胞まで到達しても40 代だと異常率は7割以上
着床は胚、ホルモン、そして胚 を受け取る側の子宮という3つの 要素で成り立っています。
着床し ない、いわゆる着床障害と聞くと、 子宮側の問題だと考える人が多い かもしれませんが、筋腫が飛び出 ていたり、子宮内膜が極端に薄い などの条件を除けば、子宮だけが 原因というのは少ないのではない でしょうか。
ホルモンに関しても、 体外受精の場合は後からホルモン を補充しますから、ホルモンの状 態だけが悪くて着床しないという のも考えにくい。
そうなると、特 に 40 歳以上の方の場合、着床する かしないかというのは胚が大きく 関わっているような気がします。
「その胚が、最終段階の胚盤胞まで育てば妊娠率が高いのでは?」 と思われるかもしれませんが、た とえ胚盤胞までいったとしても、 必ずしもいい状態の受精卵だとは いえません。
グレードのいい胚盤 胞を戻しても妊娠しなかったり、 逆にグレードの悪い胚盤胞であっ ても、「これは明らかにダメだろ う」という胚を戻して妊娠・出産 される方もいるんですね。
胚盤胞になり、グレードが良く ても、それは見た目の細胞の量で 評価しているものなので、中身が いいかどうかははっきりとわかり ません。
胚盤胞までいっても、 40 代の方だと染色体の異常が起こる 確率は 7 割以上といわれていま す。
胚盤胞移植という好条件でも、 若い方と比べるとどうしても着床 率が下がってしまうのは避けられ ない事実だと思います。
とはいえ、胚盤胞になるというのはやはり力をもっている受精 卵なんですね。
すべての受精卵が 胚盤胞になるわけではなく、初期 胚から胚盤胞まで到達する確率 はだいたい 25 ~ 40 %といわれて います。
そういう意味では自然に 振り分けられているわけですか ら、胚盤胞までいった受精卵のほ うが着床・妊娠率は高いのではな いかと思います。
凍結融解胚盤胞移植で 着床のタイミングを 合わせる
代の方の場合、胚盤胞の染色 体異常率は7割以上と前述しましたが、では残りの3割のチャンス を生かすためにはどうしたらいい でしょうか。
私が大切だと思っているのは着 床のタイミングをしっかり合わ せること。
着床のタイミングは排 卵から数えて7日±2日の間とい われています。
胚の戻し方には凍 結と新鮮の2通りあると思います が、タイミングを合わせるために は、胚盤胞を凍結してホルモン補 充周期で移植するのが最適で、妊 娠率も上がるのではないかと思っ ています。
ほかに、着床のために効果的な 方法があるかどうかについてで すが、残念ながら劇的に改善する 方法はありません。
患者さんご自身でできるものとして、当院で はDHEAのサプリメントをおす すめしており、高齢の方でも採れ る卵子の数が増えたり、なかには 自然妊娠された方もいらっしゃい ます。
ただし、効き目に個人差が ありますし、改善率が極端に高い わけではないのです。
私個人の考 えとしては、年齢が高い方は治療 に集中して、できるだけ多くの卵 子を確保しておくことが重要だと 思っています。
時間をかけて卵子 の質を改善しようとするより、と にかく着床・妊娠の確率を上げる ということですね。
体外受精における妊娠の予測値 というデータがあり、それによる と 34 歳以下の方で 15 ~ 30 個卵子が採れると、出産までいく確率が39 %程度。
ところが 40 歳以上にな ると、 15 個採れても 15 %程度なん ですね。
40 歳以上で一度に 15 個も 採れることは少なく、だいたい2 ~3個。
4回採卵して1回につき 3個、 12 個くらいになると 10 %を 少し超えた妊娠率が得られるかも しれない。
卵子がまだ採れるうち に4、5回採卵をして、ある程度 卵子の数を確保しておけば、着床・ 妊娠の望みはあると思います。
着床前診断の効果はまだ 明確に認められていない
また、皆さん、気になっていると思われる受精卵の着床前診断に ついてですが、これには「診断」 と「スクリーニング」の2種類が あります。
現在、国内でできるの は診断で、これについては学会に 申請して認められれば、遺伝子疾 患や習慣性流産など特定な疾患に ついて調べることができます。
すでに欧米では実施されている スクリーニング検査は、受精卵の5 日目8細胞の一部を採って染色 体や遺伝子を調べ、いい受精卵か どうか見極めて選別するものです が、それが妊娠に効果的かどうか はまだはっきりわかっていませ ん。
ヨーロッパの文献では、スク リーニングで異常がない受精卵を 戻した例と何もしなかった例を比 べた場合、後者のほうが妊娠率が 高かったという報告もあります。
このような現状を考えれば、や はり確率を上げていくことが現実 的。できれば 43 歳くらいまでに集 中して、採卵を頑張っていただき たいと思います。