主人の病では妊娠は不可能?

精子無力症の夫、 顕微授精するも3回の初期流産。

妊娠できるか不安です

蔵本 武志 先生 1979年久留米大学医学部卒業。1985年山口大学大学院修了。 医学博士。1995 年 6月蔵本ウイメンズクリニック開院。開院当時 より、体外受精、顕微授精をはじめ、一般不妊治療や生殖医療の 研究を広く行う。山口大学非常勤講師、久留米大学医学部臨床教 授。多忙ななかの癒しは、ミュージカル鑑賞。家族で楽しむほか、病 院スタッフの希望者全員を連れて鑑賞することも。福岡で公演中の 「美女と野獣」は、すでに家族と一緒に1 回鑑賞! あと2 回は行 きたいな~と、好奇心旺盛な少年のような先生でした。
なのむさん(24歳)からの相談 Q.主人は、原発性線毛機能不全により重度の精子無力症です。そのため顕微授精 での治療をすすめられ、これまで4回の移植を行いましたが、妊娠が継続する ことはなく、初期流産を3回繰り返しました。私には不妊要因はなく、割と妊娠 しやすいほうだと思っています。そのため、初期流産を繰り返すうち、主人の 病が原因で妊娠できないのではと思うに至りました。どんなに調べても主人の 病で子どもを授かった例が見つからないからです。通っている不妊治療医院の 先生は、一度は妊娠しているんだからまたいつか必ず妊娠すると言われますが、 やはり不安です。以前、1回目の不妊治療で妊娠した際、主人の呼吸器系の担 当医から「奇跡だね」と言われたことがあります。このこともあり、このまま不妊 治療を続けて本当に赤ちゃんを授かることができるのか不安です。

男性不妊について

ご主人の病はどのようなことが考えられま すか?
蔵本先生 まずご主人に呼吸器系の疾患があ ることに注目したうえで、ご主人の状態が、 原発性線毛機能不全や、重度の精子無力症で あることを考えますと、カルタゲナー症候群 あるいは、線毛不動症候群の可能性が高いと 診断いたします。
確定診断のためには検査が 必要ですが、カルタゲナー症候群は、約2万 人に 1 人の割合で発症するまれな病気で、線 毛のダイニンアームの欠損が原因で線毛の運 動性がなくなる常染色体性の劣性遺伝病です。
主な疾患として、気管支拡張症、慢性副鼻腔炎、 内臓逆位(右胸心)、男性不妊などが起こりま す。
ただし、内臓逆位については、100% そうとは言えません。また、線毛不動症候群も、 必ずしも内臓逆位を伴いません。
ご主人の場合、精子は鞭毛の機能障害があ り、生きていてもほとんどが動いていない精 子不動症であるため、やはり顕微授精(IC SI)の適応となります。

HOSテスト

受精能力のある精子の見極めはどうしたらい いですか。
蔵本先生 もしも運動している精子が見つか らない場合、精子をきれいに洗浄した後、ペ ントキシフィリンという薬剤の入った培養液 に 10 分くらい精子を入れておくと、場合によっ ては動き始めることがあり、これを使用して ICSIを行います。
また、どうしても動い ている精子がなければ、精子を浸透圧の低い 液に入れると、生きている精子は尾部の構造 が変化して膨らんできます。
これをHOSテストと言います。
この尾部 の膨らんだ精子には受精能力があるため、生 きていると判断して、ICSIを行います。
質のいい精子を採取するにはどうしたらいい ですか。
蔵本先生 精子は精巣内で 1 回に大量に生産 されます。
いったんつくられた精子は精巣上 体に留まり、射精を待つのですが、 1 週間以上も射精しなければ、精巣上体の中で精子が 死んでいき、ほかの生きている精子にも悪影 響が出ることが予想されます。
したがって、 頻回(できれば週に 2 回程度)に射精し、常 に新鮮な精子が射精できる状態で、精子の質 を上げることも大事です。

カルシウムイオノフォアやTESE

受精率を上げる方法があるのでしょうか。
蔵本先生 運動精子がなく、HOSテストで 探した精子を用いて、ICSIを行った場合 の受精率は、ICSI当たり 10 ~ 50 %と低率 です。
毎回、受精率が不良な場合、ご主人の 精巣からより新鮮な精子を取り出すTESE (精巣内精子回収術)を行う方法もあります。
ただし、この場合も、ペントキシフィリンや、 HOSテストを用いて精子を選別します。
そ れでも受精率が悪ければ薬剤(カルシウムイ オノフォア)などを用いて卵子活性化を図る ことで受精率は上がります。
海外からの報告では、このような精子の方 には、射精した精子を用いてICSIするよ り、TESEにて採取した精巣内精子を用い てICSIしたほうが、受精率や受精卵の発 育は良いようです。
カルタゲナー症候群の男 性患者さんの精子を用いてICSIを行い、 妊娠・出産された事例は国内外で報告されて います。
流産も多いようですが、諦めなけれ ば出産される可能性はあるのではと思います。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。