2回も自然妊娠を経験し、 いい受精卵もできているのに 妊娠できないのはなぜ?
伊藤 哲 先生 順天堂大学医学部卒業、同大学院修了。順天堂大学医学部産婦 人科学講師、国際親善総合病院産婦人科医長を経て、1999年あ いウイメンズクリニック開院。日本生殖医学会生殖医療専門医。平 日は予約なしでも診察を受けられますが、今年の4月から土曜日の診 察を完全予約制に。待ち時間が減るので患者さんにとっても負担が 軽減。予約は電話で受け付けています。
ぶちゃさん(32歳)からの相談 Q.自然妊娠で一度流産した後、再び授かり、無事出産。次の子を望み、また子づ くりを始めましたが妊娠する気配はなく、原因不明で人工授精3回を経て体外 受精へと進むことになりました。10個の卵子が採れて、4個を体外受精、6個 を顕微授精で臨んだところ、体外受精は全滅、顕微授精の分はすべて胚盤胞に なり、凍結。グレードも良く、医師に太鼓判を押されるほどでしたが、4回移植 して一度だけ着床はしたものの、化学流産で終わりました。その後転院し、完 全自然周期採卵で新鮮胚移植(3分割/グレード1)をしましたが、まったくかす りもせず陰性でした。32歳の年齢で、いい受精卵も毎回できているのになぜ 妊娠できないのか? まして「2回も自然妊娠できているのになぜ?」と理由がわ からず、落ち込んでいます。このまま治療の数をこなすしかないのでしょうか。
見た目のいい胚盤胞でも
体外受精に進み、刺激周期と自然周期で採卵をして、5回移植してもうまくいかなかったということですが。
伊藤先生 2人目不妊の場合、年齢が上がってしまうと治療してもなかなか結果が出ないケースがあるのですが、ぶちゃさんはまだ 30 代前半。
このくらいの年齢の方だと、 1回目の移植で叶わなくても、2回目、3回目で妊娠される方がほとんどです。
ご主人の精子の数は6000万/ ml とい うことで、決して悪くはない数値。なぜ体外受精で受精しなかったのか不明ですが、顕微授精ではすべて胚盤胞になったそうですから、卵子の質自体には問題がないはずです。
しかし、年齢がまだ若く、どんなに見た目のいい胚盤胞で戻しても、妊娠率は100%ではありません。
詳しい原因はわかりませんが、何かしらの要因で妊娠に至らなかった。
ただ、最初の病院で行った4回の移植のうち、1回は着床しているので、まだ妊娠の望みはあると思います。
ステップダウンという考え方
転院して、自然周期採卵に切り替えて治療されていますが、今後もこの方法を続けていったほうがいいのでしょうか。
伊藤先生 最初の病院では 10 個卵子が採れ ていますから、ロング法やショート法、もしくはアンタゴニスト法など、ある程度卵巣を刺激して採卵していると思われます。
そのやり方で胚盤胞が6個できて、結果的に流産になってしまったけれど一度妊娠されたという経緯を考えれば、この方法をもう少し続けたほうが良かったのではないかと思いますね。
転院先の病院で実施した自然周期採卵ですが、当院ではほとんど行っていません。
体に負担がない採卵法といわれていますが、自然周期だと採れる卵子の数が少ないので移植のキャンセル率が高かったり、あまりいい受精卵にならなくても戻す場合があるので、妊娠率という点では患者さんの条件によってバラつきがあることも。
刺激してある程度卵子が得られる方は、その中から選択して胚盤胞になったものを移植したほうが、妊娠率が高いと思いますね。
最初の採卵でまだ2個胚盤胞が残っているようでしたら、ホルモン補充周期など、まだ試していない戻し方で、再び移植にチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか。
また、もう一つの考え方として、ステップダウンがあります。
高度生殖医療に進む前、人工授精に3回トライされたとのこと。
40 歳を超えた高齢の方だったら確かに3回 程度でもいいのですが、まだ 30 代で、卵管 にも精子にもほとんど異常がないというケースであれば、あと2~3回試してみてもいいのでは。一般不妊治療でも妊娠できる可能性は十分あると思いますね。
今、精神的にも落ち込んでいらっしゃるようなので、一度気持ちをリセットする意味でも、2~3カ月人工授精に戻ってみるのも一つの選択肢だと思います。