不妊治療の保険適用の実現化に向けて、各方面で意見交換や政府への働きかけが行われてきました。
患者さん、医師、それぞれの立場でどんな課題を持ち、どう発信してきたか、最近の動きをレポートします。
8月ジネコがドクターに「不妊治療の保険適用」に関するアンケートを実施
治療現場からは、保険適用は課題も多いとの声
日々、患者さんと向き合い、治療にあたるドクターは、保険適用の拡大に対してどのような意見をお持ちなのでしょうか。
ジネコは、2020年8月20日~9月30日に、全国のART助成金対 象の不妊治療施設441施設のドクターにアンケートを送付。115施設から回答を得ました。
アンケートは、 つの質問(回答は選択式)と、フリーコメントで自由に意見をいただく形式で行いました。「保険適用に賛成」、「内容によって賛成」を合わせて、8割近くの施設のドクターが保険適用に「賛成」と答えています。しかし、フリーコメントからは解決しなければならない課題がたくさんあるということも見えてきました。
Q1.不妊治療の保険適用の拡大について、どう思われますか?
Q2. 不妊治療の保険適用には、どのような課題・問題点があると思われますか?
Q3. もし保険適用される場合、どこまでの治療を適用するのが良いと思われますか?
Q4. 保険適用についてのご意見をお聞かせください。
・保険適用によって、不妊治療が経済的に適正化され、すべての患 者さんに等しく機会が与えられることを期待する。
・新しい技術が組み込めなくなる。
・原因に関係なく、どの患者さまにも画一的にならざるを得ない。
・同日混合診療の規制があるため、保険適用になっても事実上使用 できない。
・保険適用拡大より助成金の限度額や対象者を増やして、体外受精 などの高度治療を増やすほうが妥当と考える。
・卵子数、胚数によりコストが違うため、一律に保険適用するのは難 しいと思う。
・保険適用できる条件をしっかりと決めた運用を望む。
ほかにも多くのご意見が寄せられました。
ドクターのコメントからは、保険適用に反対ではないものの、実現化するためには混合診療の問題や、治療の平準化による個別対応の難しさなど、議論しなければならない課題が多くあることが伺えました。
9 月上旬2 人のドクターにインタビュー実施
不妊治療への健康保険適用について、実際に現場で患者さんと常に向き合っているドクター2人に、適用についてのご意見と課題を伺ってみました。(取材は菅内閣発足前に行っています)
保険適用の議論は良いが まずは補助金拡充で支援を

まずは保険適用より補助金を拡充したほうがい いでしょう。今、体外受精で子どもを1 人出産するのに約 500 万円かかっています。もし不妊治療の補助金が1000 億円あれば、約 2 万人の赤ちゃんが生まれる計算になります。今年の6月の出生数は、昨年の同時期より5000人減。コロナ禍で経済的 な不安から治療をためらう患者さんを補助金で支 えることで、出生数を増やせると私は考えています
専門医である必要性と助成金の見直しを訴えたい

保険適用というと安心で良いイメージを受けま すが、現行の助成金の範囲を拡大し、回数・年齢、年収制限などの拡充をしたほうが、早く確実に患 者さんの助けになります。そして、助成金は生殖医療専門クリニックでなければ申請できない仕組みにしてほしいです。「どこに行ったらよいか」「信 頼できる情報はどれか」、患者さんのアンケートで は常にみられる記述ですが、その答えの基本は「専 門資格をもった医師」だと私は考えます。