教 え て !不育症 のこと
妊娠しても流産を繰り返してしまう――。
「もしかしたら不育症?」と心配している方もいるのでは。
まだまだよく知られていない不育症について、 秋山レディースクリニックの秋山先生が丁寧に解説していきます。
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秋山 芳晃 先生 東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医 科大学附属病院、国立大蔵病院に勤務後、 父親が営んでいた産科医院を継ぎ、不妊 症・不育症診療に特に力を入れたクリ ニックとして新たに開業。O型・やぎ座。 春にリニューアルしたクリニックは待合 室のほか、キッズルームも充実。個室をな くした開放的なスペースには、簡易の砂 場やおもちゃもたくさん! 2人目不妊 の方も遠慮なくお子さん連れで来院して いただきたいそうです。
ともっちぇさん(35歳)からの相談 Q.30歳から5年間不妊治療を継続。34歳の時に人工授精による初の妊娠に 成功しましたが、6カ月で死産となってしまいました。その後1年間、人工授 精やタイミング法で治療を行い、2分の1の確率で「妊娠反応あり」までい くものの胎嚢の確認には至らず、4度の化学的流産という結果で終わってい ます。昨日調べた今回の妊娠反応も、hCGがまったく増えず、化学的流産と いうことで生理が来るのを待つことに。そこで、不妊治療の担当医からヘパリ ン注射など不育症の治療を開始するよう強くすすめられました。ちなみに不妊 症検査の結果は異常がなく、これまでも不育症用の漢方やバファリンは服用し ていました。私のような症状に不育症治療というのはよくある方針? 単に「卵 の質が悪いせい」ということはありませんか。
目次
化学的流産というのは どのようなもの?
秋山先生 化学的流産とは、血液中に h CG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)という妊娠のホルモンが検出されるのにもかかわらず、臨床的妊娠兆候(超音波で胎嚢という袋が確認できること)が見られることなく、生理のような出血となってしまうことをいいます。
原因もそうですが、不妊治療や流産をした人以外のケースについては調べることができないので、頻度についてもはっきりわかっていませんが、一般的にはいわゆる妊娠・流産とは区別して考えられています。
化学的流産に関する研究報告はあまりないのですが、不妊治療を行っている患者さんで妊娠あたり約 23 %が化学的流産であっ た、反復流産の経験のある患者さんにおける次回妊娠の調査では、妊娠あたり 37 %が化学的流産であったという報告があります。
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また、化学的流産を繰り返す患者さんでは、原因不明の不妊症の方や抗リン脂質抗体をお持ちになっている方が多く認められるという説もあり、いわゆる流産とは区別するべきであっても、化学的流産を繰り返す患者さんには何らかの対処が必要なのではないかと個人的には考えています。
一般的には流産とは とらえないけれど、 関連性はゼロではない?
秋山先生 流産してしまう時期が異なるだけで、一部の方には着床がうまくいかないという要因も多少あるのではないかと思っています。
あとは患者さんの心理的なことも考慮する必要があるのではないかと。
「化学的流産だから何回繰り返しても流産したことにはなりませんよ」といって、検査も治療もしないのは簡単ですが、患者さんとしてはできることがあれば何かしたいと思いますよね。
当院では「一応、流産とは区別しなければいけないのだけれどね」と前置きをしたうえで、化学的流産を繰り返している患者さんに不育症の検査をおすすめすることもあります。
ともっちぇさんの場合、 担当の先生の対応は妥当?
秋山先生 1年前、死産を経験されていますね。
この原因、実際にお受けになった不育症検査の内容(保険適用外の検査で抗体や凝固因子も調べているか、子宮の形態異常などについても調べているか)にもよるので一概には何ともいえませんが、6カ月での死産も考慮するならば、主治医の先生が「今後、何か対応をしなければ」とお考えになるのはもっともなことであると思われます。
「赤ちゃん側に奇形があった」「へその緒がねじれて血液が行かなくなった」など明らかな原因があれば別ですが、たとえば血栓ができて胎盤に血液が行き届かなくなって死産に至ることもあります。
もともと流産しやすい因子を持っていて、流産は免れたけれど死産してしまったという可能性も。
このようなことから6カ月での死産という経験だけでも、不育症検査の適応になることもあります。
治療についてご意見は?
秋山先生 すでにアスピリンと漢方薬による治療はお受けになっているとのことですから、今後さらに治療をおすすめするとしたら、主治医の先生がおっしゃるようにヘ パリンの投与ということになるでしょう。
現在、ヘパリン投与は抗リン脂質抗体に伴 う不育症(3回以上の初期流産か、 10 週以降 の胎児死亡)に認められている治療ですが、不妊症に対する効果はまだ明らかにされていません。
ともっちぇさんの場合、死産のご経験があ るので、抗リン脂質抗体症候群と診断される抗体をお持ちであれば適応があると思われます。
ただし、この抗体の中には保険適用の検査では調べないものも含まれますので、すでにお受けになった検査の種類によっては追加で検査を受けて、その結果によりヘパリンの適応となる可能性もあるでしょう。
その他の凝固因子の異常に関しても、アス ピリンまでの治療で繰り返し効果が出なければ、ヘパリンを投与するという選択肢はあると思います。
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ヘパリンによる治療は施設によりさまざまな基準があり、経過を考慮して比較的寛容に適応を解釈している施設がある一方、適応を厳格に守っている施設も。
流産を経験しているというだけで何の検査も行わず(あるいは検査結果に問題がなくても)、ヘパリンの投与を行っている施設もあると聞いたことがあります。
ヘパリン投与は 母体や赤ちゃんへの 影響はない治療法?
秋山先生 副作用は比較的少なく、安全性も確立してきた治療法ではありますが、妊娠末期まで投与を続けなければいけないので、慎重な適応の判断と産科の先生の協力は必須です。
ご心配であれば、主治医の先生とご相談のうえ、不育症の外来と産科のある大学病院や総合病院を一度紹介してもらい、改めて検討されてみてはいかがでしょうか。
不育症以外の原因として、 卵子の質が化学的流産を 引き起こしているという 可能性は?
秋山先生 卵子の質が原因ではないとはっきりいいきれませんが、妊娠自体はされているので、あまり関係がないような気がしますね。
それでも受精卵の様子はわかるので、一度体外受精にトライされてみて、発育の良いきれいな胚を戻してみるという選択肢もあるかもしれません。