低刺激で採卵当日に排卵1

「刺激?自然?   排卵誘発はどの方法がいいですか」

低刺激で採卵当日に排卵……

私の場合、排卵誘発はショート法しかないの?

田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医 長時代、診療後ならという条件付きで不妊治 療の研究を許される。度重なる研究と実験は 毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初 のギフト法による男児が誕生。1990年、セン トマザー産婦人科医院開院。日本受精着床学 会副理事長。2009年〜2011年までJISARTの 理事長に就任。米最高峰の出版社に円形精子 細胞の論文を投稿した田中先生。「二次審査ま で合格して最後の最後で通らず、本当に落胆し ました。論文のリベンジと細胞質置換の成功 が、来年の私の目標です」と、熱い眼差しで語っ てくださいました。

ドクターアドバイス

●40代以上の7割の流産物に染色体異常がある
●何度も繰り返す流産に、きちんと対処を
●ベストだと思えなけば、転院を視野に入れて
沈丁花さん 42 歳 Q.低刺激で排卵済み、ショート法しかないでしょうか? 高齢ですが、1年に一度妊娠できているため、流産を繰り返して も諦められずにいます。これまで低刺激で2回行い、採卵当日に 排卵してしまっています。排卵済みをふせぐためにアンタゴニス トや座薬を使うこともあるそうですが、私の場合は「アンタゴニ ストを使うと卵胞が縮んでしまう」「排卵済みを防ぐには高刺激 にするしかない」と医師に言われました。他はずっとショート法 で、採卵数にばらつきがありますが、その都度、新鮮初期胚移植 は行えています。アンタゴニスト法などほかの方法はないのか、 それともショート法で3回妊娠できているので、このまま続けた ほうが良いのか、教えてください。

治療データ

【検査・治療歴】

治療歴3年。7回採卵を行い、1回目から4回目まではショー ト法、5・6回目はクロミッドⓇ+HMG注射による低刺激法、 7回目はショート法。
低刺激の時は2回とも排卵済み。
3度 妊娠するも流産。
不育症検査は問題なし

【現在の治療方針】

最近の妊娠時でNK活性47と高値だったため、プレドニン 5mgを服用中。次回の採卵はピル・ショート法の予定。
現在 プラノバールⓇ服用中。

【精子データ】

濃度3340万/ml(量3.2ml)、
運動率43%、
運動性B、
正常形態率32%

不育症の疑い

沈丁花さんが妊娠と流産を繰り返す原因として、何 が考えられますか?
田中先生  42 歳という年齢で 10 個以上採卵できている ので、卵巣の機能は比較的高いようですね。
そして、 3回妊娠していることから、不妊症ではなく不育症だ と考えられます。
3回目の流産で流産物の染色体を調べていますが、 結果は 17 番染色体トリソミーと診断されていますよね。
高齢になるほど妊娠率は下がり、妊娠しても約7割は 流産する。
そして、そのうちの大半が染色体の数の異 常です。
染色体の細胞分裂には、チューブリンといっ て綱引きの綱のような働きをするタンパク質が必要で すが、これが老化してくると染色体を左右2つに分け るという機能が低下し、一方は1本多く、もう一方は 1本少なくなることがあります。
1本少ない“モノソ ミー”は数が少ないだけあって着床する力がありませ ん。
1本多い方の“トリソミー”は着床するけれど途 中で流産することが多い。
沈丁花さんの流産は明らか に胎児の染色体異常で、これは高齢による卵子の質の 低下が原因だと言えるでしょう。

低刺激のキャンセル率

低刺激と高刺激では、どちらが沈丁花さんには向 いているのでしょうか?
田中先生 低刺激では、LH(黄体化ホルモン)の値 の上昇を抑えるためのGnRHアゴニストやアンタゴ ニストを使わないため、当然、採卵当日にLHが上がっ て排卵してしまうことはあり得ます。
毎月排卵し、注 射をしなくて済むので患者さんにとっては負担の軽減 になるかもしれませんが、コントロールしていないた め、半分くらいはキャンセルになるということを知っ ておいてください。

低刺激をすすめるケース

一般的に、どのような患者さんに低刺激をすすめ るのですか?
田中先生 高齢が原因で卵が少ししか採れない方や、 FSHが 10 mIU / mL 以上の方は、低刺激を繰り返します。
また、卵巣に負担をかけず、自然周期で1個採ること はありますし、私も患者さんによっては低刺激をすす める場合もありますが、先に述べたように排卵をコン トロールしないわけですから半分はキャンセルになる 可能性があることを、事前に患者さんにはお伝えする 必要があります。
沈丁花さんは妊娠できているので卵子も精子も能 力がないわけではありません。
ある一定のレベルを 超えていないだけなので、あえて低刺激にこだわる 必要もないでしょう。
とはいえ、卵がたくさん採 れること自体は高齢の患者さんにとっては有効です が、ショート法ばかり続けるということが、正しい わけではありません。

誘発法の選択

それはなぜですか?
田中先生 なぜなら、沈丁花さんの場合、ショート 法で胚盤胞になっても質があまり良くありません。
39 歳から体外受精を始めて、凍結胚盤胞と新鮮初期胚の移植を試みていますが、新鮮初期胚移植では流 産し、凍結胚盤胞移植は陰性。
凍結胚盤胞の質も6 ABは特別いいわけではありませんし、 41 歳ではさ らに質が下がって3BB。
妊娠する時はショート法 の採卵周期で新鮮初期胚移植、陰性の時は凍結胚盤 胞という、この繰り返しです。
私なら、E2が十分に 成熟してLHが正常より少し高い状態の時にアンタ ゴニストを使いたい。
何がなんでもショート法というのは偏っている気がします。
また、凍結すればど うしても新鮮胚よりも質が落ちてしまいますから、 沈丁花さんのようなケースでは、なるべく新鮮胚を 戻すようにしてあげたいと考えます。
そして、異常がなく健康的な胚を戻してあげるた めに、染色体を調べるというのが一番シンプルで、 沈丁花さんのような患者さんのためになるのではな いでしょうか。

染色体を調べる

染色体を調べるというのは、いわゆる着床前診断 (PGS)のことを指すのですか?
田中先生 話がテーマから逸れてしまいますが、沈丁 花さんの相談内容というのは、排卵誘発がどうとか、 低刺激ならうんぬん、などというものではなく、「 40 代 以上の流産率が高い現状に対して、どう対処するべき か」という問題提起だと私は受け止めています。
日本の現状では、PGSは認められておらず、マイ クロアレイ法で海外のラボで検査してもらう事となり ますから、費用がかかり、結果が出るまでに1ヵ月以 上かかります。当然、凍結もする必要があります。
そこで、もっとも時間のかからないFISH法と いう方法があるということを、多くの患者さんに 知ってもらいたいです。
このFISH法は全染色体44 種類中 10 種類を調べる検査で、約 90 %の染色体異 常がカバーできます。
しかも最大のメリットは、一 晩で答えが出るため、凍結せずに採卵周期で戻すこ とが可能だということ。
特に年齢の高い患者さんに 対してぜひおすすめしたい検査だと私は考えます。
学会の許可を待ち望んでいます。
今後についてアドバイスをお願いします。
田中先生 現在の主治医が、沈丁花さんの思いを汲 み、状態を見極め、ベストな治療方針を導き出して いるのであれば、このまま続けていくことも良いで しょう。
しかし、自分にとってベストな治療ではな いように感じたり、不信感を少しでも持っているの であれば、転院を考えてもいいと思います。
また、 流産のショックを避けたいと思うのであれば染色体 検査も視野に入れて、今後の治療方針を専門医とご 夫婦で考えてみてはいかがでしょうか。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。