良好胚盤胞移植で 内膜の厚さも問題ないのに 着床しない原因は?
古井 憲司 先生 1986年日本医科大学卒業。1年間の研修医を経て、1987年名古屋 大学産婦人科学教室入局。名古屋大学産婦人科では文部教官を務め る。さらにその後、大垣市民病院産婦人科医長を経て、1998年クリニック ママを開院。A型・やぎ座。「当院は、10年以上の長い間、私を含めた副 院長と3人が仲良く、誠心誠意頑張ってきました。2014年もこの3人を 中心に、お一人でも多くの患者様に喜んでいただけるよう一生懸命サポー トしていきたいと思っています」と先生。
ノンコさん(30歳)からの相談 Q.タイミング法を2年、人工授精を4回するも結果が出ず。現在30歳で体外受精にステッ プアップしましたが、当日の精液検査で運動率4%と低かったため、顕微授精に変更し て挑戦しました。2回の凍結胚盤胞移植でグレードはいずれも4AA、1回目は、着床反 応はあったもののかなり弱く化学流産、2回目は着床反応すらありませんでした。いず れもホルモン補充療法での移植で内膜も十分な厚みでした。次の移植も4AAの凍結胚 盤胞を移植予定ですが、着床するか不安です。 内膜の厚さも問題なく良好な胚でも妊娠しない場合、考えられる原因は何でしょうか? 不育症検査ではプロテインS活性、プロテインS抗原量とも低いため、移植前より低用 量バファリンを服用。次の移植がダメだと、その次は胚盤胞のグレードが4ABに落ちて しまいます。あらためて採卵したほうがいいでしょうか?
良好胚の染色体異常
良好胚でも妊娠しない原因は何でしょうか。
古井先生 良好胚でも、染色体異常はかなりの確率であるといわれています。
たとえ4AAで見た目や形態的に良い胚盤胞であっても、染色体異常でないという保証はありません。
良好胚盤胞であってももし染色体に異常があれば着床しないとか、着床しても流産するということは当然ありえます。
ただ、良好胚盤胞で染色体異常がないのに 妊娠しないという場合は、着床側に問題がある可能性が考えられます。
そういう場合に当院で試みるのは、ビタミンCとEを併用するという方法です。実際、この方法で着床率が上がる印象はありますし、学会でも有意差があると発表されています。
ビタミンCやEは、もともと精子にも有効であるといわれていますが、内膜にも良いと思います。
アシストハッチング
他にはどんな方法がありますか?
古井先生 レーザーを使って凍結胚をアシステッドハッチングしているかどうかということも気になりますね。
もし試みていないなら、一度試してみてもいいかもしれません。
当院では全例、レーザーアシステッドハッ チングを行っていますが、融解後にアシステッドハッチングを行って培養を継続した場合と、融解後にアシステッドハッチングを行わずにそのまま培養を続けた場合を比較すると、アシステッドハッチングを行ったほうは九十数%がハッチングしましたが、行わなかった受精卵は十数%しかハッチングしなかったという検証結果があり、以前、当院がこの結果を学会発表しました。
もちろん、アシステッドハッチングにも賛 否両論があり、培養液中ではアシストしたほうがハッチング率は明らかに高くても、それはあくまで培養液中での話であって、子宮内では必ずしもそれがすべてではないということはあります。
しかし、アシステッドハッチングを行うことでハッチングは高率にしやすくなると思いますし、着床率の向上につながると思います。
それからもう一つ、良好胚盤胞を戻しても 着床しない場合に次の手として考えるのは、シート法です。
この方法は、着床障害の人には良い印象がありますね。
第2子以降も視野に入れる
あらためて採卵も考えているようですが。
古井先生 4ABでも決して不良胚ではありませんので、十分妊娠する可能性はあります。
当院ではBBランク以上であれば良好胚と考えていますし、実際、融解胚移植であれば 50%以上の確率で妊娠しています。
ノンコさんは年齢的にもまだ余裕がありますし、まずは4ABの凍結胚を戻してみて、保存している胚がなくなってしまったら採卵するという形でもよいのではないでしょうか。
ただ、今回、残っている凍結胚で妊娠でき て、その何年後かに第2子、第3子も欲しいと考えているのでしたら、その場合に備えて採卵しておくのは正しい選択であると思います。
少しでも若い時の卵子のほうがよいのは当然ですから、私ならそのようにおすすめしますね。
※レーザーアシステッドハッチング:胚盤胞が子宮内膜に着床するために、軟化・ひ薄化した透明帯(殻)を破って脱出することをハッチングという。透明帯が硬くなったりするとハッチング障害を起こす。レーザーアシステッ ドハッチングは、極微量のダイオード・レーザーを使い、透明帯を削って薄くすることで、ハッチングを助ける方法。
※シート法:受精卵を培養した時の培養液を胚移植の2~3日前に子宮内に注入すること。この培養液 中には受精卵の成長過程で分泌される物質が多く含まれているので、母胎側はいろいろな情報を得て、着床の準備を促進できる。二段階胚移植法ともいう。