原因となる症状が見当たらない場合、治療法はないのでしょうか。
この先、どのように治療を進めていくべきなのかを ファティリティクリニック東京の小田原先生にお聞きしました。
小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。 1987年、オーストラリア・ロイヤルウイメンズホスピ タルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵 会医科大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経 て、1996年恵比寿に開院。AB型・みずがめ座。 今年8月に、以前より広いところに移転した同クリ ニック。「器ができたので、今はその中で患者様の ために何をすればいいのか、スタッフで考えながら 進めていく段階です」と先生。プライベートでは、趣 味のサーフィンの大会に向けて特訓中だそう。
目次
ドクターアドバイス
●排卵誘発の薬を替えながらタイミング法に人工授精もプラスする
●数回でうまくいかなければ体外受精にステップアップを
そらはなさん(32歳)からの投稿 Q. 治療歴1年4カ月。前に通っていた病院では一通り検査を終了し、夫婦 ともに問題はないとのことでした。2カ月前に紹介状を書いてもらい、 不妊治療で有名な地元の病院に転院しましたが、治療法がないと言わ れてしまいました。 前院では飲み薬を使って排卵誘発しましたが、子宮内膜が厚くならない ので、次の治療でHMGにしたところ勝手に排卵してしまいました。今 の病院での前回の治療は、クロミフェン5日+HMG(3回)+HCGで した。人工授精以降の治療法について何も言ってくれません。私にはこ れ以上の治療法はないのでしょうか。
●これまでの治療データ
検査・ 治療歴
検査は一通り行ったが問題なし。
AMHは検査したことがない。
治療法がないので、タイミング法のみ。
不妊の原因 となる病名
なし
精子 データ
問題なし
原因不明ってどういうコト?
不妊原因が不明で、治療法がないと言われているそうですが。
小田原先生 妊娠はお腹の中で起こることなので、外からわかることはかなり限定されています。
氷山でいえば、水の上に浮いている一角が外からわかる部分で、その下の海の中にある大きな部分が、お腹の中で起こっている妊娠の大事な出来事です。
たとえば、患者様が持っていらっしゃる卵子の質であったり、受精、分割、着床といった精子と卵子の出会いに関わるものがこれにあたります。
しかしそれらは、外からはどのように行わ れているかがわかりません。
検査で卵管が通っていることはわかっても、卵管が卵子をピックアップし、精子と卵子を合わせて運んでいる過程はわからないのです。
妊娠にとって大事な部分は、残念ながら外から知る術がなく、この場合は原因不明不妊と診断されます。
原因がわかっている場合はそれに対する治療法があり、治療することではっきり原因と結果がつながります。
一方、原因のわからないものにはどう対応していくか、100%当てはまる治療がどれなのかがわかりにくいというのが現実です。
そういう意味で「治療法がない」と言われたのかもしれません。
しかし不妊治療の場合は、原因がわからな いことが多いわけで、その場合も決して治療法がないとは思わずに、いろいろな選択肢の中でどの治療をどう進めていくか、医師と患者様できちんと相談するべきだと思います。
掘り下げる?変更する?
原因不明不妊の場合、どのように治療を進めていけばいいのでしょうか?
小田原先生 検査をもっと掘り下げていく、ステップアップを考えていく、という2つの考え方があります。
仮に月経痛が強いなどの症状があれば、外からわかりえない内膜症がないかなど、腹腔内の原因検索をするために腹腔鏡検査をするという選択肢があります。
そういった症状も一切なく、卵管もきれいに通っていて問題がないとなると、治療的なステップアップを考えていくことになります。
状況に応じた治療選択
そらはなさんの場合は、具体的にどんな治療が考えられますか?
小田原先生 現在しているような、タイミング法から薬を使ってステップアップをしていくという考え方は非常にいいと思います。
ただその中で、薬を使うがゆえに、逆に少し好ましくない状況が起こるケースもあります。
たとえばクロミフェンを使用すると、子宮内膜が薄くなったり、あるいは精子が子宮の中に入っていくために本来必要な頸管粘液が落ちてしまうというケースがあります。
実際、そらはなさんは、クロミフェンでは 内膜が薄くなると書いていますね。
そういった場合は、飲み薬を別のものに、たとえばセキソビット ® に替えていくという方法が考えられます。
また、前回は勝手に排卵してしまったとのことなので、注射もHMGでなくFSH製剤を使ってみるということも考えられます。
HMG製剤はLH作用が若干多いので、その分LHサージが起こりやすく、排卵しやすくなることがあるからです。
あとは、排卵するタイミングには個人差が あるので、そこを気をつけて見ていき、できれば排卵のタイミングに人工授精も試してみるといいかもしれません。
精子の所見やヒューナーテストで問題がなくても、一番いい排卵のタイミングで精子を入れてあげて、受精のタイミングを合わせていくことで、治療効果は上がると考えられます。
薬を替えたりしつつ人工授精を4回ほど行ってみて、それでもうまくいかない場合は、体外受精へステップアップということになります。
体外受精の必要性
体外受精に進むことで、効果は期待できるのでしょうか。
小田原先生 体外受精は、卵子を採って体外で精子と合わせるわけですから、卵管の機能は基本的に必要ないということになりますし、外での受精卵の分割の状態を見ることができるので、ある程度の割合で卵子の質や、あるいは受精卵の質の評価にもつながります。
ですから次の治療として一番有望性の高いものは、体外受精ということになります。
原因不明不妊の場合に、一足飛びに体外受 精にいくのか、あるいはステップを踏んでいくのかは、患者様の治療に対するスピード感や考え方、年齢などを考慮して決めます。
AMHの必要性
AMHの検査はしていないそうですが、調べたほうがいいですか?
小田原先生 AMHは、その値が低かった場合、いろいろなことを心配される患者様もいますし、もしかしたらそれで必要のない体外受精を増やしてしまっているのではないかという懸念もあります。
ただ現時点の卵巣の予備能を知るということでいえば、やはり調べておいたほうがいいでしょう。
治療のペースを決める参考にはなると思います。
原因不明で治療していく場合、短期的なプ ラン、その先の中期的なところまでのプランを患者様にきちんと理解して納得していただくことがすごく大切だと思います。
先が見えないなかで、毎月生理が来ると落ち込んで……というくり返しによるストレスが大きいと思われるからです。
この治療を何周期やって、だめならこれをして、次にはこういう選択肢があるということまで、今は患者様にきちんとお伝えすべき時代だと思います。
治療に相当な時間を割きながら進めていくことになるわけですから、そういった提示をして治療することが、医療側として大事だと考えています。
患者様側からも、担当の先生によく相談されてみるといいと思います。
※FSH製剤:閉経後女性の尿から精製され、黄体化ホルモン(LH)をほとんど含まない純粋卵胞刺激ホルモンと、遺伝子工学により作られ、LHなどの不純物を含まない遺伝子組換え型卵胞刺激ホルモンとがある。卵胞の発育・ 成熟を促す。
※HMG製剤:排卵誘発薬。閉経後の女性の尿から精製して作られた卵胞刺激ホルモン。黄体化ホルモンを含み、卵胞の発育・成熟を促す。
※LHサージ:黄体形成ホルモンが一過性に大量に放出される現象。 これが排卵を引き起こす。成熟した卵胞から分泌される大量のエストロゲンの正のフィードバック作用によりLHサージが起こる。