体外受精、顕微授精で 結果が出ず……ほかに工夫できることは?

受精卵の発育が遅いのは、年齢が原因? それともほかに理由や治療法があるのでしょうか。

セント・ルカ産婦人科の宇津宮隆史先生に伺いました。

宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988年九州大学生体防御医学研 究所講師、1989年大分県立病院がんセンター第二婦人科部 長を経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く 不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数 は6,200件を超える。O型・おひつじ座。大分県内の教育機 関や行政に働きかけ、性教育の正しい知識をテーマにした講座 を開くなど、新たな活動に着手した宇津宮先生。その根底には 常に「子どもたちのために」という不変の思いがある。

ドクターアドバイス

●卵子の数が多ければ何通りもの治療法を試すことができる
●40歳前後の原因不明不妊は早い段階で体外受精に進むのがベスト
saraさん(41歳)からの投稿 Q. 海外で体外受精2回、顕微授精2回を2012年4月~2013年5月 にかけて、行いました。採卵では13~17個採れますが、年齢的に卵 子の質が良くないのか、受精は5個程度。4日目まで順調に育っても4 ~5日目から急速にダウン。5日目午後の移植では、早期胚盤胞か桑実 胚で凍結には適さないとのこと。選択肢はなく、2個移植します。残り3 個の胚は、6日目で細胞分裂がストップします。 誘発法もいろいろ試しましたが、結果は同じで限界を感じています。 ほかに工夫できることはありますか?

●これまでの治療データ

検査・ 治療歴

子宮卵管造影検査は異常なし。
自然排卵、卵管も異常なし。
IVF2回、ICSI2回 AMHは13.3pM/L。
誘発法が体に合わず、 OHSS状態。

不妊の原因 となる病名

原因不明

精子 データ

異常なし

年齢と、染色体異常とステップアップ

saraさんの相談内容を見て、まずは先生のご意見を教えてください。
宇津宮先生  41 歳という年齢にしては、AMHの値が高いので、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になりやすいというのはもっともです。
卵子がたくさん採れているので、卵巣機能は良いのだと思われますから、このような場合は妊娠に至る可能性は非常に高いと考えられます。
しかし、たくさん採れるといっても、それが良い卵子かというと、必ずしもそうではありません。
年齢的には採取した卵子の7割に染色体異常が見受けられますから、10 個採卵して受精卵が5個できたとしても、良い受精卵は 1.5 個程度の割合です。
このようなケースの方は、今すぐではなく ても、突然、閉経する可能性があるため、我々はとても焦ります。
不妊治療の助成金制度が変わったこともあり、当院も全国的にも、 40歳前後の患者さんは急激に増えているのが現状です。
とにかく時間がないので、早急に治療を進める必要がありますね。
年齢的なことを考えると、治療開始後すぐに体外受精というのはいい選択でしょう。
腹腔鏡検査やタイミング法、人工授精というステップアップも考えられますが、時間はどんどん過ぎていくわけですから。
誘発法は、ショート法に限らず、これだけ の卵子が採れるのですから、ロング法でもアンタゴニスト法でもいいでしょう。
5日目で受精卵の成長がダウンしてしまうようなので、それを踏まえても、卵子をたくさん採って、質の良いものだけを選ぶということをくり返し行っていただきたいです。
OHSSを心配されているようですが、ア ンタゴニスト法であれば卵巣はあまり腫れません。
20 ~ 40 個ほど卵子ができても、採卵後にアンタゴニストを3日間使用すると、効果は顕著に現れます。
その後の処置を適切に行えば、入院というリスクもほとんどありませんから、怖がらなくても大丈夫ですよ。

子宮と受精卵をマッチさせる

受精卵が5日目で早期胚盤胞か桑実胚のため、凍結に適さないとのことですが。
宇津宮先生 受精卵は8分割、 16 分割と分割し、4日目には分割の境がもやもやしてほとんどなくなります。
この段階が桑実胚です。
その後、胚の中に卵割腔が生じ、5日目に胚盤胞に発達します。
しかし、saraさんは5日目でもまだ4日目の桑実胚か早期胚盤胞だと指摘されているように、胚の発達に遅れが見られます。
ここで子宮と受精卵の日数にズレが生じてしまいます。
このような場合、6日目まで待って凍結する方法もあります。
4~5日目までは適さないけれど、6日経つことで成熟した胚盤胞になることもあるからです。
6日目まで培養しても子宮には戻さず、いったん凍結させて次の周期の4日目頃に融解し、5日目に戻します。
人工的に子宮と受精卵の日数を一致させ、結果を導き出すのも1つの方法です。

精子の問題は着床率へ影響

ほかに考えられる方法は?
宇津宮先生 結果が出ない理由として、精子側の問題を見逃しているという場合もあるので、注意してください。
顕微授精を2回行ったというのは、精子の状態があまり良くない場合もあったからだとも考えられます。
当院のデータでも、男性の精子に問題がある場合の着床の成績は非常に悪いと、はっきり示しています。
相談内容に「精子は異常なし」と記入される方はかなり多いようですが、精子自体が全体的に低調であれば、良い精子だとされても、実際は低調の中で良いというだけかもしれないのです。
そこで、男性の精子状態を良くするためにサプリメントを服用する方法も。
当院では、男性ホルモンが約3倍増える作用があるクロミフェンを男性に処方することがあります。
絶対的な確証はありませんが、男性ホルモンの増加が精子に影響するならば、これも1つの手だといえるでしょう。
年齢的にはあまり時間が残されていなくて も、卵子がたくさん採れる方は非常にラッキーです。
卵子側からも精子側からもアプローチでき、いろいろな戦略を練ることができます。
これとこれを組み合わせて、それがだめなら違う方法で、というふうに、何通りも方法を組み合わせて可能性を探りながら試すことができるのですから、早く、確実に、治療を進めていただきたいですね。
saraさんがもし、体外受精をしていなければ、何ともいえなかったところです。
年齢的なものが一番大きいことや、精子に問題があるのかもしれないということが体外受精をしたことでわかりました。
それらにまったく問題がなければ、卵子の老化や代謝の低下、そして染色体異常の可能性まで探ることができる。
そこまでわかったうえで、何をするべきか。
本来ならお手上げだと諦めてしまうところですが、早急に何通りもの方法を試すべきだとアドバイスできるのも、体外受精のデータが出ているおかげなのです。
40 歳以上で、原因不明であると診断された 場合は、早く体外受精まで進んでいただきたい。
不妊治療の高齢化は現実のものとして存在するわけで、それを悔やんでいる時間はありません。
後悔ではなく、次の手段を早く考えることが、ご夫婦の今後の人生にもプラスになるのではないでしょうか。
※卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水が溜まるなどの症状がみられる。
※ショート法、ロング 法:採卵を目的に、クロミフェンやFSH製剤、HMG製剤といった排卵誘発剤を用いて卵巣を刺激する方法。通常、比較的若く(30歳代半ばくらいまで)卵巣機能に問題がなければロング法、卵巣機能が低下している場 合や30歳代後半の場合には、ショート法が選択される。
※アンタゴニスト法:ショート法、ロング法とともに体外受精を目的に卵巣から採卵するため、ホルモン剤を投与して排卵を誘発する方法。多嚢胞性卵巣症候群の場合、卵巣過剰刺激症候群のリスクがある場合、またショー ト法やロング法などで妊娠しない場合などに適応され、年齢や卵巣機能にかかわらず実施できる。
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