胚盤胞にならず悩んでいます。

胚盤胞に育たない受精卵を移植しても無駄でしょうか?

渡辺 浩彦 先生 滋賀医科大学卒業後、京都大学医学部附属病院産婦人科、大津赤十字 病院、済生会茨木病院などを経て、1971年から不妊治療を行っている父 親の病院を継承。不妊治療から分娩まで手掛け、365日24時間の診療体 制をとる。O型・おとめ座。最近は不妊治療がメディアに取り上げられる機会 も増えて、NHKの情報番組で取材されたり、コメントを求められることもしばし ばという先生。生殖医療の専門家として、社会に正しい情報を発信すること も大切な使命と考えています。
まめたろうさん(40歳)からの相談 Q. 今年1月から不妊治療を開始し、2度の体外受精顕微授精で行いました。1度目は2個 採卵し、1個を初 ※ 期胚移植、もう1個は胚盤胞を目指して培養するも育ちませんでした。2 度目は1個採卵して胚盤胞まで育ちましたが、凍結できる大きさにはならなかったとのこ とで廃棄。私の場合、胚盤胞まで育てるのは難しいのかもしれないと思ったので、次回は 初期胚か桑実胚で挑戦したいと医師に伝えましたが、それはできないと言われました。胚盤胞が一番妊娠する確率が高いそうですが、どれくらい差があるのでしょうか。胚盤胞に ならない受精卵を早い段階で移植しても着床せず、結局は無駄になるのでしょうか?

移植は胚盤胞だけ?

受精卵が胚盤胞まで育たず、初期胚での移植を希望しても、医師に応じてもらえないというご相談です。
渡辺先生 当院でも胚盤胞移植を推奨していますが、その理由は胚盤胞の妊娠率が一番高いからということではありません。
もともと妊娠できる力を持った胚であれば、初期胚や桑実胚の時期に移植しても妊娠に至る確率は高いのです。
ただ残念ながら、移植前にその胚が妊娠の可能性のある胚に育っているかどうかを見極めることは難しい。
つまり初期胚移植の場合、まだ赤ちゃんになる可能性がわからないままに移植を行っていることになるのです。
移植後は黄体補充ホルモンの投薬が増えるので、費用や体への負担も少なくありません。
当院が胚盤胞移植を推奨するのは、無駄な移植や投薬を避け、患者さんの負担を少しでも軽減したいという理由もあるのです。

胚盤胞なのに廃棄?

胚盤胞にまで到達したのに廃棄するケースもありますか?
渡辺先生 あります。
ご相談に「凍結できる大きさにはならなかったとのことで廃棄」とありますが、これはおそらく、内細胞塊といって赤ちゃんになるために必要な細胞が集まっている部分のことを言っておられるのだと思います。
いい胚盤胞かどうかの基準は、この内細胞塊の大きさで見極めますので、当院でも内細胞塊が小さい時は廃棄ということもありますね。

初期胚移植するケース

先生のクリニックで例外的に初期胚移植を行う場合、それはどのようなケースなのでしょう。
渡辺先生 昨年、当院で初期胚移植を行った患者さんは 13 人。
皆さん、胚盤胞移植ではなかなか妊娠できない方、あるいはまめたろうさんのように受精卵がなかなか胚盤胞まで育たない方でした。
そのうち妊娠に至った方は2人。
この結果をどう見るかですが、もともと培養したら胚盤胞になる受精卵だったのかもしれないし、今まで培養環境が合ってなくて成長できなかった受精卵かもしれない。
それはやはり移植の前には見極められないことです。

体内で胚盤胞になる可能性

治療してもらう側からすると、初期胚でもしかしたら……と期待してしまう気持ちもあると思います。
渡辺先生 私は状況を説明して、患者さんが選択できたほうがいいと思います。
移植できなかったことによって精神的に受けるダメージもあるでしょう。
まめたろうさんのように、あるいはそれ以上に採卵しても胚盤胞にならず、胚移植できない状態が続くと、可能性は低くても移植したいという方もあり、それで妊娠に至る場合もあります。
培養では胚盤胞に育たなかった胚が、初期の段階で体内に戻すことによって妊娠に至る可能性も否定はできませんが、同じ胚で比較できないので正確なことはわかりません。
もしまめたろうさんが初期胚移植をしてみたいのなら、それが可能な施設に転院されるのも一つの方法かと思います。
※初期胚と胚盤胞:初期胚とは受精後2~3日目の胚で、4分割から8分割した状態。この段階になって初めて移植できる。胚盤胞は受精後4~6日目の胚で、自然妊娠ではちょうど子宮に着床するころにあたる。
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