操 良 先生 岐阜大学医学部卒業。岐阜大学附属病院で8年間、不妊専門外来を担 当し、1992年には岐阜県下初の体外受精に成功。女性ホルモンに関す る研究成果が認められ、平成9年度に岐阜県医学研究奨励賞を、平成11 年度に日本内分泌学会で研究奨励賞を受賞。現在、操レディスホスピタル 副院長。医学博士。日本生殖医学会認定 生殖医療専門医。同クリニック では患者さんの9割が漢方薬を併用。月経不順やホルモンの流れをよくする など、根本的な体質改善をしながら治療を進める。「漢方薬は副作用が少な く、体質や症状と合えばその効果はテキメンです」と先生。
えりごんさん(40歳)からの相談 Q.人工授精を始めて1年。4回目で妊娠したものの、8週目で稽留流産しました。その後、 2カ月休んで人工授精を再開し、現在4回目ですが、排卵が早く(Day8)、内膜の厚さ は6㎜とのこと。妊娠した時の排卵はDay11で内膜7.4㎜でした。 先生にステップアップを相談したところ、「体外受精も確率を上げるだけなので、必ず妊 娠するものではない」とのこと。また、妊娠した時も排卵が早く内膜が薄かったので、人工 授精でも可能性はあるとか。 人工授精を続けて、妊娠の可能性はありますか? 年齢的にも早く体外受精を考えたほ うがいい? また、漢方薬で何かおすすめがあれば教えてください。
卵子の質を考えて、ステップアップ
現在、HCG製剤とルトラール ®を使用して人工授精をしており、ステップアップするか悩んでいます。
操先生 4回目の人授工精で一度は妊娠したとのことなので、このまま人工授精で期待したい気持ちはわかります。
しかし、4クール行って2カ月休み、また4クール行ったということは、すでに1年近くは同じ治療を続けているということになりますね。
年齢的にも卵子の質はどんどん下がっていきますから、このまま同じように続けて期待通りの結果が出るかは疑問です。
HCG製剤とルトラール ® でということは、おそらく排卵誘発をせず、完全に自然のサイクルで人工授精をしているのでしょうか。
しかし、人工授精は単独よりも、何らかの排卵誘発を併用したほうがより高い成功率が得られるといわれています。
また、我々が体外受精で卵子を戻 す際、子宮内膜の厚さは7㎜が1つの目安です。
逆にいうと7㎜以下では戻せず、もっと厚くしてから戻しましょうということになります。
以上のようなことから、まずは体 外受精に進む前に、何らかの排卵誘発を併用して人工授精を行ってみてはいかがでしょうか。
排卵誘発をすることで子宮内膜の厚みも増せば、受精卵の着床率が上がる可能性も出てくると思いますよ。
人工授精にプラス排卵誘発
どのような誘発法がいいですか?
操先生 一番よく使う排卵誘発剤はクロミッド ® ですが、これは内膜を薄くしてしまう可能性もありますので、それよりもセキソビット ® 、もしくはゴナドトロピンとの組み合わせが考えられます。
ただ、この場合は周期が 26 日と短くなるので、通常量の刺激を加えると、えりごんさんの場合、さらに早く排卵が起こる可能性があります。
ですから、やはりセキソビット ® のような軽めの排卵誘発剤を使うか、ゴナドトロピンでも量を少なくするなど、低刺激での排卵誘発がおすすめです。
また、人工授精はだいたい5~6 回で累積の妊娠率が頭打ちになるといわれます。
えりごんさんは現在4回目ですから、あと2回程度が次のステップアップの目安でしょう。
次は体外受精、または腹腔鏡で内膜症や癒着など、何か原因がないか探してみることも有効だと思います。
漢方の活用
四物湯 、補中益気湯 、竜胆瀉肝湯という漢方薬を服用されていますが、ほかにおすすめはありますか?
操先生 四物湯は血の巡り、補中益気湯は気の巡りを整えて元気にするような薬ですね。
竜胆瀉肝湯は体の丈夫な方に使う薬で、不妊症に使われることもあると聞きます。
婦人科の処方で一般的によく使わ れるのは温や経湯当帰芍薬散 、加味逍遥散 、桂枝茯苓丸などですが、患者さんに応じて処方もさまざまです。
漢方薬は西洋薬と組み合わせて使うこともできますので、排卵誘発剤と合わせても使いやすいと思います。