田中 雄大 先生 慶應義塾大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医 学会生殖医療専門医。大和市立病院産婦人科勤務、内視鏡手術の専門 病院を目指した矢崎病院婦人科での勤務などを経て、2009年、矢崎病院 に不妊治療専門の湘南IVFクリニックを開設。その後、2012年にメディカ ルパーク湘南を開設。聖マリアンナ医科大学非常勤講師。B型・かに座。 最近ルービックキューブにはまっているという先生。子どもの頃は1面しか揃 えられず、6面揃えるのが夢だったそう。今は6面を数分で揃えられるように なり夢を実現! 次は4×4列、5×5列のキューブに挑戦しようと思案中です。
犬野さん(35歳)からの相談 Q.治療歴4年。完全自然周期で採卵4回、そのうち8分割の初期胚移植を2回し、 hCG0.0。残り2つは空胞でした。その後転院し、毎回違う誘発法で採卵5回、必ず1 つは胚盤胞まで育ち(4BC、4AA、5BC、4BB、4AB)、5回移植しましたが、結果は すべてhCG0.0でした。4cmほどの筋層内筋腫が5つあり、どのくらい影響している のかわからないものの、昨年手術をしました。しかし、手術後初の移植(4AB)でもやはり 同じ結果でした。毎回凍結胚を戻し、アシステッドハッチングやシート法も行っています。 AMHは2年前で40歳前後の数値だったそうです(19pmol/L)。医師からは受精卵 のDNA配列の異常が原因と言われています。
着床障害の原因
移植しても着床しない原因は?
田中先生 4年間で移植の回数が7回なので、相当のご苦労をされていると思います。
hCGが0・0ということは化学流産でもなく、まったく着床していないということで、いわゆる着床障害という状況だと思います。
原因はわからない場合が多いのですが、原因に近づくことは可能です。
そのためにまずトラブルシューティングをする必要があります。
要因は母体側と受精卵側に分けて考えます。
母体側の要因は、一般論として子宮筋腫が関連している可能性、内腔の状態、卵管水腫で逆流している可能性について考えていきます。
犬野さんの場合は、子宮筋腫がありました。
筋層内筋腫でも着床障害の原因になることはよくあることです。
子宮は蠕動運動といって、腸と同じようにゆっくり収縮しているのですが、内腔の着床する場所とはまったく違うところに筋腫があっても、収縮が強くなり着床した卵を出してしまうという論文があります。
犬野さんも、筋腫が関係している可能性があると疑い、手術をされたと思います。
着床前診断をしないと分からない
受精卵のDNA配列の異常が原因といわれたそうですが。
田中先生 母体と受精卵、どちらの要因が強いかというと受精卵のほうになります。
一般論として、Cのグレードに入っていない良好胚盤胞でも相当な頻度で染色体異常を含有しているといわれています。
グレードの悪い受精卵だとさらにその確率が高いということもわかっています。
しかし、受精卵に原因があったのかどうかは着床前診断でもしない限りわかりません。
犬野さんはCのグレードに入っているものを3回移植されていますが、どちら側に要因があるかを見極めるために、少しでもグレードの悪い卵は戻すべきではないと思います。
シッカリと検査する!
今後、どうすればいいでしょうか。
田中先生 まず免疫学的な異常がないかの検索、抗カルジオリピン抗体や抗リン脂質抗体症候群などの習慣流産、不育症の検査、それから甲状腺の検査もしたほうがいいでしょう。
検査をしても原因がわからないことは多いのですが、何か工夫をして変化をつけていくべきだと思います。
あとは移植の方法の工夫です。
すでにやっていらっしゃるシート法、アシステッドハッチングのほかに、リンパ球移植や、内膜にわざと少し傷をつけて一度きれいにリセットするという方法もあります。
犬野さんにはいくつも明るい材料 があります。
まず毎回胚盤胞までいっていること。
AMHが 40 歳前後の値とのことですが、 19pmol /Lは 35〜 36 歳の値で年相応で、だからこそ胚盤胞に到達するのだと思います。
また手術後の移植がまだ1回であること。
環境がよくなったことは間違いなく、過去の回数は数えず新たな気持ちでいい受精卵だけを選んで戻していけば希望が持てると思います。