45歳での妊娠は無理?もう治療を諦めるべき でしょうか
45歳という年齢での不妊治療。
妊娠の可能性はあるのか、 それとももう治療はあきらめるべきなのか……。
京野アートクリニックの京野先生にお聞きしました。
京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学教室入 局。1983年、チームの一員として日本初の体外受精による妊娠出 産に成功。1995年レディースクリニック京野(大崎市)開院、2007 年、京野アートクリニック(仙台市)開院。そして2012年秋、東京・高 輪に新クリニック「京野アートクリニック高輪」を開院。100年以上継 続するクリニックを目指し、真摯な姿勢で生殖医療に取り組む。同院で は、未婚の方向けに男女ともに受けられる「ファティリティチェック」をス タート。ホルモン検査やAMH、子宮頸がん検診、精液検査など、結婚 前に妊娠力を調べて、不妊や少子化を防止していきたいそうです。
目次
ドクターアドバイス
見た目がきれいな受精卵ができても、 質がいいものだとはいいきれません
まれですが、卵巣や受精卵に負担をかけない 治療法で妊娠したケースも
海さん(45歳)からの投稿 Q.海外で不妊治療をしています。43歳で治療を始め、これまでにAIHを7回、 IVFを2回行っています。昨年春にIVFで妊娠しましたが、16週で染色体異常が見つかり、赤ちゃんを諦めました。その後、「これを最後に」と覚悟してIV Fを希望しましたが、医師からは「年齢からしてすべて卵子が老化しているの で、治療をしてもまったく無駄」ということで、治療を断られました。排卵は毎 月正確にあるので、自然周期による採卵の可能性も聞いたのですが、「卵子 自体の質が老化しているので、やっても意味がない」とのことでした。年齢が 高いとすべての卵子の質が悪い? そもそも卵子の老化とはどういうことな のか。本当に治療を諦めたほうがいいのでしょうか。
これまでの治療データ
検査・ 治療歴
43歳で不妊治療をスタート。
検査の結果は特に問題なし。
まず人工授精に7回トライ。
治療中、医師からは「年齢の割に卵巣刺 激の反応がいい」といわれる。
44歳からは体外受精にステップアップし、2回実施。
アンタゴニスト法で卵巣刺激をして、1回目は3個採卵し、うち2個が 受精。
妊娠したが、16週で染色体異常が確認され、妊娠の継続を諦 める。
2回目は1個採れて受精はしたものの、妊娠には至らず。
不妊の原因 となる病名
年齢による卵子の老化
精子データ
特に問題なし
海外なら卵子提供へ
海さんは現在、海外で不妊治療を受けていて、医師から「もう治療をしても無駄」と断言されて落ち込んでいるとのことですが。
京野先生 45 歳という年齢だったら、おそらく海外の施設では自分の卵子を使って治療を続けることを考えないでしょう。
海さんがどちらの国で治療を受け られているのかわかりませんが、たとえばアメリカでは、採卵する際、低刺激や自然周期という方法はほとんどとりません。
たくさん注射をして卵巣を刺激し、採れた人だけ治療をしていく。
採れなかった人はもう治療は行わず、卵子提供というステップへ進みますから。
合理性を重視し、あいまいなこと はしないという国民性からきているのか、極めて確率の低い方法にお金や時間をかけるより、妊娠する可能性が高い他人の卵子を使って治療する方法を選択する。
施設はもちろんですが、患者さんもそのような考え方に違和感はないようです。
年齢と流産率
やはり、この年齢では妊娠する確率はかなり低いのですね。
京野先生 45 歳では、たとえ妊娠しても8割以上の方が流産してしまいます。
体外受精を行っても、生産率、つまり元気な赤ちゃんが産まれる確率は1~2%程度。
厳しい現実になりますが、 45 歳を過ぎての健全な出産は奇跡ともいえます。
海外だけではなく、日本においてもそろそろ治療のタイムリミットに近づいてきている時期ではないでしょうか。
ミトコンドリアと染色体分裂
年齢からくる卵子の老化ということですが、老化するとどのような状態になってしまうのでしょうか。
京野先生 本来卵子が持つべき働きやシステムが低下していきます。
たとえば、細胞の中にある細胞小器官の一種であるミトコンドリア。
これは生命活動に必要なエネルギーを取り出す役目を担っており、受精卵のミトコンドリアは卵子のものだけが受け継がれます。
高齢になると、このミトコンドリアが均等に分散せず、局所的に集まってしまうという異常を起こすようになるんですね。
また、正常な状態なら、卵子と精子が受精するとカルシウムが頻繁に放出されるのですが、その振幅も小さくなり、ポツンポツンとしか出てこなくなってしまう。
染色体が分かれるシステムもうまくいかなくなり、「染色体の不分離」といって、染色体が均等に分離しなくなってきます。
受精をして見た目には非常にきれいな受精卵ができたとしても、それが質のいいものだとは断定できません。
受精したかどうかが重要ではなくて、その後の胚発生の状態が大事。
目に見えないところ、つまり染色体などに異常があれば胚は正常に成長していきませんし、子宮に戻したとしても流産になってしまうことが多いんですね。
45歳以上で妊娠するには…
ということは、高齢になると残っている卵子すべてが老化していて、妊娠につながる質のいい卵子はないということになりますか?
京野先生 すべてとはいいきれません。まれなケースですが、 45 歳以上でも妊娠・出産される方もいるので、その時はたまたま質のいい卵子が出てきたということですね。
個人差はありますが、なかには 45 歳でも卵子が 10 個以上採れる人もいます。
しかし、いい卵子が出てくる確率が加齢とともにどんどん低くなっていくということは事実です。
通常、卵胞の数は 50 歳で0、 45 歳 だと1000個くらい残っているといわれています。
1回の排卵で500個くらいなくなることもあるので、チャンスはかなり少ないといえるでしょう。
アメリカの大学での研究によると「 45 歳以上で妊娠した人は、卵子が5個以上採れた人に限られる」というデータが出ています。
高齢の方でもある程度卵子の数が採れれば、その中に質のいいものがある可能性を望めるかもしれません。
高齢患者の不妊治療は
45 歳以上の方が妊娠するための治療法は研究されていないのでしょうか。
京野先生 日本では 48 歳で妊娠されて、 49 歳で出産したケースが報告されています。
それは、卵巣や受精卵にストレスをかけない方法で治療して成功したんですね。
卵巣刺激は、子宮内膜を薄くしてしまうリスクがあるクロミッド ® は使わず、フェマーラ ® を使う。
当院でも高齢の方にはそのような方法をとりつつあります。
高齢の妊娠~出産は難易度が高い
海さんは、次は自然周期での採卵に可能性をかけたいようですが。
京野先生 注射を続けているとだんだん卵巣の反応が悪くなってきますから、自然周期という選択も考えられるかもしれません。
国内での治療なら、おそらく次は低刺激か自然周期での採卵になると思いますね。
ただし、やはり年齢を考えると、結果としてはこれまでと大きな違いが出ることはないかと思います。
ゼロではありませんが、治療をしても妊娠する可能性は極めて低い。
その現実を踏まえたうえで、治療を続けるか、やめるか、もしくは卵子提供という形を選択するか、ご夫婦でよく相談してお決めいただきたいと思います。