乳がんの放射線治療後に子宮卵管造影検査を受けても大丈夫ですか?

がんの放射線治療後に受けるレントゲン検査への不安や 乳がんを経験した人に適した不妊治療について、 京野アートクリニックの京野先生にアドバイスをいただきました。

京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学教室入局。 1983年、チームの一員として日本初の体外受精による妊娠出産に成功。 1995年レディースクリニック京野(大崎市)開院、2007年、京野アートク リニック(仙台市)開院。そして2012年秋、東京・高輪に新クリニック「京野 アートクリニック高輪」を開院。100年以上継続するクリニックを目指し、真 摯な姿勢で生殖医療に取り組む。高輪クリニックの窓の外は、春になると見 事な桜が咲き誇ります。ここ数年は震災、高輪クリニックの開設準備と忙し くなかなかお花見を楽しめなかった先生。今年はこの廊下で患者さんたちと ゆっくり眺めたいそう。

ドクターアドバイス

がん治療で照射した部位とは異なり、 検査自体も数分で終わるものなのでご心配されることはないと思います。
けろこさん(38歳)からの相談 Q.不妊治療を開始しました。子宮卵管造影の検査を受ければひと通り検査は終了な のですが、受けたほうがいいのかどうか迷っています。理由は、乳がんの放射線治療を受けてまだ1年も経っていないからです。今は投薬などもなく経過観察だ けですが、1年もしないうちに体に放射線を浴びることに抵抗があります。やはりこの検査は受けておくべきでしょうか。 妊娠を望んで本格的に活動しているのは半年程度なので、もうしばらく経ってか ら検査を受けても大丈夫でしょうか。年齢的に少し焦りの気持ちもあるので、どう すべきか迷っています。

【けろこさんのデータ】

検査・ 治療歴

10カ月ほど前に乳がんの手術(左乳房温存)を実施。
術 後2カ月から約2カ月間、放射線治療を受ける。
現在、投薬はなく、経過観察のみ。
がん以外の疾患では子宮筋腫を持っているが、特に治療 はしていない。
不妊の検査については、子宮卵管造影検 査以外は一通り終了。

現在の 治療方針

不妊については検査中で、治療方針はまだ決まっていない。

子宮卵管造影の被ばく

まず、乳がんの放射線治療後の子宮卵管造影検査についてお伺いしたいのですが、これについて心配はありますか?
京野先生 放射線治療、レントゲン検査と続けることで、より多く被曝してしまうのではないかと不安になられているようですが、心配されることはないと思います。
放射線治療は通常、目的の部位を狙って行います。
最近の治療は生殖器などに影響がないよう、かなり気を配って行われます。
子宮卵管造影検査は、卵胞期後期(月経終了後から排卵の前)に行います。照射する場所も異なるうえ、検査自体は数分で終わるものなので、ご心配されることはないと思います。

子宮卵管造影の必要性

それでも心配な場合は、検査を受けなくてもいいのでしょうか。
京野先生 どのような不妊治療をご希望かによると思います。
子宮卵管造影検査は基本的に、卵管の通過性や詰まりなどを調べるために行うものです。
ですからタイミング療法や人工授精など一般不妊治療を望まれている場合は、この検査はやはり受けるべきだと思いますね。
一般不妊治療のステップを飛ばし て、体外受精からスタートするという場合は、無理に子宮卵管造影検査を受ける必要はないと思います。

乳がん患者の不妊治療

検査については心配ないということですね。では、治療についてはどうでしょう。乳がんを経験された方が不妊治療に臨む場合、注意するべきことはありますか。
京野先生 けろこさんの乳がんの進行はどの程度だったのでしょうか。
がんの組織をみて、エストロゲンプロゲステロンなどホルモンのレセプター(受容体)や、HER2という遺伝子タンパクを調べると、がんの進行具合や適した治療法がわかります。
また、採卵するための卵巣刺激法も、これらの検査結果によって変わってきます。
けろこさんは放射線治療でいったんがんの治療が終了しているようなので、初期の段階のがんだったのだろうと推測されますが、状態によっては抗がん剤による化学療法やホルモン療法が必要になり、それが5年程度続くこともあります。
その間は、不妊治療を行うことができません。
また、化学療法でアルキル化剤系の抗がん剤を使用した場合は、妊娠に弊害が出ることもあります。
この薬は卵巣毒性がかなり強いので、採卵の際、卵子がなかなか採れなくなってしまうのです。
もしそのような薬を使用した場合は、半年~1年くらい期間をあけてから不妊治療を行うことになります。
このようにさまざまなケースが考えられるので、まずはがんの状態をしっかりと調べ、すぐに不妊治療に入れる状況なのかどうかを見極めることが大切だと思います。

状況に合わせた選択肢

治療はどのような方法が適しているのでしょうか。
京野先生 特にエストロゲンレセプターが陽性の方は、エストロゲンの値を上げるような治療は好ましくないと思いますね。
もし体外受精に進むことになったら、卵子を採るために卵巣刺激をしなければいけませんが、乳がんの方には現在、レトロゾールという薬剤を使って刺激を行っています。
これはアンチエストロゲン剤といって、エストロゲンを抑える薬でもあるんですね。
注射と併用しても、血中のエストロゲン値があまり上がらないので、乳がんの患者さんにも安心して使用できるものです。

卵巣機能とステップアップ

けろこさんはまだ不妊治療に入られたばかりですが、これからどのような治療方針を立てていけばいいのでしょうか。
京野先生 乳がんについては、組織からがんの状態をしっかり診ていただきましょう。
不妊治療については、 38 歳という年齢が少し気になります。
30 代後半というと、健康な方でも卵巣機能が低下してくる年代ですから。
ひと通り不妊に関する検査はされたということですが、一般的な検査に加え、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の検査も受けてみるといいと思います。
AMHの値が低いと卵巣予備能がかなり低下しているということなので、あまり時間の猶予はありません。
その場合は、体外受精からスタートするという選択肢も。
子宮筋腫もあるようですから、いずれにせよステップアップを早めに考えていただいたほうがいいでしょう。

担当医との意思疎通

乳がんを経験された方でも妊娠の望みはありますか。
京野先生 乳がんを経験された方で不妊治療をしている方は多くいらっしゃいますし、妊娠・出産される方も少なくありません。
妊娠の可能性はもちろんありますが、不妊治療ががんに影響を及ぼすリスクがゼロとはいえません。
卵巣刺激法を含め、がんの担当医の先生と密に連携を取りながら、治療を進めるのが安心だと思います。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。