「子宮体がん0期」とも考えられている子宮内膜異型増殖症。 治療法の選択や妊娠の可能性について 高崎ARTクリニックの堀川先生にお話を伺いました。
【医師監修】堀川 隆 先生 琉球大学医学部卒業。国立国際医療センター、国立成育医療センター不 妊診療科勤務を経て、2009年12月より高崎ARTクリニック院長に就任。 国際医療センター勤務時より内視鏡手術・生殖補助医療に従事。成育医療 センターでは難治性不妊治療・加齢と不妊についての研究に取り組む。B 型・みずがめ座。1月は東京でも珍しく雪が積もりました。都会ではあまり歓 迎されませんが、沖縄出身の先生は大喜び。お子さんたちと雪だるまを作った り、雪合戦をして、とても楽しい想い出になったそう。
目次
ドクターアドバイス
黄体ホルモン製剤の量をもっと増やしてみては?
がんを診る先生、不妊治療専門医、両方の意見を聞いて今後の方針を
Z— さん(27歳)からの投稿 Q.10カ月前、「子宮内膜異型増殖症」と診断されました。結婚したばかりだった ので、妊娠希望にて治療がスタート。ヒスロン®200㎎を8週間飲んで子宮内膜掻爬術を行う、という治療を6回行いましたがダメでした。子宮体がんⅠ期に 進行しないかぎり、掻爬術をくり返しても大丈夫ですか? いつまでもこの状 態が続くなら、早めに子宮を全摘出したほうがいいのでしょうか。 もし不妊治療のステップを踏むことができても、増殖は続いていく? 赤ちゃ んに影響は? 先生に「早く妊娠させなくてはいけない」と言われましたが、ど うすればいいのか悩んでいます。
これまでの治療データ
検査・ 治療歴
子宮頸がん検査は以前から定期的に行っていた。
検査の時、 一度「子宮内膜肥厚」といわれたことがある。
結婚後、子宮体がん検査を行い、現在の病気が判明。
これまでヒスロン®の服 用と子宮内膜掻爬術を6回行う。
不妊の原因となる病名
子宮内膜異型増殖症
生理の状態
半年に一度来るかこないか程度。
生理が来ると、ごく少量の 出血が2週間ほど続いていた。
生理痛はまったくなし。
子宮内膜増殖症とは
まず、子宮内膜増殖症とはどのような病気で、どのような人がかかりやすいのでしょうか。
堀川先生 子宮内膜増殖症は、その名前の通り、内膜の組織が過剰に増殖してしまう病気です。
子宮内膜は妊娠の準備のために厚くなっていくものですが、妊娠が成立しなかった場合は生理という形で増えた内膜が剥がれていきます。
ところが生理がきちんと来ないと、厚くなった内膜がずっとそのままの状態になり、そればかりではなく、正常ではない細胞も増えてきてしまうのです。
ですから、排卵障害などで生理がなかなか来ないという人はこの病気になるリスクが高いと思います。
この方も極端に生理が少ない状態ですから、おそらくそれが病気を引き起こしている原因ではないでしょうか。
まだ 27 歳とお若いのですが、年齢は関係ありますか。
堀川先生 やはり生理が関係している病気だと思うので、そう考えると比較的若い方に多いのかもしれません。
40 代や閉経後となると、子宮体がんということになってくるのではないでしょうか。
放っておくと子宮体がんに
子宮内膜増殖症は、がんの一種なのですか?
堀川先生 完全ながんとはいえませんが、放っておくと子宮体がんに進行するかもしれないという状態、前がん病変と考えられています。
子宮内膜増殖症には2つのタイプがあり、正常な内膜が増えているだけという場合は、ピルなどを使った治療で生理が順調に来るようになると、自然に治ることもあります。
がんに進行するケースも数%にすぎません。
しかし、この方が診断された子宮内膜異型増殖症の場合は、正常ではない異型の細胞もどんどん増えてしまうので、それががんになってしまうリスクがあります。
子宮内膜異型増殖症の2~3割ほどはがんに進行すると報告されており、子宮体がん進行期分類の0期にあたる状態であると考えられています。
治療法の種類
ヒスロン ® という薬の服用と子宮内膜掻爬術による治療をされたそうですが、これはどのような効果が期待できる治療なのでしょうか。
堀川先生 ヒスロン ® というのは黄体ホルモン剤のことです。
子宮内膜は、エストロゲンという女性ホルモンの作用によって厚くなります。
ヒスロン ® にはプロゲステロンと同様の作用があるため、異型の細胞を減らすことが期待できます。
子宮内膜掻爬術は、子宮内にスプーン状の器具を挿入し、厚くなった内膜を剥がしてかき出す外科的な施術です。
組織を採って異型の細胞やがんがないか調べることが一番の目的ですが、掻爬により悪い病変が全部取れてしまう場合もあるので、治療になることもあります。
いずれも妊娠を希望される場合には、スタンダードな治療法となります。
子宮内膜掻爬術
この方の質問にもありますが、掻爬術を何度もくり返してもいいのでしょうか。
堀川先生 掻爬術を行うと、子宮内膜にある程度のダメージを与えてしまうことは否定できません。
着床への影響を考えてしまうかもしれませんが、内膜に傷を残さないように控えめにやるよりは、病変を取るためにしっかり掻爬をしたほうがいいと思います。
ただし、いつまでも続けるというのもよくないのではないかと思います。
これまで6回行われたということですから、あと3回、4回と期間を決めて、区切りをつけることも必要だと思います。
今後の治療方針
今後、どのような治療方針を立てていったらいいですか。
堀川先生 もうしばらくヒスロン ®の服用と子宮内膜掻爬術の治療を続けられるということでしたら、ヒスロン ® の量を増やしてみてはどうでしょうか。
個人的には、このような場合の治療において200 mg はちょっと少ない量かな、という印象を受けます。
一般的には400 mg や600 mg というケースが多いので、薬の量を増やしてトライするのも一つの方法かと思います。
担当の先生がおっしゃるように「早く妊娠させなくてはいけない」というのは確かで、妊娠を急ぐためにすぐに体外受精などの不妊治療に入るのも選択肢の一つだと思いますが、子宮内膜増殖症を持ったまま妊娠される方は少ない傾向があるので、できればまず病気を改善したいところです。
しかし、病気が進行していくようであれば、がんのリスクがありますから、最終的には子宮全摘出という選択もあるでしょう。
どれだけお子さんを望んでいるの かをご家族とじっくり話し合い、さらにがんを診ていただける先生と不妊治療専門の先生、両者のご意見を聞いて治療方針を決められたほうが望ましいと思います。
もし妊娠された場合、赤ちゃんへ の影響は心配ありませんが、癒着胎盤などの産科的リスクが生じやすくなるかもしれません。
その時は産科の先生にしっかり経過を診ていただけば心配はないかと思います。