腹腔鏡下手術の後、人工授精4回で妊娠せず。今後どうしたらいいですか?【医師監修】

子宮内膜症の手術後、排卵誘発剤を使った人工授精でも  妊娠しない場合、体外受精に進むべき? メディカルパーク湘南の田中先生にお聞きしました。

【医師監修】田中 雄大 先生 慶應義塾大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学 会生殖医療専門医。大和市立病院産婦人科勤務、内視鏡手術の専門病 院を目指した矢崎病院婦人科での勤務などを経て、2009年、矢崎病院に 不妊治療専門の湘南IVFクリニックを開設。その後、2012年にメディカル パーク湘南を開設。聖マリアンナ医科大学非常勤講師。B型・かに座。昨年、 患者さんのお子さんからクリスマスカードをいただいたそう。開くと「卵の先生、 卵のプレゼントをお願いします」と、かわいいメッセージが。「弟や妹が欲しくて たまらないんですね。これはやる気がさらに出ます。燃えました!」と田中先生。

ドクターアドバイス

人工授精の回数は多くても7回まで。ステップアップを考えて
2~3カ月間薬を使わずタイミング療法のみにするのも心身のリフレッシュに
凛さん(36歳)からの投稿 Q.妊活2年目です。子宮卵管造影検査は問題なく、子宮内膜症で2012年2月 に腹腔鏡下の手術を受けています。 これまでにクロミッド®を使用して人工授精を4回行いましたが妊娠しなかっ たので、次回はゴナールエフ®を生理5日目から1週間使用して人工授精す る予定です。主治医からはゴナールエフ®で卵子の状況がよかったら、あと2 ~3回人工授精をしてみて、その後は体外受精だねと言われました。ゴナー ルエフ®がダメなら、ほかに薬はあるのでしょうか? 精神的にもつらくなって きたので、今後このまま治療を続けるか悩んでいます。

これまでの治療データ

検査・ 治療歴

不妊治療歴2年。
LH-RH-TRHテスト、子宮卵管造影検査、ヒューナーテスト、 すべて問題なし。
2012年2月に腹腔鏡下子宮内膜症病巣除去術。
タイミング療法7回、人工授精4回。

不妊の原因となる病名

子宮内膜症(手術済)

精子 データ

精子数: 3800万/mL、6600万/mL
精子運動性指数: 267
高速前進運動精子濃度: 2780万/mL

チョコレート嚢胞と腹腔鏡手術

1年前に腹腔鏡下子宮内膜症除去術をされたとのことです。
田中先生 腹腔鏡手術をされたということは、おそらく卵巣チョコレートのう胞だったのではと思います。
一般的に、チョコレートのう胞があると周りに炎症反応が起こり、卵巣のいい状態の部分の機能も低下することがわかっています。
しかし一方で、手術によって卵巣を部分切除することによる卵巣の機能低下も考えられますので、患者さん一人ひとりの状況をよく考えて、手術するかどうかを決めていきます。
凛さんの場合は手術したほうがいいとの主治医の先生のご判断だったのでしょう。
 腹腔鏡手術で切除したということ だと思いますので、もし再発していれば超音波検査ですぐにわかります。
医師に特に何も言われていないのであれば、再発はしていないと考えていいと思います。
ほかに月経痛がひどくなったなどの症状がなければ、内膜症のことは考えずに治療を進めて大丈夫でしょう。

内膜症手術後のゴールデンタイム

腹腔鏡手術をした後、人工授精を4回したものの、妊娠しないということですが。
田中先生 腹腔鏡で内膜症の治療手術をした場合、1年間はゴールデンタイムといわれていて、自然妊娠の確率が上がります。
手術によってお腹の中の洗浄効果があるからです。
凛さんはそろそろ術後1年ですから、自然妊娠の可能性が薄れ始めてきている時期です。
また、人工授精の累積妊娠率は、一般論で6~7回目で頭打ちになることはよく知られている事実です。
妊娠者数は回数に比例して増えていくわけではなく、1回もしくは4~5回に集中します。
当院のデータでも 75 ~ 80 %の方は4回以内に妊娠しています。
ですから、漫然と人工授精をくり返しても効果は期待できません。
主治医の先生が「あと2~3回人工授精で、それから体外受精」と言われたのは、そういった理由があると思います。

人工授精でうまくいかない時は?

現在は薬を服用しながら人工授精をされているようですが、次はどのような治療が考えられますか?
田中先生 ゴナールエフ ® は排卵誘発剤で、遺伝子組み換え型のFSH製剤です。
当院では、人工授精までは自然妊娠という位置づけで、排卵誘発剤はなるべく使わないようにしています。
凛さんは月経周期に多少ずれがあるのか、排卵障害があるために使っているのかもしれませんが、使用の理由がはっきりわからないですね。
 次に考えられる治療としては、次 回予定しているように排卵誘発剤を変えてみる、または薬の量を増やし、あえて過排卵刺激をして人工授精を行うという方法があります。
しかし、薬の量を増やすと過排卵刺激になり、卵子がいくつも発育して多胎妊娠のリスクも増えるので、先生とよく相談する必要があります。
 ほかには、内膜症による癒着があ るかもしれないので、もう一度腹腔鏡を使って確認して洗浄する方法、あとは体外受精が考えられます。
 治療のステップはこのようにいく つかありますが、薬を変えてもそれほど大きな変化があるわけではなく、腹腔鏡手術をもう1回行うというのもハードルが高いと思いますので、体外受精が可能性としては一番高いかなと思います。
凛さんは「精神的にもつらくなってきた」とも書かれていますね。
これは、同じ治療のくり返しで結果が出ず、「どうせ今回もダメだろう」と気持ちが折れてしまう、よくあるケースです。
こういう場合、何か治療に変化をつけたほうがいいと思いますので、思い切ってステップアップしてみるのがいいと思います。
 前回の手術から1年経っているこ とや人工授精の回数、精神的なことなどから考えても、今後の治療のベクトルは体外受精のほうに向いているような気がしますね。

ステップアップも、ステップダウンも

田中先生なら、どのように治療を進めますか?
田中先生 内膜症があっても治療せずに、いきなり体外受精を行うというケースもありますが、凛さんは1年近くかけて内膜症を治療して自然妊娠を試みていらっしゃいますね。
これは年齢的にもよかったことだと思います。
道筋を立てて治療してこられて、できることはやりつくしていると思います。
あと2~3回人工授精をするかどうかですが、もし私なら、すぐに体外受精に進むことをおすすめします。
それは、凛さんの折れそうになっているお気持ちも考えてのことです。
 もし「まだ体外受精は……」と迷わ れているなら、ステップダウンして、2~3カ月間はタイミング療法だけでトライしてみるというのもいいと思います。
人工授精もせず、治療からわざと距離をおくのです。
タイミング療法ならお金もかかりません。
排卵誘発もしないで、本当に自然のままにします。
誘発剤によって卵巣を疲れさせることもなく、体の調子を整える期間としても2~3カ月おくのはいいと思います。
それでも妊娠しない場合は、満を持して体外受精に進んではいかがでしょうか。
これまで毎月毎月、そうとう頑張ってこられたと思います。
少し治療から距離をおいてリフレッシュできれば、また新たな気持ちで体外受精に入れるのではないでしょうか。
※チョコレートのう胞:卵巣にできた子宮内膜症の炎症部位から出血した血液が中に溜まり、袋状になったもの。チョコレートのう腫ともいう。
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