【医師監修】田中 雄大 先生 慶應義塾大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖 医学会生殖医療専門医。大和市立病院産婦人科勤務、内視鏡手術 の専門病院を目指した矢崎病院婦人科での勤務などを経て、2009 年、矢崎病院に不妊治療専門の湘南IVFクリニックを開設。聖マリ アンナ医科大学非常勤講師。B型・かに座。今年5月にクリニック が入院設備や産科などを兼ね備えた大きな施設に生まれ変わり、経 営者としても多忙な日々を送っている田中先生。そんななかでも、診 察や手術など、患者さんと向き合っている時間が一番幸せだそうです。
だいちゃんさん(44歳) Q.これまでに体外受精で10回以上の採卵、移植をしています。AMHは1 以下で、エストロゲンが少なく自力では排卵は起きないかもしれません。 毎月、プレマリン® を補充しクロミッド® で刺激して、セトロタイド ®と HMG注射で卵胞を育てて採卵しています。長年の体外受精で卵巣機能も 衰え、体も疲れやすくなっています。 少しでも質のいい卵子を採取したく、プラセンタに興味があるのですが、 いろいろ種類があって迷います。プラセンタは、卵巣機能にどのように働 くのでしょうか? また、注射のプラセンタはサプリメントより効果が得ら れるのでしょうか?
プラセンタの効用
まずは、プラセンタについて教えてください。
田中先生 プラセンタというのは胎盤のことで、薬製剤を注射で打つ方法と、内服薬で摂取する方法があります。
薬剤はヒトの胎盤を抽出したもの、内服薬は動物性のものが使われています。
プラセンタは現在、アンチエイジング効果が期待され、卵巣機能が改善する可能性も期待されています。
しかし、エビデンスがあまりなく、本当に効果があるのか、なぜ効果があるのかもわかっていません。
しかし、当院でプラセンタ注射を行っている人にアンケートを取ってみたところ、 95 %以上の人が「効果が感じられた」と回答し、その内容は「疲労・倦怠感改善」が最も多く、次に「体力回復」「保湿」「肩こり解消」「シワ・たるみ改善」と続きます。
私自身も、疲れが溜まってきた時にたまに打つのですが、本当に元気が出る気がします。
また、卵巣機能が低い数人の方にプラセンタを使いながら採卵をしたところ、妊娠されたという経験もあります。
ですから、少なくとも悪い効果はないと思います。
また、内服薬より注射のほうが即効性があり、効果を感じやすいようです。
プラセンタを取り巻く環境
プラセンタ療法を注射で行う場合の、具体的な料金や頻度は?
田中先生 プラセンタには、更年期障害で保険適用になるものと、美容目的に使われる自由診療のものの2種類があります。
自由診療ですと1回2〜3アンプルを使用し、1〜2週間に1回のペースで注射します。
金額は施設によって違いますが、1回2000〜5000円程度です。
保険適用になると、1回1アンプルしか使えず2〜3日に1回のペースになります。
当院では、通院できる回数によって使い分けておすすめしています。
ただし、1つ注意が必要です。
これは人間の胎盤を抽出したものですから、血液製剤となります。
ですから、血液由来の感染症のリスクがゼロではないことを理解しておかないといけません。
また、最初に「今後は献血をしないこと」など、厚生労働省が出している承諾書にサインをいただくことになります。
こうお話しすると、物々しい感じがするかもしれませんが、過去に事故は起こっていない薬剤です。
基本的には安全に使用できると思います。
移植のやり方も色々
最後にアドバイスをください。
田中先生 10 回以上採卵、移植をされているということは、着床障害の可能性があります。
そこに関しての検査や治療、移植の工夫はされていらっしゃるのでしょうか。
44 歳ですと移植まで至らない方もたくさんいらっしゃいますから、移植できていることを前向きな材料としてとらえ、まずはその治療をしたうえで、補助的にプラセンタを使用するのが効果的だと思います。
※セトロタイド®:GnRHアンタゴニスト製剤で、調節卵巣刺激下における早発排卵を防ぐ。