【医師監修】柏崎 祐士 先生 京都府立医科大学医学部卒業。2000年まで日本大学板 橋病院で主に不妊治療に従事し、その間、米国エール大学 医学部産婦人科で研修。その後、「かしわざき産婦人科」 副院長に。日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産科婦 人科学会認定医。O 型・おとめ座。「子どもの頃からジェッ ト機が大好きなんです」という先生。お気に入りの機体は、 ボーイング767。大宮在住ながら、東京-大阪の出張でも 新幹線は使わず、必ず飛行機で移動するとか。
リーガルさん(29歳) Q.男性不妊です。無精子症で5日前に MD -TESEをしましたが、結果は非 閉塞性でした。ホルモンは正常、精細管は太いものばかりということでし たが、左右合わせて精子が10匹程度で、すべて高度奇形精子だったとの こと。「精母細胞から精細胞への成長がうまくいっていない」との診断で、「マ チュレーション・アレスト」との説明を受けました。 ホルモンに異常はないといわれているのにホルモン療法も提案されていま すが、する価値があるのか疑問に思っています。このようなケースでほかに 何かいい治療法はあるのでしょうか。治療以外では自分たちの判断でビタ ミンC・Bや亜鉛などのサプリを飲んでいます。
精子が成熟しない??
リーガルさんが医師から説明を受けた「マチュレーション・アレスト」とは、どのような状態をいうのですか?
柏崎先生 マチュレーションは「成熟」、アレストは「止まってしまっている」という意味です。
精子は精巣で新たなものが日々つくられており、そのまま精巣内で成熟して精細管を通り、外に出てきます。
しかし、何らかの要因で精子が成熟することができない。
射精ができる精子がいない状態をマチュレーション・アレストと呼びます。
無精子症の種類
MD―TESEを受けて、精子の回収を試みられたようですが。
柏崎先生 無精子症には、閉塞性と非閉塞性の2種類があって、成熟精子はいるけれど精子の通り道が詰まっている閉塞性の場合は、陰嚢を切開して探せば精子が回収できるので、治療はそれほど難しくはありません。
しかし、精巣そのものに問題がある非閉塞性無精子症の場合は、顕微鏡を使って精子を丹念に探さないとなかなか見つからないんですね。
本当に精子がいるのかどうか、正常な精子が回収できるのかは、実際に行ってみなければわからないところがあります。
リーガルさんのご主人は、この顕微鏡下のMD―TESEを受けられたようですが、ほとんど奇形精子しかいなかったとのこと。
残念ですが、かなり厳しい状態なのかもしれません。
男性不妊のホルモン治療
ホルモン療法は効果が期待できますか?
柏崎先生 ホルモン療法とはおそらく、FSHというホルモンを投与したり、高プロラクチンを抑える薬を使う治療だと思います。
FSH値が低値であればホルモン療法は有効かもしれませんが、高値の場合はあまり効果が期待できません。
マチュレーション・アレストの場合は、もともとFSH値が高いケースが多いので、リーガルさんのご主人がどのような状態なのかがポイントになってくると思います。
今後の治療方針
では、今後、どのような治療をしていけばいいでしょうか。
柏崎先生 ホルモン治療が有効そうな場合は、ホルモン治療をしながらMD―TESEに何度かトライしていくことですね。
大きな期待をすることは厳しいかもしれませんが、成熟精子が見つかる可能性はゼロではありません。
それでも難しいという場合、方法としては、女性側に問題がなければ、第三者からの提供精子を使って人工授精を行う非配偶者間人工授精もあります。
ご主人や医師とよく相談されて、ご夫婦が納得できる方法を選択してください。
※非配偶者間人工授精(AID):ご主人以外の男性ドナーの精液を使用して人工授精をすること。対象者の状況や精子提供者、実施施設などにさまざまな適用条件がある。詳しくはかかりつけの医師に確認を。
※MD-TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術):非閉塞性無精子症の場合に、精巣内から精子を採取する方法。麻酔をし、顕微鏡で精子がいそうな部位を探し採取する。