【医師監修】福田 勝 先生 順天堂大学医学部・同大学院修了。米国カリフォルニア 大学産婦人科学教室留学後、順天堂大学医学部産婦人 科学教室講師を経て、1993 年福田ウイメンズクリニッ ク開院。待合室のカウンターの色をグリーンからイエロ ーにリニューアル。元気が出る暖色系で先生も患者さん の気分もアップ! 培養室や化粧室などもリニューアル し、新たな環境で患者さんをお迎えします。
プリンさん(33歳)Q.ここ1年ほど無排卵です。クロミッドⓇ3錠を5日間服用後、HMG注射「F」 を1日おきに6本打ちましたが、卵胞の数が増えるだけで成長できず。不 妊治療専門病院に転院し、グリコランⓇ3錠、セロフェンⓇ2錠を5日間 服用した5日後に、さらにセロフェンⓇ2錠を5日間服用し、HMG注射 150テイゾーⓇを9本。卵胞は一番大きいもので14㎜程度。注射をする につれ小さな卵胞が増えてくるだけで、成長はずっと止まったまま。注射7 本目でホルモン検査の結果が56ほどで、LHも3.8 程度しかありません。 どうしたら排卵できるようになるでしょうか。
PCOSの疑い
これまでの治療経過を見て、プリンさんはどのような状態だと考えられますか?
福田先生 グリコランⓇという薬を使っていることから、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されていることが考えられますね。
グリコランⓇは糖尿病の治療薬です。
PCOSの方はホルモンの異常により、インスリン抵抗性が見られることがあります。
血糖値をコントロールしているインスリンというホルモンがきちんと働かなくなってしまうんですね。
プリンさんの身長158㎝・体重 65 ㎏と、肥満ぎみの体型からもそれが予測できます。
しかし、少し疑問なのは、HMGの注射をしても反応が鈍いということです。
PCOSの治療で私たちが最も注意するのは、OHSSなど卵巣の過剰反応です。
プリンさんの注射の量は比較的多めだと思いますが、ほとんど反応していません。
卵胞は見えているのでPCOSである印象は強いのですが、排卵障害には下垂体性のものなどもあるので、もう一度きちんと調べてみてもいいのではないかと思います。
PCOSの治療法
PCOSだとしたら、プリンさんにはほかにどのような治療が有効なのでしょうか。
福田先生 内科的な治療は選択肢が限られており、やはり飲み薬と注射ということになるんですね。
ですから、現在の治療をもう少し続けてみるのがいいでしょう。
転院されてから、セロフェンⓇを2回に分けて服用する二段階投与をされていますが、これは「なかなか反応しないから、また薬を飲みましょう」という少し消極的な治療のような気がします。
次は、セロフェンⓇの服用と注射を並行して行って、最初からしっかり刺激をしてみてはいかがでしょうか。
もちろん過剰反応が起きないように、うまくコントロールしていくことも必要です。
もう一つの選択肢としては、外科的な治療があります。
これは、腹腔鏡下でレーザーや電気メスを使って卵巣の表面に穴を開け、小さな卵胞をつぶしていくドリリングという方法です。
術後、しばらくするとまた元の状態に戻ってしまうという難点はありますが、改善して妊娠された例も多く報告されています。
肥満解消
肥満ぎみということですが、その点も改善が必要でしょうか?
福田先生 そうですね。
これらの治療を行っていくと同時に、生活改善をしたほうがいいでしょう。
肥満ぎみですと、やはり排卵に障害を起こしやすいので、食生活や運動などを見直していただきたいですね。
プリンさんは排卵障害がうまく改善されていけば、妊娠の可能性は十分あると思います。
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):月経異常や不妊、多毛、肥満などの症状があり、慢性的にアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰や血液中の黄体化ホルモ ンが高値(卵胞刺激ホルモン上昇を伴わない)、排卵がうまくできない原因不明の疾患。卵巣内にたくさんの小嚢胞がある。排卵誘発により卵巣過剰刺激症 候群を起こしやすい。
※OHSS(卵巣過剰刺激症候群):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水がたまるなど の症状がみられる。