【医師監修】神谷 博文 先生 札幌医科大学卒業。同大学産婦 人科学講座、第一病理学講座に 入局後、斗南病院にて産婦人科 科長を10 年間務める。1998 年、 神谷レディースクリニックを開業。 今年1月にクリニックを移転し、 電子カルテの導入や施設・設備の 充実、スタッフの増員を図った。4 月には新たな常勤医 2 名が加わっ て医師 6人体制に。よりきめ細か な診療の実現を目指している。
つゆこさん(34歳)Q.夫が無精子症と診断され、精子数は0~1個でした。精巣内精子回収術(TESE)を行いましたが、不動精子が数個あっただけで、 生きている精子が見つかりませんでした。そこで、MD-TESEをす すめられたのですが、この方法は何度もできないと聞き、最後の 手段だと思っています。採卵と同時手術で精子を採取して、凍結 せずに精子を使用する方法と、先にMD-TESEをして精子を凍結 しておき、採卵を後にする方法では、どちらのほうが妊娠率が高 いでしょうか。方法によって、選ぶ病院が違ってくるので、ぜひア ドバイスをお願いします。
無精子症とTESE
まず無精子症について、そして、TESEについて教えていただけますか。
神谷先生 無精子症とは精液中に精子がいない状態で、不妊の原因の1つです。
無精子症は大きく2つに分類されます。
1つは「閉塞性無精子症」。
これは、精子はつくられていても、物理的閉塞によって精液の中に確認できない状態。
もう1つは「非閉塞性無精子症」といって、精巣のごく一部でしか精子がつくられないなど、精子形成に問題がある状態です。
無精子症に対して行う精子採取法として、TESEという方法があります。
閉塞性無精子症で睾丸容積が正常の人は、精子の通り道が詰まっているだけで精子はつくられているわけですから、精巣のごく一部の組織を採る「ニードルTESE」という方法で、精子を採取できる可能性が高いです。
しかし、非閉塞性無精子症が予想される人、睾丸容積が小さめの人は、精子がいる可能性の高い太い精細管を採取するMD ―TESEという方法を行うのが妥当です。
つゆこさんのご主人の場合、検査結果で精子がゼロではなかったので、まずは負担の軽いニードルTESEを行ったのでしょう。
MD-TESEでの可能性
MD―TESEで精子が採取できる可能性はありますか?
神谷先生 ニードルTESEで運動精子が見つからない場合でも、MD―TESEを行うことで見つかるケースが5〜6割です。
ただし、非閉塞性無精子症の場合は見つかるのは3割程度といわれています。
採精後の手法
つゆこさんは、凍結精子を使うか、同時手術で凍結せずに使うかで迷っていらっしゃるようです。妊娠率は違ってくるのでしょうか?
神谷先生 同時に手術をしても、凍結精子を使っても、妊娠率は変わらないといわれています。
採卵と精子採取を同時に行うことは、排卵とのタイミングもあるため、泌尿器科の医師が常駐しているなど環境の整った病院でなければできません。
閉塞性無精子症で精子がつくられているなら、同時に手術をしてもリスクは少ないのですが、非閉塞性ではMD―TESEをしても精子がない場合があります。
すると、排卵誘発剤などを使って排卵した女性側への負担だけがかかることになります。
凍結してもしなくても妊娠率はあまり変わらないわけですから、まずは精子を採取してそれを凍結保存するという方法を検討してみるのがいいのではないでしょうか。