【医師監修】松山 毅彦 先生 東海大学医学部卒業。小田原市立病院産婦人科医長、東海大学付属大磯病院 産婦人科勤務、永遠幸レディースクリニック副院長を経て、1996年厚仁病院産 婦人科を開設。日本生殖医学会生殖医療専門医。クリニックでは最新医療を積 極的に取り入れる一方、産科併設のメリットを生かし、より安心して出産を迎えら れるよう、不妊治療から出産、育児までをトータルにサポートする。おひつじ座の A型。休日は年末年始のみ、1年のほとんどを病院で過ごす松山先生。気分転 換はたまに飲むお酒とスイーツ、そしてインターネットショッピング。好きな分野で あるコンピューター系の商品を見ると、思わず注文してしまうこともあるそう。
のかぜさん(33歳)からの投稿 Q.29 歳の時に子宮内膜症・チョコレート嚢腫・子宮腺筋症で開腹手術。不妊ク リニックに転院しましたが体外受精でも受精せず、顕微授精を行っている時に 卵管水腫を発症し、両卵管を切除しました。その後も不妊治療を続けていまし たが、今回、子宮内膜症を再発。両卵巣が 7~8㎝に腫れ、腸にまで影響し ている疑いもあるため、腸を切り取る大きな手術になるかもしれません。不妊 治療をやめて内膜症の治療に専念しようとも思いましたが、妊娠の希望を捨て たくない自分もいます。低用量ピルなどで長期的に様子をみるべきか、手術前 に自然周期で採卵しておくべきか。今後について悩んでいます。
内膜症は再発する?
再発をくり返したり合併症が重なるケースは、やはり重度ですか?
松山先生 子宮内膜症の自然経過としてはあり得ることですし、手術の方法にしても一般的だと思います。
問題は、不妊治療との兼ね合いですね。
卵巣が大きく腫れて行き詰まった状態で、のかぜさんが受診された大学病院では、何とか治療していこうという方針なのではないでしょうか。
低用量ピルの活用
今後の方針について悩んでいます。
松山先生 そうですね。
たとえば低用量ピルは、症状を抑える効果があります。
最近は子宮内膜症の治療薬としてさまざまな種類が出ていますから、内科的な治療も幅広くできるようになってきました。
症状を抑えることを目的に使える薬剤、それが低用量ピルだといえます。
もう1つは、より積極的に子宮内膜症を治療するために、ジエノゲスト製剤という黄体ホルモン系の薬剤を使うことです。
これまでの薬剤は副作用が出やすく、無制限には続けられませんでした。
しかし、ジエノゲスト製剤は副作用が非常に少ないのです。
とはいえ、症状や体質によって専門的な調整が必要にはなりますが、生理痛やお腹の重さなどのつらい症状は改善されていくと思います。
症状を抑えるという視点では、これらの方法のようなホルモンコントロールという選択肢が増えてきていますね。
刺激法の変更や腹腔鏡
のかぜさんのように卵巣が大きく腫れている場合はいかがですか?
松山先生 かなり腫れているようですが、低用量ピルなどを使えば症状は取れるでしょうし、腫れも多少は小さくなるでしょう。
しかし癒着もあるようなので、手術が必要となるかもしれません。
ただ、手術で子宮内膜症を完璧に治すためには卵巣をすべて取らなければならないという考え方もあるので、症状を抑えながら子宮内膜症とうまく付き合っていくのが現実的だと思います。
データを見ると、卵子は採卵しても多くて3個とのこと。
十分な採卵を見込める場合は、刺激周期を選択することもできますが、採卵数が少ない場合は、自然あるいは低刺激周期がおすすめです。
手術は最後の手段と考えて、それまでに自然周期でたくさん採卵しておくのも一案ですね。
手術は腹腔鏡手術にしても開腹手術にしても、病状によってさまざまな方法があります。
たとえば、腫れている部分だけを腹腔鏡手術で吸引・減圧する方法もありますし、これを利用して、初回の手術で減圧し、数カ月後に病巣を取る2回目の手術をするという手術法もあるようです。
いずれも、卵子の元になる卵母細胞を少しでも多く残しておきたいという概念から生まれたものです。
不妊治療のことを考え、卵巣機能を温存する方向で、いかにリスクの少ない手術ができるか。
主治医の先生とよく相談してみてくださいね。
※ジエノゲスト製剤:病巣に直接作用する子宮内膜症治療薬。ほかの薬と異なるのは、卵胞の発育抑制、排卵の抑制、子宮内膜の増殖抑制という3つの作用により、痛みを抑え、 病巣を小さくすること。長期投与が可能だが、不正性器出血を起こすことがある。