私は23歳、夫は24歳。顕微授精へのステップアップに戸惑っています

ご夫婦ともに年齢が若い場合でも、 問題があればすぐにでも 高度治療にステップアップしなければ いけないのでしょうか。 大島クリニックの大島先生にお話を伺いました。

大島 隆史 先生 自治医科大学卒業。1982年、新潟大学医学部産科婦人科学 教室入局。産婦人科医として3年間研修後、県内の地域病院 の1人医長として4年間勤務。1992年、新潟大学医学部にお いて医学博士号を授与される。新潟県立がんセンター新潟病院、 新潟県立中央病院勤務を経て、1999年、大島クリニックを開設、 院長に就任。大島クリニックにおける人工授精の統計では、「正 常な精子数のケースより、精子が少ない症例のほうが妊娠率は 高い」というデータが出ているそう。

ドクターアドバイス

20 代なら、まず気持ちを優先した治療を。 人工授精から挑戦してもいいと思います
キイロイトリさん(看護師・23歳)からの投稿 Q.夫は乏精子症精子無力症と診断され、私には多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による 生理不順と排卵障害があります。 タイミング治療を始めて8カ月になりますが、 やはり自然妊娠は難しいと言われました。 「人工授精でもまず効果が望めないから」と、いきなり顕微授精を すすめられましたが、いろいろ調べてみると、副作用など 身体的にも精神的にも経済的にも すごく負担になることがわかり怖くなりました……。

先生からアドバイス !

●納得できなければ人工授精からステップを
●人工授精は20代なら5回を目安に
●夫婦で不妊治療の正しい知識を学んで

精子所見について

キイロイトリさんはご本人が排卵障害を抱えており、ご主人も精子に問題があるので、タイミング療法からいきなり顕微授精というステップアップをすすめられたようです。
大島先生 ご主人の乏精子症のレベルが問題ですね。
詳しい数値の記述がないのではっきりしたことは言えませんが、精子の数がほとんどゼロに近いのか、それともちょっと少なめくらいなのか、程度によって選択肢が変わってくると思います。
担当医の先生が顕微授精をすすめられたということでしたら、精子数がかなり少ないレベルなのかもしれません。
しかし、まだ年齢が若いので、ワンステップとして人工授精にトライされてみてもいいのではと思います。
タイミング療法に関しては、8カ月間してきたということなので、これ以上続けても結果を出すのは厳しいのではないでしょうか。

人工授精という選択肢

どの程度精子の数があれば、人工授精でも期待を持てますか?
大島先生 問題なのは、濃縮洗浄した後の精子数です。
私自身の経験から考えると、濃縮洗浄した精子数が50 万~100万個程度の方でも妊娠しています。
このケースの場合、排卵した卵子の数は5個。
そのうちの1個が受精し着床したんですね。
女性側もある程度排卵するような状態に調えれば、人工授精で妊娠するチャンスもあると思います。
濃縮洗浄後の精子数がポイントになるわけですが、これは通常の精液検査ではわかりません。
どのくらい受精可能な精子があるかを知る意味でも、人工授精に挑戦してみてもいいのではないでしょうか。
もし人工授精にトライするとしたら、どのくらいの期間続けたらいいのでしょうか。
大島先生 スケジュールは、やはり女性の年齢によって組むことになりますね。
最近読んだアメリカの論文によると、人工授精は、 38 ~ 39 歳の方は3回まで、 40 歳以上の方は1回程度しか妊娠するチャンスがないと言われています。
それで結果が出なければ、体外受精にステップアップしたほうがいいと思います。
キイロイトリさんのように 20 代前半の方でしたら、人工授精を5回はしてみることをおすすめします。

年齢による治療の意味

比較的余裕を持ってトライできるのですね。
大島先生 確かに担当の先生がおっしゃるように、人工授精をしても妊娠の確率は高くないかもしれません。
しかし、ご本人たちはいきなり顕微授精に進むということには消極的なご様子です。
この5周期は治療のワンステップであると同時に、気持ちの整理や納得をするためのステップでもあります。
抵抗感を持ったまま、治療を進めていってもよい結果にはなりませんから。

もっと年齢が高い方の場合は、治療をスピーディーに進めていく必要がありますが、まだ若い方の場合、一番優先すべきことはご本人たちの気持ちだと思います。

不妊治療を乗り越えて結果を出す、というモチベーションは持ち続けていただきながら、治療をよく理解、納得したうえで進めていく、というスタンスをとられることが大切なのではないかと思います。

気になる副作用

一般不妊治療に比べ、高度な生殖医療は副作用など、身体的にも負担が増えて怖い、と思っていらっしゃるようですが……。
大島先生 顕微授精に進むと排卵誘発を行います。
確かにPCOSの方はその際、卵巣が腫れたり、採卵後にちょっとお腹の痛みが出たりすることもあります。
人工授精をする場合も排卵誘発はしますから、そのような不安があるようでしたら担当の先生とよくお話をされてみてはいかがでしょうか。
排卵誘発の治療も、いきなり強い刺激をするわけではありません。
まずは最低限の刺激から始めて、ホルモンの値や卵胞径をチェックしながら徐々に強めていくと思いますので、重症の卵 ※ 巣過剰刺激症候群になる可能性はほとんどないと思います。
年齢が若い分、その辺は時間をかけてコントロールしていくことができると思いますよ。

正確な知識を得よう

リスクについても事前に説明を受けていれば、納得できますよね。では、ご主人側はどんな治療を進めていけばいいのでしょうか?
大島先生 残念ながら、現段階では男性の精子を増やす特効的な治療はありません。
ご夫婦でできることはまず、体外受精や顕微授精について正確な知識を得ることだと思います。
通っている病院で不妊治療の説明会などが開かれていれば、お二人で参加されてみてはいかがでしょうか。
※乏精子症:精液中の精子濃度が低い状態のこと。一般的には精子濃度が2000万/ml未満の状態をいう。
※精子無力症:精子の運動率が低い場合で、前進運動をする精子が50%未満の状態を指す。
※多嚢 胞性卵巣症候群(PCOS):慢性的にアンドロゲン(男性ホルモン)が過剰な状態にあり、排卵がうまくできない原因不明の疾患。卵巣内にたくさんの小嚢胞がある。排卵障害、不育などがみられる。
※体外受精と顕微授精:体外受精は卵管や精子に問題があるなどの理由から、採卵した卵子に採取した精子を培養皿上で受精をさせること。一方顕微授精は、受精能力に問題のある精子を卵子に顕微鏡下で注入 させること。どちらの場合も培養液の中で受精卵を育て、初期胚から胚盤胞の段階で子宮あるいは卵管内に戻す。

※卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排卵すること。卵巣 が腫れる、腹水や胸水がたまる、血液の電解質バランス異常、血液の濃縮などの症状をみせる。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。