精子濃度が低い場合、人工授精で複数回分の凍結精子を使えますか?

精子の濃度が低い場合、人工授精で妊娠を望むことは 可能なのでしょうか。吉田レディースクリニックの吉田先生に、 乏精子症の治療方針についてお聞きしました。

吉田 仁秋 先生 獨協医科大学卒業。東北大学医学部産婦人科学教室入局、不 妊・体外受精チーム研究室へ。米国マイアミ大学留学後、竹田 総合病院産婦人科部長、東北公済病院医長を経て、吉田レディ ースクリニック開設。3年前より産科・婦人科と施設を分け、不 妊治療専門の生殖医療IVFセンターを設立。毎週、スタッフが 集まって「ラボカンファ」を実施。結果が出なかった患者さんに ついて、何が問題だったのかをチーム全員で徹底的に分析し、 次にどのような方法をとったらよいか検討している。

ドクターアドバイス

数や運動率が低い方の精子は凍結に弱く、 融解後、半数近く死んでしまっている場合があります
じねこさん(会社員・32 歳)からの投稿 Q.何度か精液検査をしましたが、いずれも濃度が低いという診断です (1年前の検査結果は精子濃度 750万/mL、運動率 40%)。 顕微授精も3回試しましたが、妻への体の負担、 費用面を考えると、人工授精のほうがより挑戦できる回数を 増やせるのではないかと考えています。 人工授精の際、複数回分(凍結保存を利用)をまとめて使い、 より多くの精子を注入するといった方法は有効ですか?

精液検査の数値について

精子の濃度が750万/ mL ということですが、これはかなり低い数値ですか?
吉田先生 そうですね。基本的に精子濃度は1 mL 中に2000万個以上、精子運動率は 50 %以上あるのが望ましいでしょう。
実は昨年、WHOの基準が変わり、精子濃度は1500万以上、運動率は 40 %以上と以前より少し数値の設定が低くなったのですが、その基準からみても、じねこさんの精子濃度は正常値の半分ですから、いわゆる乏精子症と診断される状態で、そのなかでも重症のレベルに入ると思います。
ただし、精子の数や運動率には波があり、その時のコンディションで変わることもよくあります。
1回の★精液検査ではなく、何回か採精して調べることが必要だと思います。

人工授精は調整後500万

精子濃度が750万/ mL 程度でも人工授精は可能なのでしょうか。
吉田先生 一応、人工授精は可能な数値だと思います。
その場合、回収精子はどのくらいなのかということが重要になってきます。
人工授精を行う際、精液の中の精子だけを洗浄・濃縮して子宮の中に入れるのですが、その回収精子、つまり調整後の精子が最低でも500万個以上は必要だとされています。
その数に満たなければ、人工授精を何回行ってもあまり意味がありません。

精子は凍結の影響を受ける?

1回の回収精子量が少ない場合、じねこさんがおっしゃるように、何回分かの精子をまとめて使えば妊娠に可能な数に達するのではないでしょうか。
吉田先生 確かに1回分の数が極端に少ない場合、一度に3回分くらいの精子を使う場合もあります。
じねこさんの場合、1 mL につき750万 ということは、3回分合わせれば2250万個になる。
ただ、そのうち半分近くは死んでいることが多いですから。
精子が元気な方は★凍結しても新鮮な状態とあまり違いが出ませんが、もともと数が少なくて運動率も悪いような方だと機能的にも問題があることが多く、ほとんどの場合は凍結に弱いのです。
融解後は数も運動率も半分くらいに落ちてしまうことがあるんですね。

エビデンスから治療方針

そうなると、人工授精では厳しいということに……。
吉田先生 じねこさんは、まだ人工授精の適用内だと思いますが、これまで人工授精に5回トライされているということ。
それでも妊娠に至らず、顕微授精にステップアップされています。
さまざまな事情があると思いますが、赤ちゃんを授かることを一番の目標にされているのなら、ここでまた人工授精にステップダウンしてしまうのはあまり意味がないと思います。
人工授精をおすすめするのは、だいたい6回まで。
人工授精で妊娠する方の6~7割は、3~4回で結果を出されています。
それ以降、トライしても難しい場合が多いのです。
もちろん、なかには 20 回近く行って妊娠した方もいますが、それは非常にまれなケース。
時間を無駄にせず、早く妊娠していただくためには、医師は、確率の低い方法ではなく、ある程度確立されているエビデンスをもとに患者さんの治療方針を立てます。
私なら、じねこさんの状態を考えれば、やはり顕微授精をおすすめすると思いますね。

それぞれの妊娠率

顕微授精のほうが妊娠する確率が高まるということですね。
吉田先生 人工授精と体外受精の単純な比較でみても、人工授精での妊娠率は 10 ~ 15 %程度、体外受精だとその3倍くらいですから。
また、精子数の問題以外に、きちんと受精しているのか、着床しているのかどうかということも重要ですよね。
そのようなことが見えないまま人工授精を続けていくよりは、顕微授精をして、きちんとみていったほうが妊娠率が上がるのではないかと思います。
じねこさんはすでに顕微授精も3回されているということですが、培養や子宮内膜の状態、着床の有無などはどうだったのでしょうか。
もしかしたら精子だけではなく、女性側にも問題があるのかもしれません。
顕微授精を進めていく場合も、そのあたりをきちんと分析されたほうがいいと思います。

リラックスも大事

他にしたほうがいいことはありますか?
吉田先生 一度、泌尿器科や男性不妊外来を受診して、精子が少ない原因がどこにあるのか調べてみてもいいのではないでしょうか。
精索静脈瘤などが原因の場合は、手術で回復する場合もありますので。
また、奥様の年齢にまだ余裕があるようでしたら、思いきって半年~1年ほど治療を休まれてもいいかもしれません。
じねこさんの相談からは、精神的に焦りすぎているような印象を受けます。

妊娠するためには、気持ちの切り替えやリラックスも大事だと思いますよ。

教えて★精子の検査方法

一般的な精液検査では精子濃度(1 mL の精液の中に存在する精 子の数)や運動率、奇形率など
を調べますが、これらに加え、妊娠するためには精子の受精能力を測定することも重要です。

この測定は通常の精液検査では難しいため、SQAという精子専用の検査機器が使われます。

運動精子濃度にスピードも考慮して数値化したのがSMI

この値で、受精能力を判定することができます。

SMI値が 80 以下であれば受精能力が低いので、顕微授精をおすすめします。

※SMI(精子の自動性指数:精子の受精能力を判定するための指標で、運動精子濃度に精子の運動スピードを加味して数値化したもの。通常80~160が 標準とされる。

教えて★精子の凍結保存

精子の状態があまり良好でない場合、仕事などで新鮮精子を採れない場合は、精子を採取し凍結保存する方法があります。

凍結の方法は、精子を採って洗浄・濃縮し、その上に培養液を注ぎます。

すると、スイムアップといって元気のいい精子だけが自らの運動性で浮き上がってきます。

そのような精子だけを集め、あとは凍結剤を加えて、マイナス196℃の液体窒素の中で急速に冷却。

人工授精や体外受精当日にこの凍結保存精子を解凍し、使用します。

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