【医師監修】伊藤 哲 先生 順天堂大学医学部、同大学院修了。順天堂大学医学部 産婦人科学講師、国際親善総合病院産婦人科医長を経 て、1999年あいウイメンズクリニック開院。日本生殖医 学会生殖医療専門医。O型・おひつじ座。同クリニック の顕微授精の受精率は80~90%。それでも結果が出 ない場合は、卵巣刺激法の工夫や血流改善薬の投与など さまざまな方法にトライして、妊娠へと導く。
ユカックマさん(34歳)からの投稿 Q.精液検査で精子の量が少なく、運動率も低いと診断され、顕微授精に2回トライしました。それなりの数の採卵ができている のですが、2度とも受精した卵子の数が少ないことが気になっ ています。担当の先生からは「精子の状態が悪すぎることも一 因かもしれない」と言われましたが、顕微授精をして受精の確 率が30~40%程度というのはよくあることなのでしょうか。 受精できない原因は? 受精率を上げる方法はありますか?
顕微授精の一般的受精率
1回目の顕微授精では採卵数9個のうち成熟卵が7個で、受精したのは3個、2回目は採卵数 11 個のうち成熟卵が8個で、受精したのは3個ということですが、やはり受精の確率は低めだと思われますか?
伊藤先生 そうですね。成熟卵が7〜8個もあって、そのうち3個しか受精しないというのは率が低いように思います。
顕微授精をした場合、一般的な受精率は 70 〜 80 %程度ではないでしょうか。
精子所見と顕微授精
ご主人の精子の状態は1回目の時点では精子数200万/運動率5.0 %、2回目は精子数640万/運動率 6.3 %。この数値では顕微授精でも難しいということでしょうか。
伊藤先生 正常値と比べると低い数値で、通常での受精は難しいと考えられますが、顕微授精をすれば十分受精しうる範囲だと思います。
精子がまったくないということではありませんから。
奇形率が高いとしても、顕微授精はよいものを選んで受精するので受精率が高いのですが、顕微鏡下で見て形がよくても、そのうちの3割くらいに異常があるとも言われているんですね。
さらにいい精子を選りすぐるために、IMSI(イムジー)という超高性能の拡大顕微鏡を使って顕微授精を行っているクリニックもあるようです。
刺激法を変更してみる
では、そのような施設がある病院に転院したほうがいいのですか?
伊藤先生 確かにそれも一つの方法ですが、受精率が低いのは精子の問題だけではなく、卵子側の質に関係している可能性もあります。
2度目の採卵で受精した卵が5日目に桑実胚になった、という成長の遅れが少し気になりますので。
AMHなどホルモンの状態をもう一度きちんと調べ、次の採卵の際は、卵巣への刺激法を変えてみてはいかがでしょう。
ロング法で採卵されたようなので、次はショート法、もしくはアンタゴニスト法で。
注射もHMGを使っていたのならリコンビナントのFSHに変えてみる、採卵の時期も早め、または遅めにするなど、方法を変えることで卵子がよい方向に反応することがあります。
今は2回目の移植待ちということですが、次に結果が出なかったとしてもまだ妊娠の望みはありますか。
伊藤先生 当院では6回目で妊娠された方もいます。
ユカックマさんは1回目は化学的流産でしたが、それは前向きに考えれば妊娠される力は十分あるということ。
精子の状態をみると今後も顕微授精の適用になるかと思いますが、卵子の状態がよくなり胚盤胞まで育てば、まだまだ妊娠のチャンスはあると思います。
※ロング法:排卵誘発法。月経前の黄体期からGnRHアナログ製剤を使用し、月経3日目からHMGを7 日間連続して筋肉注射する。
※ショート法:排卵誘発法。月経開始日からGnRHアナログ製剤を使用し、月経3日目からHMGを7日間連続して筋肉 注射する。
※アンタゴニスト法:ある程度まで卵子が成長したところで、GnRHアンタゴニストいう薬剤を注射し、卵巣を刺激する方法。GnRHアンタ ゴニスト製剤は黄体形成ホルモンの分泌を抑制する働き持ち、採卵前に排卵してしまうことを防ぐ。
※リコンビナント FSH(製剤):遺伝子組み換え(リコンビナント)技術によって作られた排卵誘発のための薬で、卵子の発育に必要な卵胞刺激ホルモン(FSH)を有効成 分とする。