カウフマン療法でFSH値が急上昇。薬を強くすれば下がる?【医師監修】

体外受精に向けてカウフマン療法で卵巣を休ませたところ、 逆にFSH値が上昇してしまった……どうしたらいいの? あいウイメンズクリニックの伊藤先生に伺いました。

【医師監修】伊藤 哲 先生 順天堂大学医学部、同大学院修了。順天堂大学医学部 産婦人科学講師、国際親善総合病院産婦人科医長を経 て、1999 年あいウイメンズクリニック開院。日本生殖 医学会生殖医療専門医。O型・おひつじ座。「妊娠して いただくことが目的なので、排卵誘発は必要と考えてい ます」という伊藤先生。ロング法を基本にしているが、 副作用などに対しては細やかに対処し、結果と安心がと もなう治療を心掛けている。

ドクターアドバイス

薬を強くしなくても 2度目にはFSH値は安定するはず。 次周期には排卵誘発も行えると思います。
ヨーコさん(会社員・38歳)からの投稿 Q.初めて体外受精に挑戦しようと決めましたが、前周期 3日目に卵巣が腫れ、 すでに大きく育っている卵があるのでカウフマン療法をすることに。 ところが、なぜかFSH値が6→17に急上昇してしまい、またカウフマン療法を することになりました。ドクターは「薬が合っていないのかも」と判断し、 プレマリンⓇ倍量、プラノバールⓇソフィアCⓇへと変更。薬が強力になっている ようで副作用も心配ですが、このような治療で大丈夫なのでしょうか。

カフマン療法とは?

ヨーコさんがされたカウフマンとは、どのような治療なのですか?
伊藤先生 カウフマン療法とは、ホルモン剤を投与してホルモン不足を補いながら、規則的な生理周期を人為的につくり出していく療法です。
当院では年齢の高い方や、年齢が若くてもFSHの数値が高かったり、卵子のできがあまりよくない方などに適用しています。
体外受精をする前に、年齢によっては前の周期にカウフマン療法をしたり、ピルを使ったほうが次の周期に質のよい卵子が採れるということで、必ず行っている施設もあるようです。
FSHを下げる療法でもあるのに、ヨーコさんの場合、なぜ値が上がってしまったのでしょうか。
伊藤先生 ヨーコさんはカウフマン療法をされる前、FSHは6だったとのこと。
当院の場合、正常値は3~ 10 くらいとしていますから、6だとまったく問題のない正常値です。
また、 38 歳という年齢から考えても17 という値は少し高すぎるので、これは一時的な上昇だと思いますね。
カウフマンをやっても、1周期くらいはリバウンドでFSHが上がることもあります。
1回では反応が出ない方もいますから、1周期だけでなく、2周期はしたほうがよいと思います。

薬を変更して、再挑戦?

ヨーコさんも2回目をすることになったのですが、1回目より強い薬を使うということに抵抗を感じられているようです。
伊藤先生 確かに、もう1周期やって様子をみるというのはいいことだと思います。
まだ 40 歳以下ですから、次はFSHも正常値に下がってくるのではないでしょうか。
ただ私は、急に薬の量を増やしたり、より強いものに変える必要はないと思います。
またヨーコさんは、前回、プラノ バールⓇを服用した際に、嘔吐や口内炎、鼻炎の悪化など、副作用が出たそうなのですが……。
伊藤先生 プラノバールⓇは黄体ホルモンと卵胞ホルモンの混合剤で、いわゆる中用量ピルの一つなのですが、ヨーコさんのように副作用が出 る場合があります。
ソフィアCⓇは、 プラノバールⓇより含まれるエストロゲン(卵胞ホルモン)の用量が多くなるので、さらに副作用も出やすくなってしまうと思います。
当院の場合でしたら、2回目も初回と同じ薬を使うか、もしくは副作用を考慮してもう少し刺激の少ない方法で行っていく。
実はカウフマン療法というのは、はっきりと決まったかたちはなく、ドクターや施設によって多少内容が異なってくることがあるんですね。

刺激の少ない方法とは???

副作用を抑えられる刺激の少ない方法とは?
伊藤先生 副作用が出やすい方で、副作用をなるべく抑えるには、プラ ノバールⓇよりエストロゲンの用量が少ない低用量ピルを使います。
当院では、マーベロンⓇという薬をよく使っています。
これは、カウフマン療法のように高温期・低温期で薬の飲み方を変えるのではなく、1相でずっとピルを服用していくという方法です。
FSH値が本当に高い方で、それを下げる目的であれば、中用量ピルを使ったほうが確かに効果は出やすいと思います。
しかし、ヨーコさんのように卵巣が腫れているとか、よい卵子を採るために1周期卵巣を休めるということであれば、低用量のピルで行ってもよいのではないかと思います。
そのほうが副作用のリスクも少なくてすみますよね。
薬は、やはり実際に使ってみないとわからない部分があるので、一度試してみて調子が悪いようなら、このようなかたちに切り替えてもよいのではないでしょうか。

カフマン治療の後はどうする?

こちらのクリニックの場合、カウフマン療法後の治療スケジュールはどのようになりますか。
伊藤先生 体外受精に向けた排卵誘発は、ピルを使うなど前周期に妊娠の可能性がない場合はロング法をご提案することができます。
もちろん、前の周期には卵巣をみて腫れがないかどうか確認したり、FSHなどホルモンの値もチェックしておきます。
FSHが高い方はカウフマン療法をして値を下げてから排卵誘発を行うのが基本的な考え方ですが、カウフマン療法をせずにロング法で、点鼻薬を少し長めに使って、FSHも安定させていく方法もありますね。

ロング法への考え方

体外受精での排卵誘発はロング法を基本にされているのですか?
伊藤先生 当院ではロング法のほかにもショート法やアンタゴニスト法、患者さんのご希望によってはクロミフェン周期法で行うこともありますが、ロング法がファーストチョイスになることが多いですね。
経験上、妊娠率が一番高いと思います。
ロング法は年齢の高い方には向かないと聞くことも……。
伊藤先生 同じロング法でも、 40 歳以上の方には最初は注射を多めに打つなど、その方に合わせてアレンジします。
もちろん、妊娠率が高いからとロング法だけにこだわるのではなく、1周期行って反応をみて、いい結果が出なければ、その次は別の方法にするなど、患者さんにとってベストな方法を見極めることが大切だと思っています。
プレマリンⓇ:結合型エストロゲンのことで、低下している卵胞ホルモンを補充する。更年期障害の治療などで処方される。
※プラノバールⓇ:黄体ホルモンに卵胞ホルモンを加えた合剤で、中用量ピルの一つ。抗ゴナドトロピン作用をもつ。卵巣機能不全による不妊症や無 月経などの治療に用いられる。 
※ソフィアCⓇ:高用量ピル。ピル1錠中に含まれる合成エストロゲンが0.05mgより多いもの。同用量0.05mgの ものが中用量ピル、0.05mg未満が低用量ピルといわれる。 
※ルトラールⓇ:経口黄体ホルモン剤。一般名はクロルマジノン酢酸エステル。無月経 や月経周期の異常などの場合に用いられる。
※マーべロンⓇ:低用量ピル。一般名はデソゲストレル・エチニルエストラジオール。
※アンタゴニスト法:ある程度ま で卵子が成長したところで、GnRHアンタゴニストという薬剤を注射し、卵巣を刺激する排卵誘発法。GnRHアンタゴニスト製剤は黄体形成ホルモンの分泌を抑 制する働きを持ち、採卵前に排卵してしまうことを防ぐ。ショート法やロング法での点鼻薬の代わりにGnRHアンタゴニスト製剤を用いる。 
※クロミフェン(周 期)法:抗エストロゲン作用を持つ経口排卵誘発薬のクロミフェンを用いる排卵誘発法。
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