当事者一人ひとりの声が治療環境を変える力に

不妊患者の悩み、要望を集めて、 社会に届ける団体があります。 その一つが、不妊当事者のサポートグループ NPO法人「Fine(ファイン)」。 〝声”が多く集まれば、 国政をも動かす可能性があるのです。

「不妊治療費は高い!」 切実な当事者の〝声〞

昨年末から今春にかけて、NPO法人「Fine」では、「不妊治療の経済的負担に関するアンケート」を実施しました。

寄せられた声は、なんと1111名分!

不妊治療費がいかに家計の負担となっているかが改めて浮き彫りになり、この結果は新聞やTVニュースなど、報道でも大きく取り上げられました。

このアンケートが実施された経緯と結果について、「Fine」理事長の松本亜樹子さんに詳しいお話を伺いました。

「アンケート調査の目的の一つは、国政への働きかけとして『不妊患者の経済的負担軽減を目指す為の請願』を提出するために、具体的な数字や当事者の要望を明確にしたかったことにあります。

不妊治療には、精神的、肉体的、経済的、時間的にと、主に4つの大きな負担が伴います。

それらを少しでも軽減できたら、という思いから請願を行っています。

短期間でこれだけ多くの当事者の声が集まったことに、大変驚いています。

これまで実施したアンケートの2倍以上もの数が集まったのは、それだけ関心が高く、切実ということではないでしょうか」

働きたいのに働けない 仕事を持つ女性のジレンマ

松本さんが「Fine」を立ち上げたのは2004年。

当時、不妊に悩んでいた松本さんが、インターネットなどで知り合った仲間と情報や意見の交換を重ねるにつれ、「仲間内で話すだけでは私たちを取り巻く状況は何も変わらない。

でも、もっとたくさんの当事者の声が集まれば、少しずつでも社会を変えられるのでは」との思いからでした。

現在は主にウェブを通じて仲間作りや情報交換の場の提供をはじめ、心のサポートや不妊当事者に役立つ情報を提
供。公的機関への働きかけも積極的に行い、遅れていた日本での遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤の自己注射の認可にも貢献しました。

「今回のアンケートでも特に多かったのは、〝治療費のためにも仕事を続けたかったが、不妊治療を優先すると通院などでたびたび会社を休まなくてはならず、退職せざるを得なかった〞などという、治療と仕事の両立に悩む声は目立ちました。

不妊患者のなかでも多い 30 〜 40 代は、社内で責任のあるポジションに就く年齢と重なることもあり、ジレンマに陥っているのがよくわかりました。

さらに、治療費とは別に通院の交通費についても調査したところ、これにも多くの金額がかかっているケースがありました。

海外のように自己注射が一般的に広まれば、時間的負担や、交通費という経済的な負担をずいぶん軽減できると思います。

『Fine』としては、自己注射を〝注射のために通院するのは大変〞と思う患者が自由に選ぶことのできる選択肢の一つとして、自己注射がより広く周知されればと思います。

一人ひとりが、できるだけ自分に合った方法で赤ちゃんを授かることができるよう願っています」

理想の治療を受けるには〝声〞を上げるべき!

松本さんは、2004年秋にオーストラリアの不妊治療施設を視察し、日本の現状との違いを目の当たりにしました。

「オーストラリアのクリニック視察は衝撃的でした。待合室には患者さんがひとりもいなくて、休診日かと思ったのですが、〝完全予約制だから当然〞とのこと。

〝排卵誘発剤の注射に来る方は?〞と訊ねると、〝注射ぐらい、患者本人が自分でするでしょ?〞と逆に驚かれました。

日本の不妊治療は、まだまだ改善の余地があるのだと思います。それは、不妊患者自身の意識においても言えると思います。

〝病院に行けば、なんとかなるだろう〞と、治療を病院任せにしている方も少なくないと思いますが、どんな薬をどれほど投与され、どういった治療法を受けているのか、きちんと理解し、納得したうえで治療する意識が大切です。

不妊治療中の人は、もっと積極的に治療に向き合い、学び、〝こんな治療がしたい〞と声に出す勇気を持ってもらえたら嬉しいなと思います。

一人の声は小さいけれど、多くの声が集まれば、きっと国を動かすことだって不可能ではありません。

『Fine』は不妊当事者の仲間たちと社会を結ぶパイプ役です。全国の不妊に悩む仲間であるみなさんが声を寄せてくれれば、それが社会を変えるきっかけになるかもしれないのです」

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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