これからの不妊治療における心のケアの重要性

男性不妊や、加齢による不妊などの問題に 突き当たったとき、どう対処したらいいのか ――。
不妊治療現場での心のケアの重要性について、 広島HARTクリニック院長の高橋克彦先生と 生殖心理カウンセラーの平山史朗先生に 詳しいお話を伺ってみました。

「広島HARTクリニック」院長 高橋 克彦先生 慶應義塾大学医学部卒業。イン ターン時代に立ち会ったお産に感 激し、産婦人科医を目指す。1990 年に日本初の体外受精専門外来 クリニック、高橋産婦人科を開業。 後に広島HARTクリニックと改名。 2000年、東京HARTクリニック 開設。「日本初」の実績を次々と打 ち立て、日本の不妊治療界をリー ドする。心のケア・カウンセリング も重視し、両クリニックには全国 不妊治療機関でも少数の専任カウ ンセラーを配置。AB型・やぎ座。
「東京HARTクリニック」カウンセラー 平山 史朗先生 広島大学教育学部心理学科卒業。アメリカ・ カリフォルニア州のCSPP・生殖心理学セ ンターにて、不妊症患者に対するカウンセリ ングの個人指導を受ける。2002年より東 京HARTクリニックの常勤カウンセラーに。 臨床心理士。日本生殖医療心理カウンセリ ング学会認定 シニア生殖心理カウンセラー。 専門知識が高く、患者さんからの信頼も厚 い。B型・いて座。

ドクターアドバイス

医療技術の提供だけではなく、 メンタルなケアを充実させる 時代になってきたのだと思います
不妊治療に入る前に ご夫婦で心の準備を しておくことが大切ですね

一度の精液検査で 男性不妊と落ち込まないで

今回の号では「不妊と男性」というテー マについても取り上げていますが、男性因子の不妊について、医師として患者さんに知っておいてほしいことはありますか?

高橋 男性不妊といわれるものには、セックス自体ができないというタイプと、精液検査で芳しくない結果が出るという場合があるのですが、後者の場合は女性の場合と比べて、結果がはっきり数字で表れてしまうものなんですね。

ところが正常な男性の場合でも、その時々によって数値に波があるので、1回だけではなく最低3回は受けていただくことが必要です。3回受けた結果でWHOが示している基準値より数値が低い場合は、男性に原因がある可能性が高い、ということが言えるでしょう。

WHOの基準値を少しでも下回ると気に病んでしまう方も多いようですが……。

高橋 WHOの値はあくまでも参考値であって、重症の場合を除いては基準値以下でも妊娠されている方はたくさんいらっしゃいます。体外受精まで進んで初めて「受精に問題があった」ということがわかる合もある。男性がWHOの基準値以下でいらしたカップルでも、約4組に1組は女性の卵にも問題があったというデータもあります。ですから初期の精液検査の数字が悪いからといって、すぐに男性不妊に結びつけないように。

そのことで傷つかないようにしていただきたいですね。

不妊の原因にこだわると 夫婦関係が崩れることも……

数字で明確に出ると、やはり男性は精神的にかなりショックを受けるものなのでしょうか。

平山 男性はすごく数字にこだわられます。ちょっとでも参考値より低いと、男性としての存在や性的能力まで否定された気がしてしまうようです。そこで非常にプライドが傷つくんですね。数値が悪かったということを受け止め切れずにEDになってしまったり、逆にセックスに積極的になって浮気してしまうケースもあります。

高橋 かなり精子の状態が悪いと言われた男性の場合は、精神的に立ち直るまでに最低でも半年くらいはかかるようですね。そういう場合はこちらも治療を焦りませんが、なかには「もういいや」と途中で治療を諦めてしまう人もいます。

平山 逆に「実は男性因子の不妊ではなく、女性側の卵の問題だった」とわかったときも問題です。これは不妊治療の特性ですが、治療を受ける過程で原因や診断が変わってくることがあります。

今まで男性不妊ととらえていたのに、それが根底からガラガラと崩れてしまう。それはそれで女性にとって受け入れがたく、今度は女性側の罪悪感が強くなって「妊娠するまで頑張らなくてはいけない」と、治療をいつまでもやめられなくなってしまうケースもあります。

二人の間で責める、責められるを繰り返していても意味はありません。患者さんとしては原因を知りたいと思うけれど、そこは医師に任せて、原因にかかわらず二人で一緒に取り組んでいくという気持ちで進めていくほうが、夫婦関係は健全だと思いますね。

治療を受ける前にそういった心の準備をしておくことが大切なんですね。

平山 不妊治療のクリニックに行って診断を受けるということは、もしかしたら、そんなふうに夫婦関係のバランスが崩れる可能性もあると知っておいたほうがいいと思いますね。何の情報もなく「とにかく原因を知りたい」というだけで行ってしまうと、突然ショックを受けたときに二人の関係が変わってしまうことがありますから。

子どものいない人生を考える 心の準備へのケアも必要な時代に

高橋 心の準備ということについては、女性の年齢に関しても言えます。我々が不妊治療を始めた 20 年前と比べて、現在は 40 歳を過ぎて初めて不妊治療を受けるという方が増えてきています。2008年の広島・東京HARTクリニックのデータでも、 40歳以上の女性のART治療の数が全周期数の3分の1を超えました。

不妊治療の技術が進んでいるとはいっても限界はあるので、年齢が上がれば上がるほど妊娠できる確率は減ってくる。そうなると、治療に臨む前に「最終的に子どもができないかもしれない」という事実もきちんと受け止められるかどうかを、考えておいたほうがいい。

患者さんにもその力をつけていただきたいのですが、これからは我々医療の現場でも、その先の人生の充実を考えるターミナルケアが必要になってくると思います。そのために、専門のカウンセラーの配置や養成も重要ですね。

平山 医師やカウンセラーからもらえる情報をもらって「あとは夫婦で話し合って決めてください」と言われても、意思決定のスキルがなく、夫婦で向かい合うのが苦手高橋 克彦 先生な日本のカップルの場合は戸惑ってしまうんです。治療中、そして高橋先生がおっしゃるように終末期、そして治療前から治療初期の段階での心の準備。

そのプロセスで我々のような心の専門家が関わって、患者さんが納得できる人生のお手伝いをしていくことができればいいなと思います。

高橋 現在、不妊治療は技術的には完成に近い段階に来ていると思います。そこで、医療でのケアが難しい加齢による不妊の患者さんなどへの対応をどうするのか。以前のようにとにかく妊娠させることだけを考えるのではなく、そういった方たちのメンタルな部分のケアも充実させていく時代が来たのかなと思っています。

>全記事がドクター編集!

全記事がドクター編集!

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。