転院して初めて知る事実にショック……不妊治療はやはり専門クリニック?

不妊治療を始めたものの、先生や治療方針に不安がつのる日々。 やはり不妊は専門クリニックじゃないとダメ? 内田先生に患者と医師の両方の立場を考えていただきました。

内田 昭弘 先生  島根医科大学医学部卒業。同大学の体外受精チームの一員 として、1987年、島根県での体外受精による初めての赤ちゃ ん誕生に携わる。1997年に内田クリニック開業。地域の 産婦人科と連携を取り、専門性の高い不妊治療に積極的に 取り組んでいる。趣味は休日のゴルフ。その腕前はジネコで お馴染みのほかのドクターたちの間でも有名で、仲間内では 密かに“内田プロ”と呼ばれているほど。O型、おひつじ座。
スプーンさん(パート・27歳)からの投稿 Q. 男性不妊で市民病院に通院していましたが、主治医から 「若いので人工授精を10回ほどやってみますか」と言われました。 その後、その病院に不信感を抱き始め、不妊専門の病院に転院。 転院して初めて知ることも多く、不妊の原因は主人だけと思っていたら、 3回目の転院で自分が多嚢胞性卵巣症候群と知りました。 すごいショックでしばらくは立ち直れませんでしたが、 現在、3度目の体外受精に挑戦しています。 まだいい結果は出ていないけれど……今、私が思っているのは、 顕微授精に挑戦することができてよかったということ。 体外受精は人工授精とは比較にならないほど 体に負担がかかりますが、 それでも早く子どもを授かることを夢見て頑張っています。

ドクターアドバイス

みなさん、 不妊治療の専門施設へ行くと すぐに体外受精というイメージを 持っていらっしゃるみたいですね。
ご主人が精液検査を 受けたくない理由を 理解することができますか?

不妊専門クリニックのイメージ

市民病院から不妊専門クリニックへ転院し、体外受精にステップアップされたスプーンさんの投稿です。
内田先生 みなさん、なぜか不妊治療専門のクリニックに通院すると、すぐに体外受精、というイメージを持っているみたいですね。僕のところに来て、「まだ、私は内田クリニックに行く段階じゃないと思っていました」なんて言われることがあります。
たしかに体外受精だけという施設もあるのは事実ですが、いわゆる不妊治療専門クリニックでは、タイミング療法から始まって、人工授精、体外受精、顕微授精へとステップアップしている施設がほとんど。また、産科に併設して婦人科の外来で先進的な治療を行っているところもあります。
どうやって一般の産婦人科と専門医を分けていくのかというのは難しい問題だけど、まずそういうインフォメーションを、このジネコみたいなメディアがしっかりつかんで伝えていくことが、僕は大切だと感じています。

不妊治療は、自己選択

総合病院や産婦人科だから、不妊専門クリニックだからと、単純にそれだけで判断してはいけないということですね。
内田先生 そう。治療は患者さん自身に選択権があるべきです。医療側はあくまでも提案でしかない。人工授精にしろ、体外受精にしろ、専門の施設に行ったらそういうレールに乗らなければならないと思っているなら、少し患者さん側の勉強不足と言えるかもしれません。
たとえば「人工授精を 10 回やろう」と言われたら、「なぜ 10 回なんですか?」と聞き返してほしいですね。質問していけないことは何もありませんから。わからないことは質問しないと、医療サイドは患者さんが理解して納得していると受け取ってしまいます。
反対になぜ 10 回なのか、その説明を求めて、納得のいく回答がないようなら転院を考えてもいいと思います。

医師への意思表示の重要性

先生は定期的にセミナーを開いておられますが、それはやはり患者さんにもっと勉強してほしいから?
内田先生 はい。患者さんには治療を選択していくための知識を持ってほしいのです。こんな検査が自分たちには必要なのかなというのもわかってほしいし、治療にしても、排卵誘発剤を使うにしても、副作用があるとわかったうえで使うことを選択してほしいんです。特に体外受精は、十分に知識をもってご夫妻の理解のうえで、はじめて臨んでもらえる治療だと考えています。
もっと踏み込んで言えば、ご夫妻 のライフサイクルのなかで、子どもがいるかいないかということは、ものすごく大きな問題です。だから絶対に子どもが欲しいと思って「不妊治療をとことんやります」というご夫妻と、どこかに子どもができなかったときのことも頭に置きながら治療に臨んでいるご夫妻とでは、医療サイドにとっても大きく違います。
だから、みなさんはそういう意思表示を医師に間違いなくしたほうがいい。不妊治療は患者さんの負担にならないことを一番に考えますから、医師は正直、まだここかな、ここかなと思いながら治療を提案しています。
しかし、何としてでも子どもが欲しいと思っているなら、僕たちも治療方法を出し惜しみしない。そのために意思表示をしてほしいのです。

質問することの重要性

体や家計への負担を考えたとき、「ここまでの治療ならやろう」と考えられるかどうかが、治療を選んでいくポイントになりそうですね。
内田先生 当院でも、一般的に人工授精は5〜6回くらいと説明していますが、 10 回行う施設があってもそれは間違いではないでしょう。推測ですが、スプーンさんの主治医が 10回と言ったのは、ベースとなる精液のデータが人工授精でも妊娠可能とみられるデータだったんじゃないかな。
ただ、本当に条件よくできているかということが問題。男性不妊であったとしても、女性側の条件がよくないと人工授精しても妊娠できません。まだ 27 歳だし、きっと体外受精より負担の軽い人工授精で、ということだったのでしょう。体外受精にステップアップして、初めてわかることもあります。
1回目の人工授精で妊娠できなかったとき、「現在の人工授精での妊娠の可能性を、先生はどのくらいに見ておられますか?」と聞けば治療方針が変わったかもしれませんね。

セミナーに夫婦で参加するメリット

先生は、セミナーにご夫婦一緒に参加することをすすめていますね。
内田先生 僕はいつも「ご主人を引っ張ってきてね!」と言っています。日々の通院で私たちが奥様に伝えたことが、僕はご主人にどれぐらい伝わっているか、疑問なんです。おそらく……僕が 10 しゃべったことのうち、奥様に伝わっているのは7くらいだと思う。その知識を持ち帰ってご主人に伝えて、5も理解できればいいほうかな……と。だから、できればご主人も一緒に来てほしいのです。
男性があまり協力的でないのは困りますよね。
内田先生 ご主人がなぜ表に出たがらないかというのを考えたとき、まず、仕事があると思います。仕事が忙しいからセミナーやクリニックに来られない。ただ、もしかしたら、精神的なことが影響している場合もあると思っています。実は僕が若いころは、ご主人が精液検査を受けてくれないなんていうのは、とんでもないと思っていました(笑) 。
でも今は、ご主人が「精液検査を受けたくないな……」と思っていたとしても、それは仕方のないことかもしれないと思うようになりました。

人生設計から不妊治療を考える

それはどうしてですか?
内田先生 もし、男性側に決定的な原因があるとわかった場合、ご主人はまず、自分はどうしたらいいのかと思い悩むと思います。今の医療ではそれを受け入れる態勢が整っていないし、ご主人のそういう思いや悩みに対してカバーできるところが少ないですから。

もし、ご主人が不妊に対する深い知識や情報を持っていて、しかも検査を受けたくないと言うのなら、それはもしかしたらいろいろなことを考えている可能性があります。

自分たちのライフサイクルを考えたとき、しっかりとした話し合いがベースにあれば、どんな治療を選択してもそれは二人の判断でしょう。当院が行うセミナーでは、そのあたりのご夫妻での話し合いの重要性について、心理カウンセラーが深く関与するようにしています。
どんなライフスタイルを目指し、不妊治療はどこまでの治療を選択するのか、二人で選ぶということが大切なんですね。
内田先生 そう。僕が一番かわいそうだと思うのは、〝列車から降りられなくなっている人〞。妊娠を目的地としてホームに立った瞬間に「この列車に乗りなさい」と決まっている施設もあるのは確かです。そういう列車には、切符を買って乗ってもいいけど、別の行き先もあるのだから、目的地が違っていることに気づけばいつでも降りていい。
自分で自分たちの人生を選べばいいんです。そのためにも、患者さんがご夫妻で不妊治療について知識を深めておく必要があると思いますね。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。