【Q&A】自然周期かホルモン調整周期か?~西川先生【医師監修】

うきさん (34歳)

次の移植に向けて、ホルモン補充周期か自然周期か、移植の時間をどうするかについて迷っています。
前回の移植ではPGT-A正常胚かつバイアスピリン服用やPRPを実施してもかすりもせず陰性となってしまったことで、検査としてはこれ以上できることもなく途方に暮れています。
ホルモン補充周期で行う場合、ERA検査では約90時間でしたが、過去2回この結果に合わせて移植したもののどちらも陰性だったので、本当に90時間を信じていいものか迷っています。
1回だけ着床した時はホルモン補充周期で120時間での移植だったので余計に懐疑的になっています。
結局窓ズレがあるのか?ないのか?よくわかりません。

迷っているのは以下の4つです。次の移植でもバイアスピリンの服用、PRPは実施する予定です。
①自然周期で排卵後5日目の移植
②自然周期で排卵後4日目の移植(より90時間に近いところに合わせる)
③ホルモン補充周期で90時間で移植
④ホルモン補充周期で120時間で移植

ご意見お聞かせいただけると幸いです。

西川先生に聞いてきました

【医師監修】とよた星の夢ARTクリニック 院長 西川和代 先生
旭川医科大学卒業。旭川日赤病院、旭川医科大学病院、木場公園クリニックなどを経て、平成30年1月より現職。日本産科婦人科学会認定専門医。日本生殖医学会認定 生殖医療専門医。臨床遺伝専門医。各治療のメリットデメリットをお伝えし、最終的にはご夫婦の意思を最大限に尊重する「インフォームドチョイス」を重視。 ご夫婦の納得のいく治療を心がけています。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいているため、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください

このたびは、これまでの治療経過や検査結果について、丁寧にお知らせいただき、ありがとうございます。
これまでの治療は決して簡単なものではなかったと思いますが、一つひとつ前向きに取り組んでこられたことが伝わってきます。現時点ではまだ結果には結びついていませんが、次回の胚移植に向けて、PGT-AでA判定となった胚が2つ待っていてくれているとのことですね
この大切な卵達とより良い形で出会えるよう、これまでの治療を振り返りながら、今後どのように治療を進めていくかについて、少しでもお役に立てる情報をお伝えできればと思います。

①先生でしたら、ホルモン補充周期と自然周期のどちらを推奨されますか?

うきさんにお勧めしたい移植方法は、ホルモン補充周期と自然周期の両方の利点を組み合わせた「ハイブリッド型」の移植方法です。具体的には、ご自身の排卵周期を利用しつつ、完全に排卵してしまう前の段階で黄体ホルモン(プロゲステロン)を開始し、その後に排卵を誘発するという方法で、修正自然周期と言われています。自然周期では、卵胞発育から排卵、黄体形成までが体内のホルモン分泌によって自然に調整されるため、子宮内膜の成熟や着床に関わる免疫機能が「本来の生理的状態」に近い形で整うという利点があります。
一方、自然周期では排卵のタイミングが変動しやすく、移植時期の調整が難しいという課題があります。これに対し、自然なホルモン分泌を活かしつつ、排卵時期や黄体ホルモン開始のタイミングを適切にコントロールできる修正自然周期は、より安定した移植方法といえます。

②自然周期での排卵後の移植タイミングについて教えてください。

自然周期における移植タイミングは、胚盤胞移植の場合、排卵日を 0 日として 排卵後5日目または6日目が一般的な基準とされています。これは、自然妊娠において胚盤胞が子宮内へ到達する時期に合わせたものです。しかし自然周期では、排卵のタイミングやホルモン分泌量が周期ごとに異なるため、子宮内膜の肥厚や成熟のスピードにも差が生じることがあります。そのため、自然周期の移植タイミングは一律に判断することが難しい場合もあります。
こうした背景から、当院では、完全な自然排卵周期ではなく、修正自然周期や ホルモン補充周期 を組み合わせた方法で移植を行うことが多いです。

③ホルモン補充周期の移植時間は90時間と120時間、どちらが適切でしょうか?

ERA検査は、子宮内膜における遺伝子の発現パターンを解析することで、胚が着床しやすい時期(着床の窓)を推定する検査です。移植のタイミングを決めるうえで有用な検査だと考えていますが、いくつか重要なポイントがあります。
最も重要なのは、実際の移植周期において、検査時と同じホルモン環境や子宮内膜の状態を再現できるかどうかという点です。つまり、ERA検査の結果が有効と判断できるのは、「どのような条件で検査が行われたのか」が明らかであり、かつ移植周期においても同じ条件を再現できる場合に限られます。この条件が満たされてはじめて、『ERA検査結果に基づいて移植時間を決定してよい』と判断できるのです。
もう一つ重要なポイントは、検査時の子宮内環境が正常であったかどうかという点です。子宮内細菌叢の乱れ、慢性子宮内膜炎、子宮内膜ポリープなどの存在により子宮内膜に炎症が存在すると、遺伝子発現パターンが変化し、着床の窓を正確に反映しない可能性があると言われています
うきさんは、子宮内膜炎、CD138、子宮内細菌叢検査、Th1/Th2などはすべて行い、問題のあったものは改善済みとことですので、今は、子宮内環境には問題ない可能性が高いと思いますが、ERA検査時の状況はいかがでしたでしょうか。その時の内膜の状態によっては、正確な検査結果が得られていなかったという可能性も検討に入れる必要があるのかもしれません。これらのポイントを踏まえ、もし、少しでも心配な点があるようでしたら、次の移植に向けて再検査をお勧めします。
当院でも、着床の窓のズレの評価にはERA検査を用いています。ERA検査はすべての方に有用な検査ではありませんが、反復着床不全の患者さんを対象としてERA検査を行うと、約3~4割の方に着床の窓のズレを認めます。検査結果に基づき、移植時間を補正することで妊娠が成立するケースもあり、一定の有効性を認めています。

④バイアスピリンとPRPの併用について、先生のご意見をお聞かせ下さい。

バイアスピリンを併用する目的は、子宮内膜やその周囲の血流を改善し、着床しやすい環境を整えることにあります。血行不良や冷えがある場合、子宮内膜への血流が十分に届きにくくなり、妊娠が成立しにくくなることがあります。そのようなケースでは、低用量アスピリン(バイアスピリン)など、血流改善を目的とした治療が有効と考えられることがあります。
また、日常生活において適度な運動を行うことも血流改善には非常に重要です。十分な水分補給も血液循環を保つうえでとても大切です。さらに、体質や症状に応じて、当帰芍薬散などの漢方薬を併用することもあります。これらは、末梢循環の改善や冷えの緩和を通じて、子宮環境や体の調子を整えることを目的としています。

PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)とは、ご自身の血液を遠心分離して血小板を高濃度に濃縮した血漿です。血小板に含まれる各種成長因子(PDGF、TGF-β、VEGF、EGF など)が、組織修復、血管新生、細胞増殖を促進する可能性があると考えられています。子宮内膜が十分に厚くならない場合や、反復着床不全(RIF)における内膜受容能の改善目的、また難治性子宮内膜炎の治療目的で用いられることがあります。これらの補助療法には一定の効果が期待される一方で、効果や適応には個人差が大きく、すべての方に一律に行う治療ではありません。実施にあたっては、これまでの治療経過や検査結果を踏まえ、慎重に適応を判断しています。
なお、不妊治療を進めていくうえでは、医療的介入に加えて、ご自身で取り組める日常的なセルフケアも、治療効果を高めるうえで重要な要素となります。たとえば、栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動といった基本的な生活習慣は、基礎代謝の維持、ホルモン分泌の調整、子宮内膜の血流改善、免疫機能の安定化などに寄与し、着床環境の最適化にもつながります。妊娠の成立には、良好な胚や子宮内膜の状態だけでなく、全身の代謝・内分泌・免疫系が妊娠を受け入れやすい状態にあることが求められます。
そのため、「自分にできること」として生活習慣を見直し、からだ全体のコンディションを整えることは、治療の一環として非常に意義のある取り組みといえます。

今回の内容が、今後の治療方針を検討される際の一助となれば幸いです。
うきさんの妊活を心より応援しております。

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