【Q&A】胚盤胞まで育つのに妊娠しない~小塙先生【医師監修】

はなさん(29歳)

体外受精1回目の移植を控えていますが、妊娠成立しなかった場合の検査について悩んでいます。
一般不妊検査では不妊原因を特定できず、受精率や胚盤胞到達率が良かったことからも、なぜ2年半以上自然妊娠できないのか(着床も一度だけ)分からず、このまま移植を繰り返すことに不安があります。
子宮鏡やフローラ、エマアリス、トリオ、ERA、化学流産を繰り返すようなら免疫系の不育症検査など、様々な検査があると思いますが、不妊治療は保険診療内まで(移植6回まで、検査は自費診療も検討)と決めておりますので、効率よく無駄なく進めていきたいと思っています。
優先するべき検査などありましたら教えてください。

小塙先生に聞いてみました。

【医師監修】医療法人小塙医院 小塙理人 先生
千葉大学医学部卒業。慶應義塾大学病院産科婦人科教室入局。2023年1月より医療法人小塙医院の理事長に就任。小塙先生で3代目。2代目の父より生殖補助医療を主とした不妊治療を開始し、不妊治療が今後の日本の社会を変えることができる医療だと考え、この分野を専攻。生殖医療を通して日本社会の成長に貢献したいと日々診療に従事。日本産科婦人科学会専門医。日本性感染症学会認定医。母体保護法指定医。日本不育症学会認定医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

検査・治療データをみて気になるところはありますか?

不育症検査では凝固系異常なし、抗核抗体陰性とありますが、不育症検査として行う項目として、血栓性素因(第12因子、プロテインS活性)など行っているか、またループスアンチコアグラントなどは血小板の影響を受けて偽陰性になることもあるので、そのような正確な不育症学会が推奨する検査を行っているのかが気になります。
しかし通常は2回以上の流産で不育症検査は行いますので、陽性の可能性が高いわけではありません。

先生でしたら、移植前に何の検査を優先すべきだと思われますか?

まず胚の染色体異常というものが良好な胚盤胞でも存在するので、はなさんのご年齢でも、1回の胚盤胞移植による妊娠率は40%-50%であり、3-4回胚移植して60-90%に達します。

参考資料①
ESHRE Working Group on Recurrent Implantation Failure; Cimadomo D, de Los Santos MJ, Griesinger G, Lainas G, Le Clef N, McLernon DJ, Montjean D, Toth B, Vermeulen N, Macklon N. ESHRE good practice recommendations on recurrent implantation failure. Hum Reprod Open. 2023 Jun 15;2023(3):hoad023.

参考資料②
Bulletti FM, Sciorio R, Conforti A, De Luca R, Bulletti C, Palagiano A, Berrettini M, Scaravelli G, Pierson RA. Causes of embryo implantation failure: A systematic review and metaanalysis of procedures to increase embryo implantation potential. Front Endocrinol (Lausanne). 2025 Feb 14;15:1429193.

したがって、基本的には検査も悪くありませんが、費用対効果、時間対効果の概念から胚移植を2-3回程度までは連続して行います。しかし、2-3回目の胚移植で妊娠しない場合は、まずは器質的異常(子宮内病変や炎症)がないか子宮鏡検査を行うことが多いです。

子宮鏡検査の具体的な効果や目的を教えてください。

子宮鏡検査で子宮内を圧排する腫瘤(筋腫やポリープ)などがある場合は妊娠、出産に影響する可能性があります。また、子宮内に著名な炎症所見がある場合は慢性子宮内膜炎の可能性があり、着床不全や不育症の原因になることがあります。

EMMAやALICE検査の利点と適用時期について教えてください。

EMMA/ALICE検査は子宮内の炎症を引き起こす細菌と子宮内の自浄作用に寄与する乳酸菌の種類と量を調べることができます。したがって、上記子宮鏡で炎症所見が疑われた場合は通常は広域の抗菌薬(網羅的に多く細菌をカバーし炎症を抑える抗菌薬)を使用しますが、ALICEを行うことでより詳細な抗菌薬の使い分けが可能です。
EMMA検査では乳酸菌の中でも妊娠・出産に寄与するクリスパタス種の量も見ることが可能なので、少ない場合はプロバイオティクスなど摂取する根拠にもなります。
検査時期はやはり3回以上着床しない場合です。

ERA検査の適用判断についてアドバイスをください。

ERA検査を行う根拠である着床期がずれている患者の割合は、着床不全患者の中でも40%程度と言われています。したがって、頻度は高いわけではないことや、着床期は通常短い方はまれであるため、5回胚移植して妊娠しない場合など保険適用内で妊娠が難しい患者に限って推奨しています。それよりは上記検査が重要だと考えております。

免疫系の不育症検査が必要な場合の判断基準を教えてください 。

不育症検査はやはり2回以上流産、または3回以上の連続する生化学的流産がある場合に行うことが基本です。
また、基本的には免疫系の検査(NK 活性、NK 細胞率、制御性T 細胞率、CD56brightNK 細胞率、CD56dimNK細胞率、KIR 陽性率、制御性T 細胞)などは不育症学会でもエビデンスが乏しいため研究的検査として推奨しているものではないため、もし行うとしたら保険適用が終わってしまうような6回の胚移植で複数回流産を繰り返しているか、または死産を複数回起こしている場合などに限って推奨します。一般的な不育症検査を正しく行っていない施設も多いため、まずは通常の不育症検査を正しい方法で行っているかなどが重要です。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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