保険での胚盤胞移植3回陰性後、9月に転院。上記のとおり様々な検査を受け、11月に採卵予定です。
保険での移植回数が3回残っております。NK細胞活性が63と高く、主治医に「自費だとイントラリポスやプレドニン、稀にグロブリンを使用する」と聞きしました。
イントラリポスを使用する場合、採卵から移植まで全て自費となると理解しております。
また、保険区間だと柴苓湯という漢方しか使えないとのことで、ひとまず処方を受け服用しております。(1)NK細胞活性以外の検査は概ね異常無く、NK細胞活性に対するイントラリポス療法を受けるだけの為に、保険での採卵・移植を飛ばして、自費での採卵・移植を選択するかどうか悩んでおります。保険の範囲内(柴苓湯のみ使用)での治療で効果(妊娠)はどれほど期待できるのでしょうか?
(2)NK細胞活性に対する柴苓湯(単独使用)の効果は如何なものでしょうか。イントラリポスの方が効果があるのでしょうか?また、それぞれの妊娠率(出産率)のデータはありますでしょうか?
(3)そもそもNK細胞活性が高い場合、どの程度、妊娠率(流産率)に影響するのでしょうか?63という数値はかなり高い方でしょうか?
(4)NK細胞活性が高く、その治療をしなくても、問題なく妊娠・出産される方もいらっしゃるのでしょうか?その割合はどれ程でしょうか?
(5)NK細胞活性を治療せず、妊娠できた場合、安定期以降の流産・死産のリスクは高いままなのでしょうか?妊娠できたらひとまず安心なのでしょうか?
可能な範囲でご教示頂けますと幸いです。
宜しくお願い致します。

弘前大学医学部を卒業後、
①検査・治療データを見て気になるところはありますか?
トマトさん、ご質問ありがとうございます。軽度の乏精子症はあるようですが、これまで配偶者間人工授精で妊娠されているということ、現在の体外受精で胚盤胞が出来ていることから大きな問題はないものと思います。いただいたデータを拝見すると、やはりトマトさんが気にされているようにNK細胞活性が63%と高い点が気になります。NK細胞活性は、複数回採血されておられますか?NK細胞活性は周期によって上下することがあり、もし測定が1回のみであれば、別周期(当院では黄体期に採血することが多いです)でもう一度確認してみるのは有用です。高値が持続しているようであれば、何らかの治療介入を検討しても良いかと思います。
②NK細胞活性が高い場合の妊娠率・流産率への影響はどの程度ですか?
NK細胞は、黄体期から妊娠成立時の子宮内に最も多く存在する重要な免疫担当細胞で、妊娠の成立・維持に関与していることは確かです。一方で、血中NK細胞活性が高いことが妊娠率や流産率にどの程度影響するかについては、明確な結論は得られていません。ただし臨床的には、妊娠率の低下、初期流産率の上昇といった可能性が指摘されており、免疫学的な着床障害の一因と考えられています。
③63というNK細胞活性の数値は高い方に入りますか?
一般に、末梢血NK細胞活性は 40%以上で高値 とされます。今回の63%は明らかに高い部類に入り、治療を検討する根拠となる数値だと思います。最近では、子宮内膜NK細胞の分布(子宮内膜NK細胞サブセット検査)を測定することも可能になっており、その結果を踏まえて治療介入の要否を検討する方法も有用かと思います。
④保険範囲内で柴苓湯を単独使用する場合の効果や妊娠率について教えてください。
NK細胞異常に対して柴苓湯が有効であるとする報告もあれば、効果が乏しいとする報告もあり、現時点では一定の結論は得られていません。内服によりNK細胞活性が低下する可能性はありますので、まず試してみるという選択肢はあると思いますが、効果の程度には個人差があります。

⑤イントラリポスと柴苓湯の効果の違いについて教えてください。
イントラリポスは大豆や卵由来の脂肪乳剤で、本来は栄養補給目的の薬剤ですが、免疫抑制・免疫調整作用 があることが知られており、NK細胞活性の低下、Th1/Th2比の低下が複数の研究で報告されています。一方、柴苓湯も免疫調整作用があるとされていますが、効果は比較的マイルド です。トマトさんのNK細胞活性は63%と比較的高値であり、柴苓湯単独では抑制が不十分となる可能性があります。
⑥NK細胞活性を治療せずに妊娠した場合のリスクはどうなりますか?
NK細胞の細胞傷害性を抑える治療には、ステロイド、免疫グロブリン療法、イントラリポス、柴苓湯などがあります。ただし NK細胞活性が高いから必ず妊娠しない、あるいは必ず流産するというわけではありません。そのため、何も治療を行わず次の妊娠にトライすることも選択肢のひとつです。とはいえ、NK細胞活性が高い状態や細胞傷害性の高いNK細胞が多い状態では、胚盤胞への攻撃による着床障害・稽留流産、胎盤形成不全からの妊娠高血圧症候群などのリスクが指摘されています。そのため、何らかの対策を検討する価値はあると思います。
妊娠成立後は、通常NK細胞活性は徐々に低下していきますが、持続的に高い方もおられます。治療を行う場合には、妊娠中も定期的にNK細胞活性を測定しながら経過をみるのが良いでしょう。
なお、私たちの検討では、反復着床不全の患者さんへのイントラリポス投与後の妊娠率が約50%、不育症患者さん(染色体異常を除く)の妊娠継続率が約90%という結果でした。