妊娠を考えるなら子宮環境を整えよう ラクトフェリンで 妊娠しやすい体へ

【医師監修】はやしART クリニック半蔵門 林 裕子 先生
早稲田大学第一文学部哲学科心理学専修、名古屋市立大学医学部卒。東邦大学産科婦人科学講座で生殖医療に携わったのち、2024 年9月、「治療から妊娠まで、すべてに責任をもちたい」という思いで、はやしART クリニック半蔵門を開業。心理学のカウンセリング技法を取り入れた不妊治療で、精神面からも患者さんに寄り添ったサポートしています。

子宮内にはいろいろな細菌が存在しています。その細菌叢(フローラ)の状態を良好にするのがラクトフェリンです。今回は不育や不妊に悩む患者さんの治療を行うはやしARTクリニック半蔵門の林裕子先生に、ラクトフェリンの働きについて教えていただきました。

感染を防ぐ、免疫調節など健康を維持する作用が豊富

林先生●ラクトフェリンとは、もともと牛乳から発見されたたんぱく質で、鉄と結合する性質をもっています。鉄を吸収しやすくなり、体内の乳酸菌を増やす働きがあります。乳酸菌が増えると、免疫調節機能を高め、ウイルスや菌への感染を防ぐことができます。
ラクトフェリンは人の初乳(産後、最初に出る母乳)に多く含まれており、赤ちゃんの健康維持に必要な成分と考えられています。 人の乳だけでなく、唾液や涙、鼻水、粘膜面にも存在。鼻や目、口などからウイルスや菌が入ることを防いでくれる役割を果たしています。つまり私たちの健康増進に関する作用をもっているものなのです。

子宮内の環境を整えるのにラクトフェリンが大切な理由

林先生●そのラクトフェリンですが、医学の世界では、「子宮環境にも関係している」と、10年ほど前からいわれています。
そもそも「子宮は無菌」といわれてきましたが、近年、子宮内にも菌が存在していることが判明。その菌はさまざまあり、環境を整えて妊娠しやすい状態にしてくれる善玉菌もいれば、逆に遠ざけてしまう悪玉菌もいます。善玉菌の中の一つにラクトバチルス属乳酸菌(以下、乳酸菌)というものがあり、それが子宮内に多くいると、受精卵が着床、妊娠継続しやすくするといわれています。
そして乳酸菌を増やすために欠かせないのが、冒頭に説明したラクトフェリンです。わかりやすく患者さんに伝えるために「ラクトフェリンは、乳酸菌を増やすための《餌》」という言い方をすることがあります。もう少し詳しくいうと、ラクトフェリンを摂ると悪玉菌が育つのに必要な鉄分が奪われるため、数が減少。その結果、善玉菌が増えて子宮環境が整うということです。
ご自身の子宮内に乳酸菌がどのくらいの割合でいるかを調べるには、子宮内フローラ検査(子宮内細菌叢検査)を受けるといいでしょう。この検査は先進医療に認定されているので、保険診療と並行して受けることができます。ただし、フローラ検査は全額自費となるので、費用についてはかかりつけ医にご確認ください。

反復着床不全の方の子宮内フローラ改善に

林先生●現在、当院ではラクトフェリンのサプリメントを取り扱っていますが、そのきっかけは、反復着床不全の方たちに子宮内フローラの検査をし、子宮内環境の改善目的でラクトフェリンを使おうと考えたからです。食事やサプリメントからラクトフェリンを摂取することは、患者さんご自身でできます。ご自身で「妊娠しやすい体づくりをしている」という実感をもてることは、治療をしていくうえで良いことだと思います。
ただ、ラクトフェリンを摂れば妊娠できるかというと、それだけではなんとも言えません。子宮内フローラに善玉菌である乳酸菌が増えると、受精卵が着床、妊娠継続しやすい傾向にあるのはその通りです。自然妊娠した人たち全員の子宮内フローラを調べたわけではないので、どんな状態だと妊娠するのかは、わかりません。もしかしたら悪玉菌がまあまあいる人でも妊娠、出産されている可能性はあります。
また子宮に善玉菌を増やし環境を完璧にしたとしても、受精卵に問題があれば着床、妊娠継続は難しくなります。一般的な病気であれば、原因をつきとめてそれを治療していきますが、不妊治療の場合、考え得る原因をつぶしていって妊娠できる確率を上げる治療になります。ラクトフェリンを摂って子宮内環境を整える方法も、妊娠する確率を高める方法の一つになるとは考えています。
当院では、複数回にわたって着床がうまくいかない患者さんには、自費で着床の窓検査(子宮内膜が胚を受け入れる時期とタイミングにズレがないかを確認する検査)と、子宮内フローラ検査についてお話しし、ご本人が希望すれば検査をしています。また腟炎に罹患したことがある、感染が原因で過去に流死産をされたことがある方にも、妊娠する前から分娩後までラクトフェリンを摂ることで、腟や子宮の状態を整えられるというお話はしています。

大きさや摂取方法を確認し継続できるものを選んで

林先生●ラクトフェリンをサプリメントで摂る場合、毎日続けることが大切です。「3日前は摂ったけれど、それから摂っていない……」などコンスタントに摂れないと効果が薄れてしまいます。ストレスなく続けられるよう、ご自身で続けやすいものを選ぶようにしましょう。今は剤型もカプセルや錠剤などがあります。また1粒の大きさや1回に摂る個数、摂取方法もサプリメントによって異なるので、選ぶ際に確認してみてください。 なかなか着床しない、妊娠が継続しないと不安になりますよね。
そういった場合は、子宮内フローラ検査を受けてみるのも一つの方法ですので、かかりつけ医に相談してみてください。もし検査を受けて悪玉菌が多いなど、芳しくない結果が出ても心配する必要はありません。「もっと後になってわかるよりも早めにわかってよかった」と考え、ラクトフェリンを摂るなど妊娠に向けて対処をしていけば大丈夫です。
ラクトフェリンは、妊活や妊娠継続だけでなく、人間が健康的に生きていくうえでとても大切なものです。出産後も継続して摂っていくといいでしょう。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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