【Q&A】胚移植まで行けない…誘発法は合ってる?~藤本先生【医師監修】

まりさん(38歳)

夫45歳、私38歳です。
高齢と、夫がED気味なので顕微授精を提案されてチャレンジしています。
先生から「残りの卵子が少し少なめ」とも言われました。

2回目採卵でブセレリン点鼻を3日目から、ゴナールエフ皮下注を4日目からして、採卵2日前にオビドレル皮下注をしました。
採卵数が少ないのが気になります。
培養がうまくできていなくて、移植ができないことで悩んでいます。

【医師監修】さっぽろARTクリニックn24 藤本 尚先生
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
年齢と卵子の質についてですが、“卵子の質は年齢と共に低下します”これは間違いのない事実となります。さらに言うと何か薬やサプリメントを飲むことでその質を上げることはできません。そのため不妊治療は少しでも年齢の若いうちに行うことが望ましいと言えます。
まりさんのAMH(卵巣予備能力を評価する検査)が不明なため、ここからは推測でのお話しとなりますが、主治医の先生から「残りの卵子が少し少な目」と言われたとのことで、このことは、AMHがまりさんの年齢の平均的なAMH値よりも少なかったことが予想されます。
AMHの値は、体外受精を行う際の排卵誘発を行う際に発育する卵胞数に比例します。AMH値が高い方が多くの卵が発育することを期待でき、逆にAMH値が低いと、あまり多くの卵が発育してきません。まりさんの過去の採卵の発育記録(2回の採卵時に2回とも3個の卵子を採取)と主治医の先生の言葉を踏まえるとAMHはゼロ点台か1点台前半位なのかなと予想されます。
それを踏まえて現在の治療を見てみると、おそらく排卵誘発はショート法(ブセレリン点鼻とゴナールFの注射を使用)で行っていると思われます。ショート法は先生によっても異なりますが、卵巣機能が少し下がってきている人に行うことの多い誘発法でありまりさんにとって著しく合わない排卵誘発方法であるとは言えません。どちらかというと、僕がまりさんを見ていたとしても初回は同じくショート法で開始するのかなと思います。
しかし、残念ながら胚移植を行うまでに至っていませんが、これを踏まえて排卵誘発方法がまりさんに合っていないと一概に言うことはできません。どの方法で排卵誘発したとしても、採卵して卵子を得たのちに培養して胚を育てていくわけですが、胚が基準を満たすという段階になるまでにはいくつものハードルがあります。得られた卵子はまず受精するわけですが、受精率はそもそも100%ではありません。一般的な受精法(体外受精)で60%台、顕微授精でも70%台程度です。そしてうまく受精した場合に受精卵は細胞分裂を繰り返して発育していきますが、最終的に基準(胚移植をするのに適した状態)を満たす受精卵はごく一部になります。例えば受精卵10個を培養していき、基準を満たす胚盤胞(培養5日目の胚)まで到達するのは様々な報告はありますが3-4個程度になります。そのため、確保できた卵子が少ないと最終的に移植できるレベルまで一つも発育せずに移植ができないということはどうしても起こってくるもので避けられません。

まりさんのように採卵で得られた卵が3個だと排卵誘発方法が良くないから移植まで到達できなかったというよりは、そもそも個数が多くないので基準を満たす胚まで到達できずに移植まで至らなかったとも考えられるからです。それなら、もっとたくさんの卵子を取ればいいじゃないかと思うかもしれませんがAMHが低い場合にはどんなに頑張っても多くの卵子を育てるというのはかないません。

受精方法については初回の採卵周期で受精がゼロだったとのことで、2回目から顕微授精になっていますが、これについても妥当な判断と思います。また採卵時の卵の個数ですが、何か薬を飲んだり、誘発方法を変更することで今までの倍の数の卵を育てたりすることはできません。適切な量の排卵誘発剤を使用すれば発育してくる卵胞の数は自身の卵巣予備能に比例し、誘発方法の違いで大きく変化はしないからです。

ここまで、まりさんの卵巣予備能を踏まえて(AMH値が不明なため予測になりますが)今までの排卵誘発や受精方法についてみてみましたが、もっとこうした方がいいんじゃないかな?ということはないのかなと僕は思いました。

つまり主治医の先生はまりさんの卵巣予備能を踏まえて妥当な対応をしてくれているのではないかなということです。

それならこれからどうしたらいいのか?と言われれば、まず排卵誘発ですが、胚移植まで行けてないのでショート法が悪いとは一概には言えませんが、うまくいってないということも事実です。なので排卵誘発法を変更するというのは検討してもいいと思います。他によりいい方法があるというよりは、あくまでもアプローチを変えるという感じでしょうか?僕ならアンアゴニスト法あるいはPPOS法を検討するかもしれません。

受精方法についてはまりさんの初回採卵の結果を踏まえて顕微授精のままでいいのかなと思います。個数については何か薬を飲んだり、排卵誘発方法を変更することで、例えば倍の個数の卵胞発育を促すことはできません。卵胞発育は自身の卵巣予備能に相当する数しか発育してこないからです。

いまのことろ、残念ながら胚移植まで到達出来ていませんが、まりさん自身は“自分はやるべきことをやっているんだ”という開き直りというかも必要かもしれません。うまくいくかどうかについて一番は女性の年齢にかかっています。まりさんの年齢は胚移植まで行ければ、十分に妊娠が期待できる年齢であるともいえます。あきらめずに頑張ってください。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。