みちさん(45歳)
子宮筋腫切除術後、6ヶ月検診のMRI結果で異常が無ければ、これから胚移植周期に入り、自然周期法で治療を進める、と説明を受けました。現在採卵数は5個のみです。
余り成績は良くないのですが、どの胚から移植すれば妊娠の可能性があるのでしょうか?
自分で出来る事はサプリメントや漢方と思い約1年間続けていますが、効果が有るか不明です。鍼灸は、着床前にも効果が有りますか?足湯も良いのでしょうか?
漸くここまで辿り着いたので、これから先、後悔無いように自分で出来る事をしたいと思っています。
ウィメンズクリニックふじみ野の林先生にお聞きしました。
1983年、東京大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療 センター(川越市)などを経て、現職。「体外受精、顕微授精も高いクオリティで対応していますが、できる限り自然に近い不妊治療をご提供したいと考えています。 患者さんはそれぞれお悩みも違いますから、どんなこと でもまずご相談を。時にはご要望に沿えず、厳しいこと を申し上げるかもしれませんが、常に患者さんにとって ベストな治療法をご一緒に見出したいと思っています」。
採卵と胚凍結を繰り返し受けられ、子宮筋腫手術を無事乗り越えられ、胚移植に向けての準備を進めておられるとのこと。まずはその積み重ねてこられた努力に敬意を表します。
現在保管中の胚は43~44歳での採卵で得られた胚(初期胚1個、胚盤胞4個)と解釈して私の意見を述べたいと存じます。主治医の先生とは、違った角度からの意見を敢えて辛口で申し上げるので失礼がありましたらご容赦ください。
ここで現保管胚をすべて移植するとして生児が得られる確率を計算してみたいと思います。
43歳での胚盤胞の染色体正常胚の率はおよそ15%。44歳ではおよそ10%と報告されています。ここでは染色体モザイク胚のことは省略します。染色体正常胚を移植しての生児獲得率は年齢によらず50~65%、ここでは仮に60%、また初期胚(43歳と仮定)では胚盤胞の3分の2の確率と仮定して計算してみたいと思います。
1から、すべての保管胚を移植し終わって生児が結果的に得られない確率を引き算すると1-(1-0.06初期胚43歳)×「(1-0.09胚盤胞43歳)4~(1-0.06胚盤胞44歳)4」=0.27~0.36。つまり生児が得られる確率は27%(すべて44歳で作成した胚盤胞であるとして)から36%(すべて43歳で作成した胚盤胞であれば)と計算されます。もちろん胚盤胞の形態的評価によってもこの確率は多少上下修正あるかもしれません。厳しい言い方で恐縮ですが、生児が得られるかどうかは、移植する胚が正常であるか否かがもっとも強く影響する因子です。
胚移植の順番は余り頓着しなくてよいとおもいます。多胎妊娠はまず起こりません(確率0ではないですが)から、2個移植(融解した初期胚を胚盤胞培養しても含んで)も場合により考慮されてもよいかもしれません。
鍼灸や足浴、漢方そのほか摂取されているサプリメントも、マルチビタミンや葉酸を除いては、エビデンスは十分ではなくご本人の意向のとおりでよいと思います。つまりこれらが着床率を向上させるという証拠はありませんが、決して意味を否定するだけの根拠もまたないので体調がよくなるという自覚があるのであればそれは続けてよいと考えます。
しかし、こうした補完代替医療を積み上げても、必ずしも効果が足し算的にあるのではなく限定的で、やはり決定要因は着床環境と正常染色体胚の移植です。これは高年齢の場合、着床前異数性検査(PGT-A)を使用した体外受精治療へ進む、もしくは卵子提供の選択にもつながることです。
繰り返しになりますが、生児が得られるための大切な要因は、正常な染色体の胚を不適切でない着床環境(乳酸菌が十分存在して、着床を阻害する子宮筋腫や内膜炎や内膜ポリープ、卵管水腫が無いなど)に移植することにつきます。考え悩みすぎ力むと負のエネルギーが満ちます。努力をされてきたので(人事を尽くされたので)、あとはなるようにしかならないもの(天命を待つ)と、肩の力を抜いてリラックスして移植に取り組んでください。