【Q&A】1PN胚は染色体異常?~小川先生【医師監修】

ふみかさん(34歳)

4回目顕微授精で得られた1PNは染色体異常である可能性が高いと聞きました。
胚盤胞にまで到達する可能性も低いと思いますが、胚盤胞に到達した場合には流産の可能性が高いのでしょうか。
また仮に出産できても染色体異常の赤ちゃんとなる可能性が高いでしょうか。
そもそも、長い間不妊治療をしていますが、なかなか妊娠出産に至らず、原因も分からず、今のクリニックのままで良いのかモヤモヤしています。
明確な解決策は出て来ず「ダメだったから手法を変えよう」とするだけです。何か他に出来ることはあるのでしょうか。
私自身はサプリを飲んだりお酒をやめたり、暴食しないようにしたりと、色々と気をつけていますが、一向に効果が見られません。上手くいかない原因として具体的に何が考えられるでしょうか。

小川誠司先生に教えていただきました。

藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

●治療データ (年齢、 AMH値、不妊の原因となる病名、検査治療歴)をみて気になるところがありますか?

AMHは同年代の方と比較するとやや低いですが、顕微授精で受精できており、良好胚盤胞も得られていますので採卵までの治療法は特に問題はないと思います。

3回移植されておられますが、2回が化学流産、1回は流産ですので、着床不全・不育症が疑われます。ご年齢から考えますと、これまで移植されてこられた胚は染色体正常胚である可能性は低くないと思いますので、血栓ができやすい体質とのことですが、他にも着床不全・不育症の原因となる項目を網羅的に検査されることをお勧めします

●顕微授精で得た 1PN胚について、染色体異常の可能性とその結果として流産や染色体異常の子供を出産する可能性について、先生の見解を教えていただけますか?

顕微授精由来の1PN胚に関しては、さまざまな報告があります。胚盤胞への発生率は下がりますが、一旦胚盤胞になった胚に関しては、妊娠率は低いものの、正常な生児を獲得できたとする報告があります。従いまして、移植の順位は低くはなりますが、他の胚がないのであれば、移植される選択肢はあると思います。ただ、ふみかさんは年齢的にはまだお若いですし、再度の採卵で2PNの良好胚盤胞が採れる可能性は十分にありますので、保険移植回数の制限を考慮しますと、1PN胚は移植せず、再度採卵された方が、確率の高い治療になると思います。

長い間不妊治療を受けているにもかかわらず妊娠に至らない原因について、考えられる可能性について詳しく教えてください。

ふりかけ(媒精)での受精率が低いため、一般不妊治療(タイミング療法、人工授精)で結果が出なかったのは、受精障害が最も大きな要因と考えられます。しかし、その後の移植の経過を拝見すると、受精障害だけでなく、着床不全・不育症の要因が他にある可能性があります。

●ふみかさんが現在受けている治療について、他に検討すべき治療法や手法があると先生が考える場合、それは何でしょうか?

顕微授精でも初回の採卵時の受精率があまり良くありませんので、引き続き、ZyMotやPICSIなど良好精子が選択できる手法を継続されることが良いと思います。また精子所見は問題ないとのことですが、受精障害・顕微授精での受精率が低いことを考えますと、精子の断片化指数(DFI)や酸化ストレス等も検査された方が良いと思います。
もしDFIや酸化ストレスが高いようでしたら、一度男性不妊外来を受診して精巣静脈瘤等がないかチェックされた方が良いと思います。精液所見に異常がなくても、精子の質を評価するDFIや酸化ストレスに異常がある場合も少なくありません。
また移植の前に着床不全・不育症の検査は実施できるものは全て検査された方が良いと思います。血栓ができやすい傾向にあるとのことですので、すでに自己抗体や凝固因子検査はされていると思いますが、他にも甲状腺ホルモンや慢性子宮内膜炎検査、子宮内細菌叢を調べるEMMA/ALICE、免疫検査(Th1/2比)などがありますので、実施されておられないようでしたら、一度調べてみることをお勧めします。もしこういった検査を網羅的に調べても異常がないようでしたら、バファリンだけでなくヘパリンを併用して移植する、あるいは自費にはなりますが、最近では原因不明不育症に対して免疫グロブリン大量療法も効果があると報告されています。

ふみかさんが自身で行っているサプリの摂取や生活習慣の改善について、これらが不妊治療にどの程度影響を及ぼす可能性があるのか、また、他に改善すべき点があれば教えてください。

ふみかさんは卵巣機能の改善に良い影響があるとされているサプリメントをしっかり摂取されています。サプリメントも体質改善には非常に重要であると私は考えていますので、ぜひ続けていただきたいと思います。ただビタミンD、Eなど脂溶性ビタミンは過剰になることもありますので、採血で現在の血清濃度を測ってみても良いかもしれません。またDHEAなども卵子数や卵子の質の改善につながると言われており、また亜鉛が不足しておられる方も少なくありませんので、採血をして低いようでしたら亜鉛サプリメントも、今後摂取をご検討いただいても良いかもしれません。

サプリメントや生活習慣の改善は必ずしも目に見えて効果が実感できるものではありません。ただ必ず良好胚の獲得にはつながりますので、ぜひ続けてください。流産とはいえ、着床できたことは非常に大きいことですので、上記の検査などを実施して、ぜひ治療を続けてください。もし現在おかかりのクリニックの治療に納得ができないようでしたら、後悔しないためにも他の医師・クリニックの意見を聞きに行かれても良いかもしれません。相談するなかで問題点が明らかになることも少なくありません。

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