不妊治療の進め方 俵史子先生が解説! 不妊治療のいろはVol.4(最終回)

自負治療にはどんなメリットや注意点があるの?

俵IVFクリニック 俵 史子 先生 2007年静岡市に不妊治療専門施設を開業。国立大学法人浜松医科大学に生殖周産期医学講座(寄附講座)を開設し、新たな精子検査法の開発や、妊娠・出産がより安全なものになるための不妊治療の研究も行っている。

自費診療では新しい技術や検査を受けられることも

―不妊治療における保険診療と自費診療の違いはどこにあるのでしょうか。

大きく分けて、異なる点は2つあると思います。
1つは費用に関して。保険診療は国が定めた基準のもとで行われるので、患者さんの自己負担額も抑えられます。3割負担で済むので、保険適用化前に比べると治療を受けやすくなったのではないでしょうか。一方、自費診療は検査や治療、薬代など、費用はすべて自己負担の10割となります。

2つ目は治療の選択肢の幅。費用面において自費診療は負担が大きくなりますが、治療に関してはメリットも。保険診療では国が定めた検査や治療しか行うことができませんが、自費診療では新しい治療法や検査が出てきた時、施設側は、患者さんにメリットがあると判断した場合にいち早く採用し提供することができます。薬に関しても、保険診療の場合「この薬はこういう病名がついていないと使えませんよ」という決まりがありますし、量にしても定められた範囲で使わなければなりません。細かいルールに縛られてしまうというのが保険診療のデメリットといえるかもしれません。

保険適用外の「PGT-A」が妊娠・出産への近道になる人も

―自費診療を望むのはどんな人ですか。また、自費診療をおすすめするケースは?

当院の場合、不妊治療に保険が適用されてから、ほとんどのカップルは保険診療を選択されていますし、医療側もできれば保険の範囲で妊娠していただきたいと思っています。ただし、不妊治療、特に体外受精などART(生殖補助医療)の場合、保険診療では年齢や回数の制限が設けられているので、それを超えてしまった場合、自費診療への移行を考える方もいらっしゃいます。

自費診療は費用の負担額が大きいので、積極的におすすめするケースは少ないのですが、流産を繰り返している方や良好胚を複数回移植してもうまくいかない方にはご提案することも。PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)という保険適用外の検査があるのですが、この検査結果から染色体数が正常な胚を選んで移植すると妊娠率が上がり、流産率も10%程度と低く抑えられるというデータがあります。この検査を希望した場合、採卵や移植など不妊治療自体も自費診療になり、経済的負担は大きくなりますが、特定の条件で結果が出ない方にとっては妊娠・出産までの近道となるかもしれません。

あとは医学的というより「少しでも年齢が若いうちに先に卵子をたくさん採っておきたい」など、社会的なご希望をもっている方。保険診療だと採卵して得られた胚は移植するのが前提なので、特殊なケースを除き貯卵は認められていません。貯卵して胚盤胞を複数個確保しておき、移植は希望の時期にする。自費診療だとそのような時間的な操作ができるので、ライフプランを立てている方にはおすすめなのかなと思います。

先進医療なら新しい治療も保険診療と併用が可能です

―保険診療と併用できる自費診療について教えてください。

国が認める高度な医療技術や治療方法の中で一定基準の有効性や安全性を満たした自由診療を先進医療といいます。費用は自費ですが保険診療と併用することができ、自治体によっては先進医療に対して助成金が出る場合もあるので、経済的にはある程度抑えられるのではないでしょうか。当院で活用されている先進医療はタイムラプスインキュベーター(胚を培養器に入れたまま観察と培養が行えるシステム)や子宮内フローラ検査などさまざまなものがあります。先進医療を使えば、保険診療でも検査や治療の幅を広げられますが、受けられる施設が限定されていたり、適用条件があったりするのでご注意ください。

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