今は生き方が多様化している時代です。そのため、個々のライフスタイルや環境によって結婚や妊娠を考える時期は違います。そこで各年代ごとの妊活・不妊治療の進め方にについて、さまざまな年代の不妊患者さんの診察にあたってきた山口ARTクリニックの副院長、山口貴史先生にお話をお伺いしました。
聖マリアンナ医科大学医学部卒業。順天堂大学大学院医学研究科卒業。順天堂大学産婦人科、セントマザー産婦人科医院、高崎ARTクリニック副院長を経て2024年山口ARTクリニック副院長に就任。今までの経験を活かし、いろいろな想いを胸に来られた患者さんの思いや希望に寄り添った治療を目指している。医学博士、日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医、生殖補助医療胚培養士、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡)
日本では不妊治療している方が多い年代は39歳。体外受精で誕生する赤ちゃんは11人に1人の割合に。
これから妊活・不妊治療を始めようという方に、まずは日本の不妊治療についてお話いたします。2021年の日本産科婦人科学会のARTデータブックによると、日本で不妊治療をされている患者さんのピークは39歳。世界的にみると日本の患者さんの年代は高い傾向にあります。ただ、日本国内だけでみると、2017年時点では40歳だったので、少しずつ不妊治療をしている方の年代が若くなっているようです。
また、ちょっと前は体外受精で生まれる赤ちゃんは16人に1人でしたが、今は11人に1人といわれています。他にタイミング法や人工授精など一般不妊治療で生まれた子もいるので、なんらかの治療介入を経て生まれた子はもっと多くいるでしょう。
初診ではおふたりの気持ちや今までの経緯などをじっくりきくことを優先
当院では、不妊治療をするにあたり「患者さんを知る」ことがとても大切と考え、初診ではおふたりのお話をじっくり聞くようにしています。お伺いする内容は、主に不妊治療についてどこまで認識しており知識があるか、妊娠を考えてからどのくらいの期間が経っているか、あとは治療歴などです。たとえば同じ「妊活して3年」というご夫婦でも定期的に性交する以外に何もされていないご夫婦もいます。一方で月経周期を把握してしっかりと基礎体温を測ったり、排卵チェッカーなどを使い、排卵日を意識してタイミングをとっていた方もいるでしょう。その場合、患者様の理解度は異なりますので、初診でしっかりおふたりの気持ちや状況を知ることが重要となります。また、治療に対するおふたりの温度差、テンションの違いなどを把握するように努め、その後の説明の仕方などに活かしています。
なかなか毎回ご夫婦で治療にいらっしゃるのは難しいと思います。当院では初診はおふたり一緒でないとダメとはしておりませんが、できればおふたりで受診していただくと、こちらがおふたりのことをしっかり知ることができます。そうすることで、治療もスムーズに進めやすくなると考えています。
初診ではおふたりからお話を聞くほか、超音波で子宮や卵巣の状態を確認します。また身長・体重、血圧を測ったり、血液検査をしてホルモン状態をみたり甲状腺、糖尿病のリスクがないか、ビタミンD、亜鉛などの量などをチェック。今、妊娠しても大丈夫な体なのかを調べます。
初診の後、それぞれで必要な検査を行い、自然妊娠できる体かを確認
初診の後、それぞれに必要な検査を行っていきます。どんな検査を行うかは患者さんの特性や医療機関などによって違いますが、主に行うのは女性の場合だと子宮卵管造影検査(卵子と精子が出会う卵管につまりがないかを確認する検査)、男性ですと精液検査になります。こういった必要な検査を行い、まず自然妊娠できるか、自然妊娠が難しい場合はどういった治療があるかを確認していくことになります。
20代の場合は、子宮内膜症や性感染症など妊娠を妨げる病気が隠れていないかを確認。あわせて生活習慣を見直すことが妊活の第一歩
20代の方で不妊治療をしようという方は、今まで生理周期のトラブルや月経困難症に悩んだ方が多いように見受けられます。そういう方には基本的な生理のしくみについてお伝えし、子宮内膜症などの妊娠を妨げるトラブルが隠れていないかチェックをします。
また、ご自身では妊娠を考えるうえでの健康管理ができているかを見直す必要があります。喫煙、食生活の偏り、やせすぎ、太り過ぎではないかなどを、この機会にチェックしてみてください。
確かに20代であれば、30代、40代に比べて一般的には妊娠しやすいです。ただ一定期間トライしても妊娠しない場合は、早めに医療機関を受診するようにしてください。受診をきっかけに、多嚢胞性卵巣症候群に因る排卵障害が判明することもあります。
そうはいっても『不妊治療クリニックを受診するのは、ハードルが高い』という方もいると思います。その場合は婦人科でもかまいません。ぜひ10代、20代のうちにかかりつけの婦人科をみつけておくといいでしょう。1から探すのもいいですが、子宮頸がん検診を受けている婦人科をかかりつけ医にするのもいいと思います。
30代は妊娠を考えたら一度婦人科か不妊治療施設を受診して
妊娠率は30代の前半から少しずつ落ちていきます。妊娠を考え始めた時点で、一度産婦人科や婦人科、不妊治療クリニックなどを受診し、「妊娠を考えているがどうしたらいいか」を相談してみてください。相談することで、これからの妊活や不妊治療の進め方の筋道をつけてもらいやすくなるでしょう。30代は仕事も忙しくなってくる時期なので、なかなか受診する時間をとるのも大変かもしれませんが、ぜひ受診の機会を作るようにしてください。
40代は残された時間が少ないので、治療もスピード重視が大切
40代で妊活を始めた場合、妊娠できる時間は少なくなります。そのため不妊治療や妊活も時間との勝負。必要な検査や治療をスピーディーに進めるためには、事前に「体外受精までステップアップするのか、体外受精を何回くらいトライするか、いつまで治療しようか」など、治療の方針や進め方について夫婦でよく話し合っておくことが大切です。
ちなみに40代の場合、体外受精をしても成功率は3割以下といわれています。また、妊娠した後も妊娠高血圧症候群や胎児発育遅延などの周産期合併症を引き起こしやすい傾向にあることも知っておいた方がいいでしょう。当院では、40代で妊娠することが厳しいということをきちんと患者さんに伝えつつ、それぞれのニーズや希望に合った治療を選択しています。
いずれの年代であっても「妊娠したい」と思ったときが妊活や不妊治療の始めどきです。ぜひ一度、婦人科や不妊を診られる医療機関へ相談をしてみてくださいね。