これから妊活・不妊治療を始める方へ伝えておきたいこと

不妊治療の保険適用化もあり、「選択肢として不妊治療を検討するカップルが増えてきていると思います。しかし、不妊治療の知識が少なく、不安に感じる人もいるでしょう。今回は、そのような不安を取り除くために、馬車道レディスクリニックの池永秀幸先生に教えていただきました。

【医師監修】 馬車道レディスクリニック 池永 秀幸 先生
医学博士。東邦大学大森病院第1産婦人科客員講師、日本産科婦人科学会認定医、日本生殖医学会会員。東邦大学医学部卒業。東邦大学大森病院第1産婦人科に勤務。周産期医学、体外受精を中心とした不妊症やその合併症(多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群など)などの治療にあたる。東邦大学リプロダクションセンターとチームを組み、閉塞性無精子症などの男性不妊の治療を行う。2001年4月に馬車道レディスクリニックを開院。不妊に悩む患者さんに心のケアを含めた思いやりのある治療を行い、妊娠までサポートしている。

意識しすぎず自然に妊活することが妊娠への近道 

これから妊活を始めようとする場合、「さぁがんばらないと!」と考えている人もいるかもしれません。でも、あまり妊娠を意識せず自然に定期的にセックスをするようにしましょう。 

特に最近はセックスレスのカップルが増えてきています。そういったカップルは排卵日を意識してタイミングを持とうとすると、男性の緊張が増してうまくいかないケースがあります。卵子は排卵後1日にしか生きていませんが、精子の寿命は4~5日。長いものだと1週間程度といわれています。こういったことから考えると、排卵日前4~5日と排卵後1日までにタイミングをとれれば妊娠の可能性があります。タイミングをとろうとする日をピンポイントでしようとすると、プレッシャーとなり勃起不全などうまくいかないことがあるので、4~5日くらい余裕があると考えてとってみてください。

自分で「妊娠しないな…」と思ったら、一度受診を! 

今、普通に夫婦生活をしていて1年間妊娠しなかった場合に不妊症といわれています。ただ、ご自身で「もしかしたら不妊症かも…」と感じた場合は、1年を待たずに不妊の検査をできるクリニックを受診しましょう。 

たまに「なかなか妊娠しないけれど、まだ若いから焦って病院へ行かなくてもいいだろう」と考えている人もいるようです。確かに年齢があがると妊娠率は低下します。20代~30代前半なら3周期妊活に励むとできることが多いです。逆に若いのに3周期以上トライしてもうまくいかない場合は、妊娠を妨げる何らかの理由が考えられるので、クリニックで検査をしてみてください。 

特に生理不順や生理痛がある、クラミジア感染症にかかったことがある、子宮内膜症がある場合は、不妊の原因になるので、早めにクリニックへ相談を。受診や検査が早ければ早い分、早く妊娠できる可能性は高くなります。「病院へ行くのが早すぎた」ということはないので、自分の中で「おかしいな」と思ったら病院へ行くようにしてください。 

不妊検査を始める時に、まずけたいのは子宮卵管造影検査と精液検査 

不妊検査を始める時に、まずぜひ受けて欲し検査があります。 

女性に受けていただきたいのは子宮卵管造影検査です。これは、卵巣から排卵された卵子が通過し精子と出会う「卵管」に造影剤を流し、詰まって通れないところがないかをX線で確認します。もし詰まりがあると、いくらタイミングをとっても受精・妊娠できないため、何らかの対策を講じる必要があります。 

詰まりがあると痛みを感じることがあるため、検査前に鎮痛剤を使用する場合もあります。また、造影剤を卵管に流すことで詰まりが取れ、検査直後に妊娠しやすくなる利点もあります。 

卵管造影検査と似た検査に卵管通水検査や卵管通気検査があります。卵管につまりがないかを「水」または「空気」を流し込んでチェックするものですが、一番正確に卵管の状態を確認できるのが卵管造影検査になるので、通水検査や通気検査を受けたことがあっても造影検査を受けておいた方がいいでしょう。 

 男性の場合は精子を採取し、数や動きなどを調べる精液検査を受けてください。 

より精密にタイミングをとりたいなら病院で行うタイミング法にトライしよう 

必要な検査が済んだらいよいよ妊活の開始です。まずはタイミング法から始める方も多いと思います。ご自身でタイミング法をやる場合は、基礎体温をベースに排卵日を予測し、タイミングをとる方が多いと思います。なかには排卵日を予測するアプリなどを活用している方もいるでしょう。もし自分でタイミング法をがんばりたいなら、基礎体温にプラスして排卵検査薬を活用してみてください。排卵検査薬は、LHという女性ホルモンが尿中に大量分泌されるLHサージを検出し、そこから排卵日を正確に把握することができます。排卵検査薬で陽性が出た場合は間もなく排卵されるということなので、タイミングをとります 

ただ、LHサージは数時間しか出ないため、自身で排卵検査薬を使ってもなかなか陽性がでないこともあります。また、生理周期が不安定な場合、LHサージがいつ起こるかわからないので、排卵検査薬を使いこなすのは難しいでしょう。 

 病院に通院して行うタイミング法もあります。当院では排卵日2~3日前に来院してもらい、エコーで卵子の発育を確認。さらに頸管粘液の状態、子宮内膜の厚みの3つから排卵時期を予測。排卵日付近で来院してもらい、排卵検査薬で排卵日を事前に予測しています。さらに後日きちんと排卵されているかもチェックしています。 

ご自身で行うタイミング法よりもかなり正確に排卵日がわかるのが特長です。自分でやる自信がない、自己流でタイミングをとったけれどうまくいかないという場合は、ぜひ病院の力を借りてタイミング法にトライしてみてください。 

治療は「スピード」が大切。1回やってステップアップを提案することも 

タイミング法で妊娠できない場合は、一般的に採取した精子を細い管を使って子宮に注入する人工授精にステップアップします。人工授精の1回あたりの妊娠率は5~10%です。 

人工授精の後は、採卵して体から取り出した卵子と精子を体外で受精させ、子宮に移植する体外受精にステップアップするのが一般的な流れです。一度受精卵を作り、それを胚盤胞という状態まで育ててから一度凍結。別の周期に凍結した胚盤胞を融解し移植します。体外受精の妊娠率は20~30代前半で40~50%、35~39歳で30~40%、40歳以上は20%未満となっています。この結果から高度生殖医療といわれている体外受精でも年齢を重ねると妊娠しづらくなることがわかります。 

すなわち不妊治療は「速さ」がとても大切なのです。一般的には数周期その治療をして妊娠しない場合は治療をステップアップさせるといわれていますが、当院では、その方の年齢や体の状態、不妊原因によっては、1回でステップアップを提案することもあります。また、時間を有効に使うために検査とタイミング法を同時に進めて行きます。それだけ無駄な時間をかけずに治療をしていくことが不妊治療では重要と考えています。 

今は生殖医療が発達し、不妊治療を受けた半数以上の方が妊娠できるようになっています。充分に妊娠できる可能性はあるので、時間を有効に使うためにもぜひ早めに病院へ相談してみてください。 

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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