再生医療の一つとして、整形外科や歯科、眼科、皮膚科などでも有効性が明らかにされているPRP療法。生殖医療の分野でも、子宮内膜の活性化や着床率の改善が見込めると注目度が上がっています。2020年からPRP療法を取り入れ、その効果を実感していると話す「エフ.クリニック」の藤井俊策先生に、治療の概要と効果について伺いました。
これまで私は、弘前大学医学部附属病院で約20年間にわたり、不妊症・不育症などの生殖医療と腹腔鏡・子宮鏡・卵管鏡などの内視鏡手術を中心として診療、研究、教育にたずさわり、青森労災病院やむつ総合病院においては周産期医療や一般婦人科診療の経験を積んでまいりました。思春期から更年期まで女性の生涯におけるさまざまな疾患、特に生殖に関わる問題にきめ細かく対応したいと考えております。
自身の血液を使って子宮の再生能力を高める「PRP療法」
PRP療法とは、血液中に含まれる血小板を利用する治療法。私たちの血液中にある血小板は、細胞を増殖させるなどの活性物質をたくさん含んでいます。そこで、ご自身の血液から血小板を多く含む血漿(多血小板血漿platelet-rich plasma:PRP)を抽出して子宮内膜に注入し、子宮内膜の細胞を増やしたり、血管新生(新しく血管を作ること)を促すことで、胚の着床率を高めるものです。
対象となるのは、子宮内膜が薄い方。また、子宮内膜は厚くなるけれど、繰り返し着床しない、反復着床不全の方です。
治療は、基本的には凍結融解胚移植の際に行い、ホルモン補充周期の10〜11日目に1回、その48時間後に2回目を行います。当日は、患者様ご自身の血液を20ml採取し、遠心分離機にかけてPRPだけを取り出して子宮内に注入します。処置時間は1分程度で、痛みも副作用もなく安全性の高い治療です。
(※またこの治療は第二種再生医療法により規制されており、厚生労働省の認可を受け、安全管理体制が整った医療施設でのみ受けることができます。)
子宮内膜を厚くするだけでなく子宮環境を整える効果にも期待
当院では、2020年からPRP療法を導入し、これまでに100周期以上の胚移植を行なってきました。そのうち40%以上の方が妊娠しており、私自身、予想していた以上の効果を実感しています。
これまでの実績では、必ずしもみなさん内膜が厚くなるわけではなく、変化がない人もいます。また、厚くなったのに妊娠しないこともあれば、厚くならなかったのに妊娠できた例もあり、結果はさまざま。考えられることは、PRP療法は子宮内膜を厚くするだけではなく、血管新生作用などによって、血管が豊富になったり血流がよくなったりすることで、着床率が上がるのではないかということです。
もうひとつ注目したいのは、PRP療法で凍結融解胚移植を行ない、その周期では妊娠しなかったけれど、翌周期、または翌々周期に妊娠した例が複数あることです。つまり、PRP療法の効果は、治療の周期だけではなく、数カ月間持続していると考えられます。PRPには、組織の損傷や炎症を改善する働きもありますから、さまざまな原因で状態の良くなかった子宮内膜がゆっくりと良好な環境に修復され妊娠したとすれば、今後の不妊治療においての可能性はさらに広がると感じています。
いろいろ試したけれど結果が出ないとお困りの方は、早めの取り組みを
当院では、半数程度が他院からPRP療法だけを受けに来られている方です。反復着床不全で、8回目の胚移植でPRP療法によって妊娠された方もいらっしゃり、大きな可能性を秘めた治療法だと感じています。ですが、年齢が上がるにつれ、例え着床してもその後流産したりというリスクも高まりますので、検討される場合はできるだけ早めがいいでしょう。
PRP療法は、保険や先進医療の対象外で自費診療です。そのため、PRP療法を併用する凍結胚移植周期は全てが自費診療になり、経済的負担が大きいというデメリットもあります。しかし、1回のPRP療法で次周期以降も効果が持続する可能性を見込めば、治療周期の前にPRPを行い、次の周期で胚移植をするという方法も考えられなくはありません。助成制度なども活用しながら、まずはクリニックに相談してみられることをおすすめいたします。