保険適用の治療と自費診療について

自費診療に移行すると保険診療には戻れないのでしょうか?
保険診療で治療してもなかなか結果が出ず、自費による診療に移行。まだ回数制限に達していなくても保険診療に戻ることはできないのでしょうか。保険に関する素朴な疑問について、浅田レディースクリニックの浅田義正先生にお答えいただきました。

浅田レディースクリニック 浅田 義正 先生 名古屋大学医学部卒業。1993 年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。現在、愛知県の名古屋駅前、勝川、東京・品川にクリニックを開院。著書に『不妊治療を考えたら読む本』(講談社)など多数。
ぽりおんさん(40 歳)からの相談 10月に保険診療で採卵。卵子が育たなかったため中止。また次回採卵になります。保険診療で移植まで進んだのはまだ1回で、採卵の後なかなか前に進めていません。11月もしくは12月よりPRP療法の自費診療のうえ、自費での体外受精をすすめられました。PRP療法は挑戦したいものの、一度保険診療から自費診療に移行して移植まで終わり、また一から採卵になった際、保険診療を希望してもできないと言われました。回数的にはまだ5回あるのに、完全に棒に振るのかの選択を迫られています。同時期に保険と自費の診療ができないのと、保険診療の回数もまだ十分あるのに保険診療に戻れないのはなぜなのでしょうか。

ドクターアドバイス

●同じ治療目的で保険と自費の混在は×。
●PRP 療法はあまりおすすめしません。
●PGT-A で正常胚を選んでから移植

自費診療に一度移行したら施設を変えても保険診療には戻れません

自費診療に移行したら、保険診療に再び戻ることはできないのでしょうか。

浅田先生●保険診療と自由診療ではそもそも法律が異なります。保険診療は健康保険法に則らなければいけませんが、自費診療は医師法・医療法で解決できます。

健康保険法の法律には「厚生労働省が定めた通りに診察しなくてはいけない」と明記されています。厚生労働省が認めた薬剤や機材しか使ってはいけないのです。不妊治療で使える薬剤の種類や量も決まっているので、それから逸脱することはできません。

また、保険診療の目的は病気を治すこと。不妊が病気かどうかは微妙なところですが、それをクリアするために適用するものなので、同じ目的をもって自由診療で治療をすることはできないのです。保険と自費が混在した時点で混合診療となりアウトということになります。

自費診療後、半年後などに別の施設で保険診療を望んでも保険適用外になってしまいますか?

浅田先生●施設単位ではなく、国民健康保険や社会保険など保険者単位でみているので基本的にはできないということになります。保険診療をした場合、医療施設ではレセプトといって患者さんの治療明細のようなものを保険者に提出します。それでチェックしているので、施設を変えても同じ保険者に請求がいけばわかってしまいます。

再び保険診療に戻れるというケースは妊娠した場合のみです。妊娠して一度不妊症という病名が消えれば、もし2 人目不妊などになった時は振り出しに戻り、以前自費診療を受けたことがあっても再び保険診療からスタートすることができます。

現状、PRP療法はまだエビデンスが確立されていない治療です

ぽりおんさんはPRP療法を担当医からすすめられたのを機に、自費診療をするか迷われるようになったとのことですが。

浅田先生●PRP療法は保険適用外で、血小板の濃厚液のようなものを子宮内膜が薄い人を対象に着床率を向上する目的で子宮内に注入する方法です。世界的にもデータが十分出ていない方法ですので、その有効性ははっきりしていません。今後、エビデンスがはっきりするには、まだ時間がかかると思います。

一方、PRPを卵巣に注射する方法も、ごく一部の施設で施行されていると聞きます。これは、一見画期的な方法のように思われますが、世界的に見てもまだ明確なエビデンスやリスク分析はありません。卵子は卵巣表面近くの所にガチッとコーティングされているような形で残っているので、表面を少し傷つけるだけでも卵子が育ちやすくなる傾向があります。もし効果があったとすれば血小板というより、これを注入する際、卵巣に針を刺して傷つけたことから卵子が育ちやすくなったということも考えられます。ただ、この段階でエビデンスがはっきりしない方法をすすめるというのはちょっと理解に苦しみます。先生も結果がでないことの説明が十分にできないので提案されたのではないでしょうか。

自費診療を選択してお金をかけるなら信頼・納得できる施設を選びましょう

浅田先生だったらどのような治療方針を立てますか。

浅田先生●まだ保険診療でできる回数が残っているのなら、終了するまで頑張ってみてはどうでしょうか。それで結果が出なければ自費診療にステップアップすることを考えればよいと思います。

自費となった場合でも当院ではご希望がない限りPRP療法の提案はしません。この治療は20万円程度と高額ですので、それだけのお金をかけるのなら、採卵して、できれば受精卵をたくさん作ったうえでのPGT – Aをおすすめします。妊娠が望める正常な胚だけを選んで移植していくことを優先したいと思います。それでも、なかなか妊娠できなければ、いろいろな方法を考えていきます。

自費診療は保険診療に比べて費用がかかる治療です。もし受けると決断されたら、その費用に見合う、自分が信頼・納得できる施設をきちんと調べて選びましょう。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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