将来の妊娠、出産に備える 未受精卵凍結について

自分自身の卵子を保存し、将来の妊娠に備えることができる未受精卵凍結。年齢を重ねても採卵時の年齢そのままの卵子を残すことができるこの技術について、メリットや注意点、費用など、セントマザー産婦人科医院の田中 温先生に詳しく教えていただきました。

セントマザー産婦人科医院 田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。膨大な数の研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦人科医院を開院。現在も研究と実験に精力的に取り組んでいる。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

未受精卵凍結の適応には医学的適応と社会的適応がある

採卵した卵子を受精させずに凍結することを「未受精卵凍結」といい、現時点では、日本生殖医学会のガイドラインで定められた医学的適応と社会的適応があります(左ページ参照)。以前は、医学的適応と、健康でも結婚している女性のみ未受精卵凍結ができるとされていましたが、晩婚化やライフスタイルの変化をはじめ、「今は仕事を優先させたい」「将来の自分のために、妊娠・出産準備をしたい」という社会的ニーズに、ようやくガイドラインが追い着いたといえるでしょう。

体外受精と同じ方法で行い、使用時は顕微授精の一択

未受精卵凍結の方法は、通常の体外受精の際に行う手順と同じように、まずは排卵誘発で卵巣を刺激します。通常、卵巣から排卵される卵子は毎月、主席卵胞と呼ばれるもっとも発育が進んだ卵子1個のみですが、実際には多くの卵胞が発育しており、排卵後は栄養として体に吸収され、消失します。そこで、本来なら消失する卵子も発育させるために刺激を与え、卵胞が複数個育ったら針を刺して卵胞液を抜き取り、卵子を採取します。

この手順で獲得した卵子をマイナス196℃という超低温の液体窒素で凍結させ、将来、使用する時もしくは本人の意思で破棄する時まで保存します。移植をする際は顕微授精のみなので、忘れずに覚えておきましょう。

注意点やデメリットを知り、年齢的な要因も理解して

排卵誘発は良質な卵子を数多く採取するために行うのが目的ですが、場合によっては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)に代表されるような副作用のリスクもあるので、排卵誘発法の選び方など注意が必要です。

卵子の質は主に年齢に左右され、年齢が高くなると採卵した卵子の約半分で染色体異常が生じ、流産率が上がります。未受精卵凍結は、採卵時の年齢のままの卵子を保存できる技術ですから、未受精卵凍結を検討されている方はできれば35歳までに行っていただきたい、というのが私の持論です(日本生殖医学会のガイドラインでは40歳以上は推奨しない、と記載)。高齢出産のリスクを避けるためにも、使用時の年齢は45歳までを推奨しています。

当院のデータでは、未受精卵凍結を融解した場合の蘇生率は約80%で、融解後の受精率・分割率は50~60%。40代で採卵した卵子を用いるよりも、35歳までの未受精卵凍結での出産率が高いのは明らかですが、受精させた凍結胚を用いた治療に比べると低い値となることも知っておきましょう。

産みたいと思った時のために、自分自身の若い卵子を残す

2022年4月から不妊治療の保険適用が始まりましたが、残念ながら未婚女性の未受精卵凍結は現時点では保険適用外です。そのため、診察から採卵・凍結までを自費で負担すると約30〜50万円(クリニックによる)。そこに保管料等も加わるため、将来の準備とはいえ20〜30代で行うには無理があります。福利厚生で全額負担する企業もあり、当院も契約している企業はありますが、それよりも保険適用にして国がサポートすべきです。

未受精卵凍結の最大のメリットは、「自分自身の若い卵子」を自分が将来「産みたい」と思った時まで保存しておけること。「結婚すれば、できると思っていた」という患者さんは今なおいますが、卵子の老化によって自分の卵子ではどうしても子どもができないという患者さんが多いのも事実です。深刻度を増す少子化対策を本気で考え、若い方々の意識を変えるのは国の仕事なのですから、私も国への働きかけを継続して行っていきます。

未受精卵凍結の対象となる人

●悪性腫瘍などの治療が必要な人

医学的適応は、悪性腫瘍の治療(抗がん剤などを投与する化学療法や放射線治療)等によって卵巣機能が低下し、将来、卵子が採れなくなる可能性がある方が対象。原疾患(悪性腫瘍)の治療に携わる主治医の許可が得られている場合に限ります。

●卵子凍結を希望する健康な人

年齢が高くなることで性腺機能の低下をきたす可能性を懸念する場合に行うのが社会的適応。健康な成人女性が対象ですが、採卵時の年齢が40 歳以上は推奨できないとし、卵子の使用時の年齢は45 歳未満を推奨しています。

助成金制度について

体外受精などの不妊治療が保険適用となりましたが、未婚女性の未受精卵凍結は保険適用外であり、助成金制度も現状はまだ整備されていません(医学的適用は、自治体によって助成金制度がある場合も)。そのため、クリニックによって差はあるものの、診察・検査〜排卵誘発〜麻酔・採卵〜凍結〜保存を行うと約30 〜50 万円と高額。いくら将来の自分のために準備するためとはいえ、金額を考えると誰もができるものではありません。少子化対策を本気で考え、未受精卵凍結の早急な保険適用もしくは助成金制度の整備が国に対する私の要望です。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。