蔵本ウイメンズクリニック 蔵本 武志 先生久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、1990年オーストラリア・PIVETメディカルセンターへ留学。帰国後、1995年蔵本ウイメンズクリニック開院。JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長。久留米大学医学部臨床教授。
TRIO検査で異常があり服薬中。治療後に再検査は必要?
40歳です。TRIO検査を行ったところ、EMMAではラクトバチルスの割合が38%、ALICEでも異常がみられたため、抗生剤を服用し始めました。治療後に再検査するか、そのまま体外受精に進むか決めかねています。
司会●治療後に再度検査を行うべきでしょうか?
蔵本先生● EMMA は、子宮内膜の細菌の種類と割合を測定し、子宮内膜の細菌叢のバランスが正常かどうかを調べる検査です。善玉菌のラクトバチルスが多いほど子宮内の環境が良いとされ、90%以上が正常です。38%ですととても少なく、子宮内に雑菌が入ってきやすくなるため、適切な治療が必要です。ALICE は、慢性子宮内膜炎の原因となる菌( 悪玉菌) の有無を調べますが、悪玉菌が存在する場合は着床率が低下してしまいます。抗生剤を服用して治療中とのことですが、年齢的なこともあり再検査を迷っておられるのですね。
通常は、胚移植時またはその前にラクトバチルスが入った錠剤などを挿入することで改善することが多いのですが、25%程度の方が1回の治療では完治しないというデータもあります。ですから可能であれば再検査をしてから、体外受精に進まれるほうがいいでしょう。もし悪玉菌が残っていれば、また別の抗生剤を使った治療になると思いますが、完治すれば妊娠率は上がると思います。検査はスペインの機関に出すため、3週間ほど時間を要しますが、完治を確かめてから先に進むほうが早道です。40 歳であれば、卵子の染色体数の異常も増えてきますので、それも併せて複合的に考え治療を進めていかれるといいと思います。
胚の発育が悪いため初期胚を移植妊娠の可能性を高めるためには?
46歳です。約10年治療を続けてきましたが、次を最後にと考えています。これまで採卵しても胚盤胞まで育たず移植に至らなかったため、ここ数年は初期胚を移植しています。このままの方法で大丈夫ですか?
司会●初期胚で移植する方法についてはいかがでしょう?
蔵本先生●これまで長い期間、大変な治療をよく頑張ってこられましたね。現在46 歳というご年齢ですと、採れた卵子での受精卵は、8割に染色体数異常の可能性があります。卵子の染色体異常が増えると、胚の発育が不良になるのはよくあることです。
胚盤胞まで育たない原因として、受精卵が細胞分裂していく際、そのエネルギーとなるミトコンドリアの数や機能が年齢とともに低下してしまうことも考えられます。
それらを踏まえると、採卵数が少なくなってきた場合には、胚盤胞まで無理に培養するよりも、細胞分裂する前の初期胚で凍結することをおすすめします。受精して2 〜3日経過して凍結することもありますが、ストレスにもっとも強いといわれるのは受精直後の前核期胚です。そこで少なくとも2個凍結、融解後に1日培養し、細胞分裂した胚を戻します。今では培養液も進歩していますが、完璧ではありません。培養液では育たない受精卵も子宮の中だと育つことがあると主治医からもお話があったようですが、子宮内細菌叢をしっかりと整えたうえで前核期胚で凍結されると胚移植できる可能性は高くなると思います。胚盤胞移植より妊娠率は落ちますが妊娠出産に至った例は何例もあります。
治療をいつまで続けるかについては、再度、ご夫婦でよく相談されて決められるといいと思います。