不妊治療を始めると「卵子の老化」「卵子の質」などの言葉をよく目にするようになると思います。でも、実は卵子についてよく理解していないという人も多いのでは? 浅田レディースクリニックの浅田義正先生に妊娠にとって必要な卵子について素朴な疑問にお答えいただきました。
ドクターアドバイス
●卵子は胎児のうちにつくられ、その後どんどん減っていきます。
●卵巣予備能がわかるAMH検査は治療計画の参考にも。
●卵子の老化とは細胞分裂のしくみが崩れていくこと。
卵子はいつできて、どれくらい減っていくのでしょうか?
卵子の元になる原始卵胞は女性が胎児のうちにすでにできています。その数は妊娠期の半ばくらいが一番多くて500~700万個くらい。生まれた時は100~200万個、思春期になって生理が来る頃には30万個くらいまで減ってしまいます。多くの方が不妊治療を考え始める35歳頃は2~3万個しか残っていません。
卵子は生まれる前に1回生産されて、その後、細胞分裂して増えることはありません。生まれてからはものすごい勢いで減っていきます。閉経の時期でも1000個くらいは残っているだろうという説もありますが、そのほとんどは使いものにならないと考えられています。
一方、精子はつねにフレッシュなものがつくられています。それは細胞をつくる大元の幹細胞が精巣内にあるから。卵子は幹細胞ではなく、第一減数分裂の途中という段階で休眠状態になっているので、二度と新しいものをつくれない。つくるのではなく体内に保存されているだけなのです。
一見、男女で不公平な気がしますが、女性の体は年をとってから妊娠しなくてもいいようにできています。本来、妊娠・出産は命がけでするもの。体を守るために、それが30代で終わるようになっています。
「卵子の老化」とは具体的にどのようになるのですか?
老化した卵子といっても見た目は普通の卵子と変わりません。顕微鏡で見ると、むしろ若い人の卵子よりきれいなくらいです。老化すると何が変わるかというと、卵子の中にあるDNAの塊である染色体の分配が変わってきます。
DNAを束にしてまとめたのが染色体。DNA自体は傷んでも修復されるのですが、それを束ねている輪ゴムのようなものが傷んだままになってしまう。すると、染色体を倍にしてまたそれを分配するなど細胞分裂の過程で染色体のシステムがうまくいかなくなってきて、使えない異常な細胞が増えていくというのが老化のメカニズムなのです。
卵子の老化というのは1個ずつの細胞の生存限界が迫っているということ。30代後半頃から妊娠に必要な卵子の異常が増えてくるのは、もうシステムの限界がきているということを表しています。
AMHはどのようなものですか?
AMH(アンチミューラリアンホルモン)は発育中の卵胞が分泌しているホルモン。検査でその量を測ることで、保持している卵子の数の目安を知ることができます。たとえればスズメバチがたくさん飛んでいるから巣の中にも多くのスズメバチがいるのではないかという感じでしょうか。間接的にみているもので完璧ではありませんが、比較的信頼できる検査です。
AMH値は不妊治療を受ける人にとっては大切な目安。値が低ければ早く卵子がなくなって治療ができなくなってしまう。初診の時はもちろんですが、もっと早いうち、30歳頃になったら測るようにしておけば人生設計を立てやすいし、治療のステップアップのスピードを決めることもできます。
AMH検査は現在、体外受精の時だけ保険適用になっていますが、できれば月経の異常などどんな状況でも保険で気軽に受けられるようになったらいいなと思っています。
卵子の質が妊娠を左右すると聞きますが、では子宮はどんな役割がありますか?
受精卵を受け入れて、出産まで赤ちゃんを育てるのが子宮の役割です。卵子は老化すると前述しましたが、子宮は老化することはありません。子宮は胃や腸と同じように筋肉でできている臓器で、細胞をどんどん入れ替えて維持しているからです。また、子宮は直接妊娠率には関与していません。代理出産など他人の子宮に受精卵を移植しても赤ちゃんが生まれるように、妊娠率は卵子の老化による染色体の異常と受精卵の遺伝子の組み合わせで決まります。
子宮はつねに内膜を厚くして、受精卵にとってベストな低酸素状態を保てる環境を作っています。妊娠が成立しなかったら月経という形で内膜が剥がれ落ちて、また新しく作り替えていく。
妊娠が成立したら今度は受精卵のほうから指令を出して、血管をもっと広げるように働きかけるのです。このようなしくみは生命の神秘であり、本当によくできたシステムだと驚かされます。