培養して成熟させた未成熟卵の受精率や着床率は低い?
神奈川レディースクリニック 小林 淳一 先生 慶應義塾大学医学部卒業。1984 年より習慣流産の研究と診療に携わり、1989 年より済生会神奈川県病院においてIVFを不妊症・不育症の診療に導入。その後、新横浜母と子の病院の不妊・不育・IVFセンター長に就任。2003 年、神奈川レディースクリニックを開院する。患者さまの個々のペースに合わせた無理のない医療を目指す。
相談者 : ななさん(36歳)採卵数7個のうち、未成熟卵が3個ありました。採卵1日目、培養士から「未成熟卵3個を1日培養して成熟卵になりましたが、今から顕微授精を行いますか?」といわれ、そのような場面の説明や想定、受精率など事前に話はなくパニックになりました。1時間以内に返答してほしいといわれましたが、その時に「1日後の受精率は落ち、胚盤胞になる確率や着床率も低い」とのことで結局破棄することに。このような培養法や提案は一般的に行われていることなのでしょうか。
未成熟卵を培養して顕微授精するというのはよくあることなのですか。
小林先生●未成熟卵の扱い方は、施設によっていろいろな考え方があると思います。当院では、ほかに正常な受精卵がなかった場合、次の日まで未成熟卵を培養して顕微授精を行うこともあります。
ただし、その前、採卵日夕方の段階でレスキューという形でできるだけ受精させるようにしていますね。それで正常な受精をした胚があれば、未成熟卵はそのままにしてしまうことが多いです。
未成熟卵を1日培養して成熟卵になったとしても、受精率や妊娠率は低いのでしょうか。
小林先生●どの施設でもこのような卵子を優先的に使うというケースは少ないと思うので、統計的なデータはあまり報告されていません。
個人的には成功率は高くないという印象です。なかには妊娠される人もいますが、未成熟卵の1日遅れの顕微授精は胚盤胞までいく確率がとても低い。分裂がおかしくなって、正常に育たないケースが多いのですね。
普通なら積極的に提案することはないでしょう。ほかに選択肢がなければすることもあります。それでうまくいったら、運が良かったというレベルになるかと思います。
直前に培養士から選択を迫られてパニックになったとのことですが。
小林先生●事前に詳しい説明もなく、直前に選択しなければならないのでは、患者さんも困惑してしまいますよね。
事前に起こりうるさまざまなケースをご説明しておくことはもちろん、治療について患者さんに承諾をとっておくことが必要だと思います。たとえば「顕微授精はしなくていい」という承諾書をもらっておけば、通常の体外受精で受精しないものはそれで終了ということに。承諾なく顕微授精でレスキューしてしまったら「何でやったのですか?」となってしまいます。不妊治療は患者さんが納得して進めていくことが前提。この方の場合、事後説明ということになるので、戸惑ってしまうのは当然なのかもしれません。
未成熟の卵子が多い場合、どんな形で治療を進めていったらいいですか。
小林先生●卵巣刺激の方法を変えてみたらどうでしょうか。この方は多囊胞性卵巣ぎみですが、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が3・17ng/mlと悪くありません。今はアンタゴニスト法を採用されているようですが、ロング法に挑戦してみてもいいかもしれませんね。