不妊治療を始めるにあたり、今までかかった病気やトラブルについて振り返る方もいるのではないでしょうか。今回は過去に中絶手術を受けたことのある方からのご相談です。池下レディースクリニック吉祥寺(2022年7月より花みずきウィメンズクリニック吉祥寺)の院長、矢野直美先生にお教えいただきました。
医学博士、産婦人科専門医、生殖医療専門医、女性ヘルスケア専門医。東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院、武蔵野赤十字病院、池下レディースクリニック広小路などに勤務後、平成21年に池下レディースクリニック吉祥寺院長に就任。出身地である地元・吉祥寺の街で高度生殖医療に従事しつつ、女性の健康をサポートしている。
2022年7月より名称が「花みずきウィメンズクリニック吉祥寺」に改称。
体外受精の治療中。過去の中絶、言った方がいい?
排卵誘発方法を再度検討してみてはどうでしょう
生殖補助医療の卵巣刺激法はいくつかあり、AMH値と患者さんの年齢などを参考にして決めています。2022年の4月から、自己注射しやすいペン型皮下注射が高刺激法も保険適応となり、費用面の負担が軽減されました。
AMH値は卵巣に残っている卵子の数の目安になるといわれており、年齢とともに低下しますが個人差があります。トントンさんのAMHは1.5ng/mlということ。数値が1.5をきると高刺激法と低刺激法で発育する卵胞数の差が少なくなるといわれていますが、トントンさんの数値はボーダーライン。
2022年4月より生殖補助医療を前提としたAMH検査も保険適用になりました。次回の採卵前にAMH値を再検し、その結果を踏まえて主治医の先生と採卵方法について相談してみるといいと思いますよ。
過去に自然妊娠をしていても、妊孕性(妊娠しやすさ)が低下することはあります
一度妊娠されているということは、先天的なことが原因の不妊の可能性はないでしょう。ただ、前回の妊娠から10年以上経っていますよね。20代で問題なく妊娠できたとしても、10年の間に卵子の質も低下し、もともと不妊症でない方も自然妊娠率が低下することはご存じかと思います。さらに、この間に何らかの感染症や子宮内膜症などの疾患により妊孕性が低下した可能性もあります。
できれば中絶したことは不妊治療クリニックへ伝えましょう
トントンさんは、中絶したことを不妊治療クリニックに話そうか迷っているとのことですが、その気持ちはとてもよくわかります。できれば不妊治療クリニックの医師に話しておく方がいいでしょう。
頻繁におきることではありませんが、中絶手術の内膜掻把(そうは)や術後感染により子宮内膜に傷がつき、受精卵を迎え入れる時期になっても厚くなりにくくなる場合があります。不妊治療だけでなく、無事妊娠に至り出産する場合も、安全に管理するうえで大事な情報です。
医療従事者には守秘義務があるので、夫には知られたくない旨を伝えておけば、きちんと秘密は守ってくれます。
ただ、不妊治療は2人で通院し、これまでの経過や今後の治療方針を聞くこともあるでしょう。そんな時、夫に対して秘密があると、説明や提示できる資料に制限があることになり、治療自体が窮屈になってしまいます。
不妊治療を成功させるうえでも、パートナーを信頼してつらい気持ちも受けとめてもらい、支えあうことはとても大切なことです。