胚培養に欠かせないタイムラプスが、国から先進医療に認められました。長年にわたりタイムラプスを使う京野先生に、どんな働きをするのか伺いました。
胚にストレスを与えず育てる培養器
体外受精や顕微授精を行う際、女性の卵巣か ら採った貴重な卵子は、その日のうちに精子と受精させて受精卵(胚)にし、その後、約5日間かけて育てます。この時に活躍するのがインキュベーターという培養器。女性の卵管を模した環境の中で、培養液に浸した胚は、細胞の分割を繰り返しながら成長します。この一連の治療を「受精卵・胚培養」と呼びます。
胚培養は医師や培養士が行います。1~2日おきに数回、培養器から胚を取り出して、顕微鏡で成長の過程を観察し、また培養器に戻します。過去にはこの方法が一般的に行われていたのですが、培養士の技術がどれだけ高くても、培養中の胚にとってはあまりいいことではありませんでした。培養器から取り出した時の温度の変化や、顕微鏡の光が胚にストレスを与えるからです。そこでこの課題を解決し、胚を取り出さずに観察を可能にしたのがタイムラプスです。培養器にカメラを内蔵し、10分間隔で培養中の胚を自動撮影。その画像は動画のように見ることができます。
鮮明な画像によって成長中の出来事がわかる
当院では2012年から仙台、東京・高輪、盛岡、東京・品川の施設で順次、タイムラプスを導入しました。使っていて実感する一番の良さは、胚の成長の過程をカメラが細やかに追うので、どのように細胞が分割しているのか経時的に把握できることです。たとえば、正常な細胞の分割は「2→4、4→8」と進みますが、一度分割した胚が逆戻りする「リバース分割」や、「1→3」「2→5」という「ダイレクト分割」など、異常な分割がわかるようになりました。これまでは経時的な観察は無理でしたが、タイムラプスによって、異常な分割が詳細にわかるように。しかも、画像の解像度が高く鮮明なため、成長する胚の詳細な情報がわかります。
また胚の分割は本来、女性の卵管で行われるもの。培養器にずっと入れたまま、安定した環境で育てるせいか総合的にみると、タイムラプスを採用してから移植できる胚(胚盤胞)に育つ確率が高くなりました。
さらに、当院で導入しているEmbryoScope+(Vitrolife 社)というタイムラプスでは、AI技術を用いて開発された胚盤胞を評価できるiDAScore( アイダスコア)が使用できます。これは、育った胚盤胞の中でどれが一番妊娠しやすい胚なのかを予測し、スコアで示すことで評価を手助けするものです。使用しているなかで、アイダスコアの点数が高い胚盤胞は、着床率が高いことがわかってきました。胚移植の際には、アイダスコアが一つの指標になります。
タイムラプスは受精卵・胚培養に欠かせない技術
不妊治療というのは患者さんの心や体にはとてもストレスなんです。だから治療期間は短ければ短いほどいい。そのためにはたくさんある不妊治療の技術や工程を一つひとつ正確に早く進めることが必要でしょう。「受精卵・胚培養」においては“胚盤胞に育つ確率”や“胚盤胞の着床率”を上げることがあげられ、タイムラプスがそれに貢献してくれると思います。
4月から不妊治療の一部が保険適用になりました(P23、保険適用特集を参照)。これに合わせてタイムラプスは先進医療として国から認められました。本来、保険診療と自由診療の組み合わせは混合診療とされ、保険が使えませんでしたが、先進医療と認められた治療との併用は、保険診療はそのままに、先進医療のみ自費で治療を受けることができます。タイムラプスは良い胚盤胞を育てるために、欠かせないものとなっています。おそらく同じ先進医療のなかでも、いちばん早く保険適用になる技術だと思います。
タイムラプスのメリット
①胚にやさしい
タイムラプスを使えばインキュベーターから出さずに胚を観察できるので、培養環境を向上させることができます。
②妊娠に至るまでの時間を短縮
正常に発育する胚を優先して移植することや、常にモニタリングしている胚に何か問題があった場合の早期の発見と対応は、安心な管理の実現と妊娠に至るまでの時間を短縮することができると言われています。
③胚の成長を確認できる
移植する胚の説明を受ける時に画像や動画を見ることができます。凍結保存した胚を融解して移植する時も過去の動画にアクセスして見ることができ、胚の選択に利用ることができます。
EmbryoScope を導入しているクリニックは全国100 カ所以上!
詳しくはこちらへ
https://www.vitrolife.com/ja-jp/patient/embryoscope-time-lapse-system/