女性にとって妊娠・出産にもっとも適した時期はいつなのでしょうか。
結婚している人はもちろん、これから結婚を考えている人も人生計画を立てるうえで事前に知っておきたいこと。浅田レディースクリニックの浅田義正先生に、妊娠や卵子について詳しいお話を伺いました。
ドクターアドバイス
●医学的にみたら22、23歳くらいがもっとも妊娠に適した年齢。
●昔と比べて平均寿命は延びても、閉経年齢はほぼ変わりません。
●30歳になったらAMH値を測って、人生計画を立てましょう。
医学的にみた「妊娠適齢期」はいつでしょうか?
時代が変わっても「妊娠・出産の適齢期」、いわゆる妊娠に適した年齢は昔からほとんど変わっていません。医学的にみて妊孕性が高いのは22、23歳くらいだといわれています。
ひと昔前だと感覚的にも「子どもは早く産んだほうがいい」という考えで、妊娠適齢期は20代前半くらいだったのでは。ライフスタイルや寿命を考えると現役を終えるのは50代。人生70年時代だったら下の子が成人するのは50歳前後と想定し、「30歳までに産み終えましょうね」というのが当たり前だったような気がしますね。
今は人生100年時代といわれ、ライフスタイルや女性の意識も大きく変わってきました。それでもできれば赤ちゃんは20代のうちに産んだほうがいいのではないかと思っています。妊娠しやすい年齢なので苦労せずに妊娠・出産ができます。35歳くらいになると目に見えて妊娠率が下がってくるので、少なくとも35歳までに妊娠を考えていただくといい。そこが妊娠適齢期のリミットということでしょうか。
女性の生き方や考え方が変わるのは望ましいことですが、医学が進歩しても生殖年齢だけは変えられません。外見が若々しくなり、体も鍛えていて健康。老化しているという自覚がない人が多いと思いますが、卵子の状況や状態はどんどん悪くなってきています。体の老化と卵子の老化は別物であるということを頭に入れておいていただきたいですね。
女性の平均寿命が延びていますが、同様に閉経年齢も延びているのですか?
現代は医学のめざましい進歩もあり、寿命が延びてきました。特に女性は長寿の人が多く、2021年の平均寿命は87・74歳。1850年は40歳代ですから、170年で倍以上になっているということです。
では、寿命とともに閉経年齢も延びるのでしょうか。170年前と比べてゆるやかに上昇はしていますが、実はほとんど変化はありません。寿命は延ばせても、生殖やホルモンに関して劇的に進化することはないといえるでしょう。今後平均寿命が100歳になったとしても、閉経年齢が70歳、80歳に延びるというのは生物学上考えられないと思いますね。
日本の不妊治療患者の年齢が高いのはなぜなのでしょうか
今、不妊治療を受けている人の平均年齢は40歳前後。当院でも2004年から2014年の10年間で初診の平均年齢が5歳も上がりました。これは非常に大きな変化といえます。
高齢になって不妊治療を受ける人が増えた理由の一つに、女性の結婚に対する意識の変化があるのではないでしょうか。昔は「大きくなったら何になりたい?」と聞くと「お嫁さん」と答える女の子が多かったと思いますが、今そう答える子はほとんどいないのでは。価値観が多様化し結婚がゴールという考え方がなくなってきました。
男性と同じようにバリバリ仕事をしたいけれど、キャリアか結婚・出産の二択しかなく、独身でいることを選ぶ人や結婚を遅らせる人も。また、今は地域のコミュニティがないから縁談話もない。女性個人の問題だけでなく、社会が晩婚化を招いてしまった面もあるのかもしれません。本当は産める機会があったのに、いつのまにか40代になって妊孕性がガクッと下がり、慌てて不妊治療をはじめるという人も多いのではないかと思います。
妊娠・出産を叶えるためには今から何をすればいいですか?
残っている卵子の数の目安と一致するのがAMH(アンチミューラリアンホルモン)なので、既婚・未婚にかかわらず、30歳になったらAMHの値を測っておいていただきたいですね。そこで一度、自分の卵子に関して意識をもっておく。卵子の老化+卵巣の予備能で今後の人生設計を考えてほしいと思います。
赤ちゃんは欲しいけれど、あと何年間かは仕事が大変ですぐには結婚・出産できないという人は、卵子が老化してしまう前に採って凍結しておくという卵子凍結という選択肢もあるのではないでしょうか。
がんに罹患しているなど医学的理由なら卵子を凍結できるのに、仕事の事情など社会的理由では奨励されないというような考え方はおかしいですよね。卵子の老化は医学的な理由であり、女性が仕事をもつことは社会が推奨してきたこと。私たちは技術をもっているので、それが患者さんにとって良いことなら積極的に協力していきたいと思っていますね。