二人目不妊治療で、立て続けに流産・死産という辛い経験は、精神的に追い詰められてしまいがちです。「最短・最速で妊娠したい」と訴える患者さんの今後の治療方針について、先生に伺ってみました。 

長島隆先生(花小金井レディースクリニック院長)北里大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学医学部産婦人科学教室入局。2009年に米国ベイラー医科大学病理学教室留学。 医療法人社団生新会木場公園クリニックにて副院長を務める。 
「産婦人科専門医として培った様々な知識や技術を生かしつつ、患者さまがふらっと気軽に立ち寄り、高度で丁寧な診療と治療を受けることのできる、温かみのあるクリニックを立ち上げたいと考え、花小金井に同クリニックを開業。

 

ちっちゃなクマさん(33歳) 二人目不妊についての悩みです。

第1子を2017年に自然妊娠で出産しました。 2019年より2人目妊活を始め、1年ほど自己タイミングを図るも授からず。 主人の精子運動率が40%台だったことが分かり、主人にもサプリ等を服用してもらい、60〜70%台まで回復しました。2回人工授精を受けるも妊娠に至らずステップアップ。30個の卵子が採卵され、8個の卵子が体外受精で胚盤胞となりました。その後に凍結融解胚移植を受け、1つ目は妊娠7週で流産、2つ目は妊娠16週で胎児水腫となり死産に至りました。

精神的にかなり辛いですが、早く授かりたい気持ちも強くあります。

残り6個を凍結していますが、32歳の同じタイミングで採卵され胚盤胞となった受精卵で、また流産・死産するのではないかと移植をためらっています。胎児水腫は染色体の突然変異で生じると聞きますが、また染色体異常の受精卵ではないかと思ってしまいます。本音は自然妊娠希望ですが、これだけ授からないと精神的につらいです。

最短で妊娠、出産するには、どうしたら良いでしょうか?

 

質問内容を見て一番気になる部分を教えていただけますか?

まず第一子を自然妊娠されているので、続発性不妊症に該当します。よって、現代医学で解明できない不妊原因を有している可能性のある、原発性不妊症(一人もお子さんを授かってない方)よりも比較的妊娠しやすく、まだ妊娠できる可能性は大いにあります。

一方で、質問内容に書かれた御主人の初回精液検査所見は、相談者様がお考えのように、あまり良い状態ではありませんでした。精子の運動率40%は、WHOの正常精液基準(精液量、総精子数、精子濃度、運動率、直進運動率、正常形態率の五つのファクター)を満たしています。

しかし、タイミング法で妊娠するためには50%以上の運動率が必要であることもWHOは提唱しておりますので、軽度の精子無力症に該当すると思われます。そういった意味では、サプリメントを服用されて運動率が回復したのは、結果的に正しい選択をされたと思います。

過去に私が行ってきた約4,000件の人工授精のデータを解析した結果、精子濃度と運動率がWHOの正常精液基準で特に重要なファクターであるということが分かっています。この2つのファクターの数値が高いほど、妊娠率も連動して高くなっていきます。体外受精の場合も同様のことが言えますので、このままサプリメントの服用を継続された方が良いと思います。

胎児水腫とはどんな疾患でしょうか?また原因はあるのでしょうか?

胎児水腫とは、胎児の胸部や腹部に液体が溜まり(胸水、腹水)、さらに症状が進行すると胎児の全身がむくんでくる状態(浮腫)を言います。

胎児水腫はその原因によって大きく2つに分類されます。

  • 免疫性胎児水腫  

母体と胎児の血液型の不適合により起きます。母体と胎児に血液型の不適合が存在すると、胎児の血液中にある赤血球が破壊され胎児が貧血になります。そして胎児の血管内圧が上昇することで、血管内から血管外へ体液の漏出が生じる結果、胎児水腫へと発展します。代表的な疾患として、Rh(D)不適合妊娠が挙げられます。

  • 非免疫性胎児水腫   

免疫性胎児水腫以外の原因によるものを非免疫性胎児水腫と言います。その原因には、相談者様の心配されている染色体異常のほか、胎児の先天的な心奇形や心不全、胸部や腹部の先天奇形、乳糜胸・腹水、ウイルス感染などがあります。しかし、原因不明の場合も多くあります。

一方で胎児水腫に関しましては、35歳以上の方に200人〜300人に1人の割合で、21番染色体の数的異常であるダウン症候群が胎児に発生します。35歳未満の方ではダウン症候群の発生率が低いので、まだ相談者様の年齢では、凍結保存された受精卵でダウン症候群の可能性が高いとは言えません。

一方で、ダウン症候群のお子さんをお持ちのお母さんの年齢は、一般的に35歳未満が多いとされています。

その理由は、35歳以上の高齢で妊娠された方の多くが出生前診断を受けられ、胎児がダウン症候群と判明した場合、その多くの方が妊娠の継続を断念するからと考えられています。その反面、35歳未満の高齢でない方は、あまり出生前診断を受けられないため、相対的にこの様な結果が出てくるのだと考えられています。

今後の治療について何を選択すれば良いか迷っていらっしゃるようです。先生のお考えをお聞かせください。

どうしてもご心配で経済的にまだ大丈夫でしたら、日本産科婦人科学会の認可を受けて着床前受精卵染色体検査(PGT-A)の多施設共同研究を行っている不妊治療医療機関で、再度、体外受精とPGT-Aを受けられたら如何でしょうか?

死産も含めて2回、妊娠中にお子様を失っていらっしゃるので、反復流産に該当しPGT-Aの対象者ではあります。

33歳という年齢からも、体外受精で得られる受精卵の多くは染色体異常ではないと考えられるため、PGT-Aにより無用な胚移植は避けられると思います。凍結している受精卵を一度融解してPGT-Aで検査する方法もありますが、この場合、相談者様が心配されているように、やはり複数回の凍結融解を受精卵に対して行うため、受精卵へのダメージはある程度発生すると考えられます。

32歳と33歳とではあまり受精卵に染色体異常が発生する頻度は変わらないので、凍結している受精卵を検査する場合にはその凍結融解によるダメージが高いと、再び体外受精を受けてPGT-Aで検査する場合と比較して、逆に時間と費用がかかると思われます。

よって、PGT-Aを行う施設に対して凍結融解による受精卵へのダメージがどの位あるのか、質問された方が良いでしょう。施設間で成績に差があると思われるからです。

一方、卵子の採卵数30個に対して8個の胚盤胞が得られたとのことですが、その胚盤胞率が低いのが気になるところです。提示された情報が少ないので断定的なことは言えませんが、胚盤胞率が低い背景には、多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害が背景にあるのではないかと推定されます。

なぜなら施設間により異なりますが、一般的に採卵された卵子の3分の1が胚盤胞へと成長しますが、多嚢胞性卵巣症候群などの排卵障害がある場合、採卵された卵子の未熟性により、採卵された卵子の4分の1しか胚盤胞に至らない場合が多いからです。推察の通りとすれば、多嚢胞性卵巣症候群にはその病因として、糖尿病を含む耐糖能異常や脂質異常症などの成人病としての基礎疾患を有している方がいるため、これらの疾患がある場合、その治療を行うことで獲得胚盤胞数の上昇を望めるかもしれません。

脂の乗った魚を好み、穀物を好む日本人は(マグロのにぎり寿司など)、その遺伝的素因のほか食文化の影響により、欧米人と比較して糖尿病などの糖質異常症をお持ちの方が多くいらっしゃいます。

相談者さまが糖尿病には至らないまでもその前段階である耐糖能異常である場合、排卵障害が発生する可能性があるため、一度、お近くの医療機関でインスリンインデックスやHOMA-Rなどの項目を含む、糖負荷検査を受けてみることをお勧めします。

当院の不妊患者様の場合、脂質異常症をお持ちの方は脂質を下げるスタチン製剤(リピトールなど)を服用していただき、随時血糖が100mg/dl以上の場合では糖負荷検査を受けていただき、その上で耐糖能異常など糖質異常症をお持ちの場合は、ビグアナイド系血糖降下剤(メトホルミンなど)を服用していただいております。これらの治療を行うことで、基礎疾患をお持ちの方は採卵数と胚盤胞数が上昇することが既に過去のデータで明らかとなっております。

糖質異常症や脂質異常症は、妊娠された場合にも妊婦やその胎児に悪影響を及ぼします。一度、検査を受けられては如何でしょうか?

 

 

先生からのメッセージ

不妊治療を行っている医師は、患者様のために可能な限りの知識と技術を動員して、その妊娠率を上げようと努力しています。しかし、不妊治療を受けられている方はお気づきだと思いますが、最終的にその患者様が妊娠という結果を得られるか否かは、未だ不妊治療の成績が他疾患の治療法のように高くない現状において、ある意味、その患者様の運も関係してきます。

よって、不妊治療は肉体的にも精神的にもかなり辛い治療です。

他疾患の治療法のように高い成功率ではないため、なかなか妊娠という結果を得られない場合が多々あります。その場合、「妊娠するかもしれない?でもダメだった…。」などの大きな感情の起伏が何度も襲ってくるため、長期に渡る治療でメンタルのバランスを崩される方も多くいらっしゃいます。 よって、信頼できる心理カウンセラーのドクターに相談し寄り添ってもらうことも、場合により必要なことと思われます。

周囲の人たちから受ける「妊娠」という期待のプレッシャーで本当の自分を見失ったり、治療によるプレッシャーで妊娠後の生活を考えることができなくなり悩まれたりする方も多く見られます。

妊娠は、あくまでも人生をかけて取り組む「育児」のスタートであり、「ゴール」ではありません。このことを今一度、認識した上でご自身が納得のいく治療を受けられることも大切かもしれません。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。